第67話 魔法石


 変異種の亡骸をすべて収納魔法で回収し、リリスさん達のところへ戻る。どうやら少し前にこっちの戦いも終わったようだ。


「戻りました!」


「あっ、お兄ちゃん!」


「こっちもなんとか片付いたぜ!」


「マサヨシ殿と申されましたね、おかげさまでこちらは無事に犠牲者を出すことなく、変異種を倒すことができました。森の奥に潜んでいた変異種のほうはどうでしたか?」


「ええ、俺が見つけられる範囲の変異種はすべて倒しました。それで森の一番奥で変異種のオリジナルと思われる個体を倒しました。それがこれです」


 収納魔法から変異種のオリジナルだと思われる個体を取り出す。もう収納魔法を見せるのも今更か。


「こ、これは収納魔法! 私の他に使える人を初めて見ましたよ」


「……初めて見た」


 おお、ギルダートさんも収納魔法を使えるのか。確かそうとう腕のある魔法使いにしか使えない魔法と聞いていた。結局ギルダートさんの戦っているところは見れていなかったが、近接戦闘の他に魔法もかなり使えるのか。


「……マサヨシ殿、この変異種の胸を切り開いてもよろしいでしょうか?」


「胸? はい、大丈夫ですけど」


 なんでだろう? ギルダートさんの言っている意味がよくわからない。


 後ろで見ているとギルダートさんは小型のナイフを取り出し、器用に変異種の胸を切り開いていく。さすが元冒険者、解体作業などお手のものということか。


 そして解体を進めていくと、変異種の胸の中心に拳大の黒い宝石のようなものがあった。


「えっと、これはなんですか?」


「これは魔法石と呼ばれているものです。すべての変異種は胸にこれを宿しております。稀に魔力が溜まっている場所に住む魔物から小さな魔法石が取れることもございます。


 魔法石を持っていたということは、この個体が変異種のオリジナルの個体であることは間違いないでしょう。先程こちらで倒した変異種を何体か解体してみたところ、すべて魔法石は持っておりませんでした」


 おお、この個体が変異種と断定できたのはありがたい。気配察知スキルでこの個体だけ少し気配が違ったからと説明しても納得してもらえるかは微妙なところでもあったからな。そしてこれが魔法石か、確か大魔道士が残していた資料によると、いろいろな使い道があるらしい。


「これでこの変異種がこれ以上増えることはないでしょう。あとはこの森に残っている変異種をすべて探し出して倒せばこの討伐戦は完了ですね」


「一応このあたりにいる変異種はほとんど倒したと思うのですが、まだ多少は生き残りがいるかもしれないので、ちゃんと確認はしておいたほうがいいと思います」


「……ほとんどですか。本当にあなたは何者なのでしょうね。それでは一度今の状況を他の者達に伝えてくるので、ドレインさんと万緑の猫のみなさんは変異種の残りを探してもらってもよろしいでしょうか? 私もみなに伝え次第すぐに戻ります」


「おう!」


「了解した」


「残りの変異種の数は少なく、マサヨシ殿の強化魔法が残っているとはいえ、油断のないようにお願いしますね。せっかくここまで重傷者なしでくることができましたので、最後まで気を引き締めていきましょう!」


「「「おう!」」」


「それでは俺も残りの変異種を探してきますね」


「マサヨシ殿、この度のご協力、誠に感謝致します!」




 その後、変異種の残りを探して森の中を走り回ったが、結局は変異種の生き残りは一体だけしか発見できなかった。そしてどうやら変異種のオリジナルを倒したとしても、残りの変異種が消滅することはないようだ。


 気配察知スキルも森の中すべてを一度で確認できるわけではないから、抜けが出てしまうのは仕方がないな。走り回って少しでも見落とす可能性を減らす方法しかない。


 2時間ほど森の中を走り回った後、ギルダートさんとリリスさん達、ドレインさんと合流してブラッドリーの街へ戻った。






「それでマサヨシ殿は何者なのでしょうか? なぜ我々に手を貸してくれたのか、もし差し支えなければ教えていただいてもよろしいでしょうか?」


 冒険者ギルドに戻り、ギルド長の部屋に通された。ここにはギルダートさんとその補佐の人だけしかいない。他の討伐部隊に参加していた人達はすでに今回の討伐戦の打ち上げをしている。


「俺はここからとても遠くにある国から旅をしてきた旅人です。実はギルダートさんが大魔道士様の子孫ということを聞きましてこの街にきました。俺は大魔道士様に大きな借りがありまして、もし大魔道士様の子孫が困っていたら力になりたいと思っていました。


 ちょうど知り合いであるリリスさん達も変異種の討伐部隊に参加するということを知ったので、後ろからこっそり援護をしていたというわけです」


「……確かに私はハーディ様の子孫ではあります。万緑の猫のみなさんと知り合いということですが、もしかして以前にドラゴンを倒したのもマサヨシ殿ということですか」


 ……まあそこもバレちゃうよね。


「そうですね。できればそのことについては、公表しないでもらえると非常に助かります」


「ええ、それはもちろん構いませんが……冒険者としての名声は必要ないということでしょうか?」


「はい。冒険者に登録しないことにも理由があります。実は諸事情で長時間同じ街に止まることができないんです。冒険者の高ランクになるといろいろと義務も発生すると聞いておりますし」


 この世界の冒険者のシステムだと緊急時には強制で召集される。そのため常に所在の報告義務があるそうだ。確かに緊急時に高ランク冒険者がどこにいるかわからないと大問題だもんな。このあたりはリリスさん達からすでに聞いている。


「……なるほど事情はわかりました。本当はマサヨシ殿のような方にこそ冒険者となっていただきたいのですが、事情があるのならば仕方ありませんね。もし冒険者になるのであれば、いろいろとご要望は伺いますので、ぜひご相談ください」


「はい、わかりました」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る