第68話 解体所
「それでは今回の報酬の件についてお話ししましょうか」
報酬か……勝手についてきただけだし、冒険者や騎士団にも登録してないし、特に必要はないんだけどな。あっ、でもあの魔法石だけは欲しいな。あれだけは使い切ったあとなのか、大魔道士の家にはなかったんだ。
「それでしたらオリジナルの変異種から得ることができた魔法石をいただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん。そもそも、討伐中に倒した素材などは、すべて倒した者に所有権があります。大勢で倒した魔物の素材につきましては倒した者達の貢献度によって分配が決まります」
そりゃそうか。全部均等に分配だと多く倒した者から間違いなく不満が出るだろうな。
「でしたら変異種の素材だけであとは必要ありません。そもそも俺は冒険者にも騎士団にも所属していないですからね」
「いえ、今回の変異種につきましては、我々だけでの討伐は難しかったと言わざるを得ません。もし討伐できたとしても、それこそ大勢の冒険者が犠牲になってしまったに違いありません。
幸いといいますか、今回は小さいとはいえあれだけの数の変異種を倒したわけですし、私が倒した分だけでも前回よりも多くの報酬を討伐部隊に渡すことができますから、マサヨシ殿にも十分な報酬を支払う余裕がございます。
冒険者にも騎士団にも所属してないことを気にされておりましたが、そこについては問題ございません。ただ、もしも次回も参加していただけるのであれば、事前にお伝えいただけると非常に助かります」
確かにこっそりついていくのはあまりよくなかったかもな。下手をしたら盗賊と間違われていてもおかしくない。他の街だと許可されない可能性も高いが、次回からは事前にちゃんと伝えるようにしよう。
そして謙虚すぎるのもよくないんだろうけど、本当にお金はもういらないし、変異種の素材も山ほどある。どちらかというと他のお願いをしたい。
「でしたらお金はいらないので、いくつかお願いがあります。まず変異種やドラゴンの素材がかなりあるのですが、この一部を他の人にはバレないように買い取ってもらうことは可能でしょうか?」
「ドラゴンの素材ですか! もちろん可能です。この後すぐに口の堅い素材買取係を紹介しますよ。いやあ、むしろこちらからお願いしたいくらいのお話です。ドラゴンの素材が市場に出るなんて何年ぶりでしょうか! 久しぶりに市場が賑わいますよ!」
「ありがとうございます。次のお願いなんですけれど、他の街で今回みたいな討伐戦があった場合に冒険者ギルドに説明が難しいので、紹介状のようなものを書いていただくことは可能でしょうか?」
「ええ、お安い御用です。この後すぐに書かせていただきますよ。自分で言うのもなんですが、大魔道士様の子孫ということもありまして、そこそこ顔は広いかと思います。付近の街の冒険者ギルド用と、商業ギルドや鍛冶ギルドへの紹介状を用意させていただきますね」
おお、それはすごい! さすが若くして冒険者ギルドマスターになったギルダートさんだ。鍛冶とかは結構興味があるな。いや、大魔道士が残してくれた武器でも十分すぎるほど強いんだけど、やはり異世界の鍛冶といえば日本刀を作ってみたいという気持ちもある。
「ありがとうございます、とても助かります! 最後のお願いなんですけれど、この魔法石を集めてもらうことは可能でしょうか? もちろんお金は払いますので」
「魔法石ですか。そうですね……今回の変異種から出てきた大きさくらいの魔法石は入手が非常に難しいのですが、小さい魔法石なら多少は入手できるかと思います」
「本当ですか! ぜひお願いします」
大魔道士の家に遺っていた資料の中に魔法石の説明があった。確かその資料によると魔法石にはその石の中に膨大な魔力を内包しており、魔道具を作るための素材になったり、他にもいろいろと使い道があるらしい。
大魔道士はいろいろと魔道具を作っていたから、おそらくすでに使い切ったのだろう、もう大魔道士の家に魔法石は残っていなかった。
「承知しました。それだけでは今回のマサヨシ殿の働きには到底足りないので、買取の査定金額に上乗せしておきますね」
「ありがとうございます。でも、お金はそれほど必要とはしていないので、他の冒険者や騎士団の人にもしっかり報酬が行き渡るようにお願いしますね」
「もちろんですよ。それにドラゴンの素材を売っていただけるということですので、まったく問題ありません。それでは冒険者ギルドの裏にある解体所へ向かいましょうか」
冒険者ギルドの裏にあった大きな建物に移動する。中には様々な魔物の毛皮や牙や爪などの素材が所狭しと置かれてあった。それぞれに番号の書いた紙が貼ってあったので、他の冒険者から解体を依頼されたものだろうか。
「ギルダートさん、こんな時にどうしたんだ? 討伐部隊との打ち上げに出ていたんじゃないのか?」
「このあと一仕事したらすぐに行きますよ。今回はひとりの犠牲者もなく、みな無事に帰ってこられましたからね、さぞ美味い酒が飲めるでしょう!」
「ああ、聞いているぞ。すげえじゃねえか! ここにいる他のやつらも全員飲みに行っちまってるぞ」
「だと思いましたよ。というかこういう時くらい、あなたも飲んで騒いでもらってもいいんですからね」
「はっ、俺はこの仕事をしている時が一番楽しいからいいんだよ。それでそっちの人は初めて見る顔だが?」
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