第69話 臨時ニュース


「この人はマサヨシ殿だ。今回の討伐戦で一番の功労者ですよ」


「ほう、若いのにやるじゃねえかにいちゃん! それで何を解体してほしいんだ? まさか変異種か?」


 解体所にいたのはガチムチのおっさんだった。しかも大きな中華包丁のような得物を右手に持ち、そしてその衣服にはかなりの量の返り血を浴びていた。……いや解体していたのなら当たり前か。見た目は少し怖いけど……


「変異種とドラゴンの素材をお願いします」


 収納魔法から変異種とドラゴンの鱗などの素材を取り出す。変異種の方はオリジナルのやつと3体分は残しておき、合計15体。ドラゴンは処理をしきれていなかった皮がまだ付いたままの鱗や爪を取り出した。ゲームでもそうだが、なんとなく素材は全種類3つくらいは残しておくんだよね。


「うお、収納魔法かよ! ギルマスと同じで珍しい魔法が使えんだな! てかドラゴンかよ!!」


「……いえ、私の収納魔法ではこんな量は入らないですね。せいぜいこの変異種が10体程度分でしょうか」


 さすが大魔道士の力だな。これに加えてまだドラゴンの頭や内臓、大魔道士の家にあった武器や防具がまだまだ入っている。


「ドラゴンの鱗のほうはまだ処理が途中なんですよね。でもドラゴンを倒してから収納魔法ですぐにしまったのでそれほど劣化はしていないと思います」


「すげ〜な、ドラゴンの素材なんて初めて見たぞ。ほう、さすがの硬度だ。こりゃいい防具にも武器にもなるぞ」


「鍛冶屋に卸してもいいですし、王都の貴族に売ってもいいですね。おっとマサヨシ殿の前で失礼しました」


「いえいえ、俺には売る伝手がないので買い取ってくれるだけで本当に助かります」


「マサヨシ殿、ひとつお願いがあります。可能でしたら変異種のオリジナルの個体を売っていただくことは可能でしょうか?」


「オリジナルですか。 魔法石以外であれば大丈夫ですよ」


「ありがとうございます! 今回の変異種は今までの変異種とはだいぶ異なっていたので、オリジナルの個体と他の変異種を研究して次回以降に活かせればと思います」


 なるほど、確かにギルダートさんに任せたほうが有意義に使ってくれそうだな。魔法石があればこちらとしても問題ない。


「はい、お任せしますね」


「本当にありがとうございます! それでは大変お手数ですが、1週間後にもう一度こちらまで来ていただけますか。それまでに買取査定を終わらせて魔法石も可能な限り集めておきますので」


「はい、よろしくお願いします!」


 それからギルダートさんに他の人への紹介状を書いてもらい、討伐部隊の打ち上げを丁重にお断りして元の世界に帰ってきた。本当は打ち上げにも参加したいところであったが、そろそろ帰らなくてはいけない時間だ。なかなか時間に不自由なのが辛いところだよな。






 さて昨日は無事に変異種の討伐も終わったし、日曜日の今日は何をしようかな。予定していた通り海の近くの街に行って異世界の海産物を食べ歩くとするかな。


 テレビでニュースを見ながら朝ごはんを食べる。母さんはまだ隣の部屋で寝ている。母さんはいつも夜が遅いので、今日のような休みの日はゆっくりと起きてくる。最近の土日はだいたい異世界に行っているので、母さんの分の朝ごはんも作っておいて、遊びに行ってくると置き手紙をしてから出かけている。


 ちなみに今日の朝ご飯はご飯、味噌汁、納豆、卵焼き、冷奴と和風だ。一時は楽だからという理由でパンと牛乳という時期もあったのだが、俺も母さんも和食のほうがいいという結論となり、結局は毎朝和食を作っている。


 朝ごはんも食べ終わって洗い物もしたし、置き手紙もしてある。さあ、異世界へ行くとするか。テレビのスイッチを切ろうとする。もう2週間前の地震と工場の爆発事件のことに関してはほとんどやっていない。結局社長は逮捕されて、従業員は全員別会社にそのまま異動したと言ってたな。


 今日のニュースも特に大きな事件もないようだな。うん、平和が一番だ。


 ピンピロリン、ピンピロリン


 おっ、久しぶりにこの音を聞いたな。確か結構な臨時ニュースのときに鳴っていた音だ。


『たった今入ってきたニュースです。本日朝8時ごろ、三滝原駅に武装した集団が侵入し、駅構内にいた乗客を人質に取って立て篭もりました』


「はあああああああ!!」


 思わず大声をあげてしまった。なに、このご時世に立て篭もり!? 武装した集団、テロか!?


『犯人グループについては現在調査中であるとともに、犯人グループの要求を確認している最中です。


 武装した犯人グループは拳銃を発砲したとの情報も入っております。付近にいる方は三滝原駅に絶対に近付かないようにお願い致します。また、現在次の範囲にいる方は一時的に避難をお願い致します』


 画面が切り替わり、地図が映る。三滝原駅の周りの周囲3駅近くが赤い円で囲まれている。慌ててスマホで今のニュースの詳細を調べてみる。


 どうやらテレビでやっていたニュースは大ニュースになっているようだ。誰かが撮った犯人グループの写真を見てみると、黒いニット帽のようなもので顔を隠し、黒い服に防弾チョッキのようなベストを着ている。更には拳銃どころかマシンガンまで持っていた。


 おいおい冗談だろ、ここは本当に日本だよな!? どう見てもヤバいやつらだ。世界のニュースでしか見たこともないようなテロ集団と同じような格好をしている。


 三滝原駅……三滝原駅……これだ。ここから3県分くらい離れている。しかしどうする、俺が行って役に立てるものなのか? そもそも大魔道士の障壁魔法で銃撃を防げるのか? この障壁は物理攻撃を防ぐことはできるが、拳銃やマシンガンまで防げるとは限らない。


 ちくしょう、相変わらずビビっているな、俺は。ドラゴンなんかよりも銃を持った人間のほうがよっぽど怖い……


 だけど見て見ぬふりはしたくない。大魔道士の力を継承したんだろ。あの大魔道士の性格は微妙だったかもしれないが、その力で大勢の人を助けてきた。ならその力を継承した俺も行かなければならない!

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