第70話 最速の移動手段
三滝原駅から一番近い中継スポットに転移する。例の変装スーツを身につける。大魔道士が残した資料によると、この神霊布自体にかなりの防御力がある。なおかつレベルを継承したことにより身体の強度がとてつもなく上昇しているので、銃弾を防いでくれると信じたい。
この前の動画でこのスーツについていろいろ書かれていたから厚手の単色のコートを買おうとしたのだが、意外と高いんだよなあれ。バイトもしていない高校生にはちょっと手が出し難い。いや、もし買えていたとしても今回は防御力を重視したいからどちらにせよ使わなかっただろう。
スマホで駅の位置を確認する。やはり目的の駅はここからかなり遠い。電車やバスなどの交通機関を使うよりも風魔法で足場を作って空を走ったほうが速い。だがそれよりもさらに速い方法がある。中継地点のビルから風魔法で足場を作って高度を上げていく。
この前の工場の爆発事故のあとにもっと早く移動する手段をずっと考えていた。そしてこれがその答えだ。
「ウインドショット!」
中級風魔法のウインドショット。この魔法は風の弾丸を撃ち出す魔法だ。この魔法の特徴は目で視認することができないことと、速度が速いところにある。目に見えない高速の風の弾丸、これを避けるのは至難の業だが、その分威力はそれほど強くない。
そしてその特徴を利用し、最大限まで魔力を込めて
「ぬおおおおおおお!」
ものすごい勢いで身体が吹き飛ばされる。スピードがゼロの状態から一気に飛行機並みのスピードに加速する。身体能力強化魔法を使って強化された身体でも風圧で潰れてしまいそうな錯覚に陥った。
このスピードなら空を走る何倍ものスピードで移動することができる。欠点としては方向転換ができないことと急に止まることができないことだ。
実は一度この移動方法を異世界で試してみたのだが、あまりに速すぎて目的地へ向かう道なんて一瞬で見失った。そのうえ低い高度で試してしまったため、急な方向転換ができず、山に激突してしまった。
景色も楽しむ余裕なんてまったくないし、強化した身体でも痛いし、よっぽどのことがなければもうこの移動方法は使わないと思っていた。だが今回はそんなことを気にしている場合ではない。高度もかなりあげたしビルなどにはぶつからないと信じたい。
「ぬおおおおおおお!」
スマホで目的地の方向を確認し、方角を調整しながら何度も風魔法を自分に撃ち目的地へ急いだ。
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「状況はどうなっている?」
「予定通りだ、問題ない。長い年月をかけて計画したかいがあったな」
「今政府と交渉をしているところだ。我らの使命は留置所に囚われている仲間と我らが指導者の解放!」
「ああ、これだけの数の人質をとれば間違いなく国も動く! そしてニュースやネットでも話題は俺たちのことばかりだ。我らが教団の教えを日本中に示すにはいい機会となる」
そう、今回の計画は完璧だ。日曜日の朝、サラリーマンが少なく家族連れの多い時間帯を狙い駅を占拠する。三滝原駅はこの辺りではそこそこ大きな駅で、この時間帯でもかなりの数の人質を確保できた。
先に駅構内を制圧し、シャッターを下ろし人質を確保する。そしてこの駅に到着した電車一台を占拠し、ドアを開けずに乗客を車内に閉じ込める。人質を電車内と駅構内の2箇所に分けることにより警察どもの突入を困難にさせる。
今のところは威嚇射撃で発砲しただけで、人質には危害を加えていないが、それも時間の問題だ。どうせ国は今の段階ではこちらの要求を受ける気など微塵もないだろう。こちらの本気を見せるためには多少の犠牲者は出さなければならない。こちらは長期戦になることも覚悟しているし、すでに全員が死をも覚悟している!
なあに、これだけの人質がいれば脅しのために何人か殺しても問題ない。適当に我らに反抗したやつを見せしめに殺してやろう。我らの教えこそがすべて、我らの指導者こそが神なのだ!
「……時間だな。やはり国からすぐに許可はおりないか」
「予定通りだな。まあ半日も経たずに要求に屈するわけはないと思ってたさ」
「それでは非常に残念だが、予定通り人質をひとり殺すとしよう。見せしめのためにも若い子供にしておけ。平和ボケしたこの国に我らの本気を見せてやれば、国も我々の要求を呑むことになるだろう!」
「おう、それじゃあ今から選んでくるとするか。少しだけだが気が引けるな……」
「案ずるな、異教徒どもが死んだところでなにも問題がない。それにすでに我らは死をも覚悟し、人質全員を殺す覚悟もあることを忘れるな」
「……それもそうだな。すべては我らが神のために!」
「どれでもいいから決まったらここに連れてこい。我々の本気を見せるために撮影をして世界に発信するぞ。苦しませずに逝かせてやることだけが、我らにできる限りの慈悲となる」
「了解した。それでは行ってくる」
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