第66話 変異種の能力


「なっ、君は一体どこから!? いや、今はドレイン殿を助けなければ!」


「あっ、彼なら大丈夫です」


「グルウ!?」


 ドレインさんに危機察知スキルが反応した瞬間に彼に障壁魔法を3重に張ったが、あの狼の変異種の個々の力はそれほど強くはないらしく、大魔道士の障壁魔法は1枚も破られていない。


 警戒心を強めたのか、狼の変異種はドレインさんから距離を取ってこちらを睨んでいる。一斉に攻めてこないのはこちらとしてもとても助かる。


「し、死ぬかと思ったぜ……」


「ドレイン殿! 無事だったのですね!」


「あ、ああ。もう駄目かと思った瞬間に、障壁が現れてやつらの攻撃を防いでくれた。あんたの魔法か、助かったぜ」


「ええ、無事でなによりです。それでギルダートさん、変異種については詳しくないのですが、あいつらはどうすればいいのですか?」


「私もあのような変異種は初めて見ました。推測になりますが、あの変異種は数を増やすことができるのかもしれません。姿形や大きさもすべての個体が同じのようですので、あの中にオリジナルの個体がおり、なんらかの条件を満たした場合に分裂、もしくは複製されるといったところでしょうか。


 そしてさらに最悪な状況は、あの変異種それぞれで増えることが可能な場合ですね。もしもそんなことが可能ならその数は倍々で増えていくことになるし、一体でもとり逃せばまたそこから数が増えていきます」

 

 なるほど、さすが元とはいえA級冒険者、その観察眼は並じゃない。というかこの状況でよくそこまでわかるな。大魔道士の力があっても、そういった知識はわからない。


「わかりました。最悪の状況に備えて、あの変異種を一匹残らず倒さないといけないということですね」


「ええ……個々の力はそれほど強くないことがせめてもの救いでしょうか。とはいえ数が非常に多いのでひとりで突っ込むと先程のようになってしまいますので注意が必要です」


「……面目ない」


 ドレインさんが申し訳なさそうにしている。速さのありそうな敵と大剣は相性悪そうだし、仕方ない気もする。


「それでマサヨシ、どうするんだ? 俺たちは何をすればいい?」


「私達はマサヨシ様に従いますわ」


「……あなたが何者か存じあげませんが、どうか私達に力を貸してください。個々の力が弱いとはいえ、B級冒険者の力を借りるとなると、かなりの被害が出ることが予想されます」


「ええ、もちろんです。自分のことについては後でお伝えします」


 さてどうしようかな。俺がこいつらを倒してもいいのだが、その間にに逃げられるのはまずい。


「では俺が援護するのでこの変異種達の相手を任せても大丈夫でしょうか? 俺は奥に潜んでいる変異種を倒しに行ってきますね」


「……やはりオリジナルか数体は森の奥に潜んでいるか。この変異種は知恵も働くようですね。しかし我々だけで倒せるかどうか……」


「フィジカルブースト、プロテクション!」


 身体能力強化魔法と硬化魔法の上級魔法を6人にかける。魔法使いであるルルネさん以外は全員近接戦闘になるし、この強化魔法で余裕を持って戦えるようになるはずだ。何かあって危機察知スキルが反応したらすぐに戻ってくれば大丈夫だろう。


「……な、なんだこの強化魔法は力が溢れてくる!」


「はは、相変わらず規格外だな、マサヨシ兄さんの魔法は」


「……私の強化魔法とは比べ物になりませんわね。もっと精進しなければ!」


「何かあったらすぐに戻ります、それでは任せました!」


 森の奥にいる変異種を気配察知であとを追う。ここにいる変異種達は俺を追ってはこないようだ。


「……一体彼は何者なんだ?」


「本当に何者なんだろうな、マサヨシは?」


「お兄ちゃんはお兄ちゃんだニャ!」


「ほら、今はそんなことを気にしている暇はないだろ! マサヨシ兄さんに任されたんだ、ちゃんと期待には応えるぞ!」


「そうだな。今ならドラゴン相手でも負ける気がしねえよ!」


「ほら、リリスの悪い癖ですわよ。常に冷静に油断せずにいきますわよ」


「おっと、悪い。そんじゃ、いくとするか!」






 ギルダートさん達と別れて気配察知スキルで森の奥にいる変異種を追う。それぞれの気配がまったく同じなので気配をたどるのは簡単だ。しかし変異種も用心深いのか、かなりの数がところどころに散らばっている。


「見つけた!」


 また一匹変異種を発見した。


「ガアァ!」


 ザンッ


 襲ってくる変異種を剣で斬り捨てる。念のため変異種の亡骸は収納魔法で収納しておく。


「次だ!」


 同様に変異種を探しては斬っていく。いくら人に害しか与えない変異種とはいえども、やはり命を奪うという行為は慣れないものだ。


 今のところリリスさん達のほうも問題なさそうに思える。向こうのほうの変異種の気配が次々と消えていく。こちらも残りはあと少しだ。あれ、残りの変異種達は10体ほどで固まっている。もしかしてこれが本体だったりするのか?




「……当たりっぽいな」


 森の最深部にいた残りの変異種達。変異種達の一番奥にいる個体は、姿形は同じだが明らかに他の個体と気配が異なっていた。そしてその一体を守るように残りの変異種達が取り囲んでいる。


 どうやらギルダートさんが言っていた説の最初のほうが正しかったようだ。少なくともこのオリジナルの個体を倒せば、これ以上変異種が増えることはない。


「いくぞ、サンダーストーム!」


 雷中級魔法の範囲攻撃魔法を離れたところから撃つ。いくら大魔道士の力で余裕で勝てそうだからといって、狼型の変異種10体と近接戦闘するのは普通に怖い……


 バリバリバリバリ


 よし、隊列の崩れた今がチャンスだ!更に追撃をと思ったのだが、すでに立ち上がることができたのはオリジナルの変異種しかいなかった。


 身体能力強化魔法をかけた脚力で、一瞬でオリジナルの変異種に接近し、一刀両断する。


「ふう〜こっちは終わったか。むしろこの後のギルダートさんへの説明のほうが大変な気がするんだよな」

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