第65話 変異種の出現
「それでは討伐を再開する!」
休憩が終わり、先程と同じ隊列で討伐が再開された。俺も先程と同じように討伐部隊の後ろを追跡する。
「……くそ、さっきよりも魔物達が強くなってないか!?」
「ギルダート隊長の話を聞いていなかったのかよ! 変異種に近付けば近付くほど魔物が凶暴化していくって言っていただろ!」
「それにしても一気に強くなりすぎだっての! C級冒険者で3人パーティの俺らには厳しくなってきたぞ!」
「そうでなくてもC級に上がってから日が浅いってのによ!」
キンッ
「やべっ!! 剣が折れちま……」
「ガゥガゥ!」
「ぎゃあああああああ!!」
「おい、マーク! やべえ、魔物はこっちで引きつける、早く回復魔法を!」
「くそ、喉を噛まれていやがる! 俺の回復魔法じゃ治せねえ!」
「なんだと!? 早く他のパーティに救援を!」
「駄目だ、傷が深すぎる! こんな傷を治せるやつなんているわけが……」
「援護します、ハイヒール!」
「は!? あ、あんたいったいどこから!?」
「……うう、痛ってえ」
「マーク! まさか、傷が治っていやがる!?」
「すげえ、なんて魔法だ! すまねえ、あんたのおかげで助かった!」
「いえ、大丈夫です。魔物もだいぶ強くなってきているようなので無理はしないでくださいね」
「ああ、本当に助かった! あとで礼は必ずするからな!」
「ええ、くれぐれも気をつけてくださいね」
ふう〜さっきのマークさんという人も危機察知スキルによるとなかなか危ない状態だったな。これで冒険者を回復したのは2人目だ。ギルダートさんの話によると森の中心部に進み、変異種に近付けば近付くほど魔物は強く凶暴になっていくらしい。
もしかしたら今のように回復魔法を使う機会はこれから増えていくかもしれない。即死しない限りは大魔道士の回復魔法で傷は治せる。引き続き援護に徹するとしよう。
「……嫌な気配が強くなってきたな。変異種が近くにいるぞ、みんな気をつけろ!」
ギルダートさんが、周りに警戒を促す。確かに俺の気配察知スキルはこの先にいる怪しい魔物の姿を捉えている。だがこれは……
「おい、隊長! 嫌な気配がする、一度全員下がらせたほうがいい!」
遠くの方からリリスさんの声が聞こえた。リリスさんも嫌な気配を感じたようだ。
「くっ、昼休憩をしたところまで一度下がるぞ! 何をやっているんだ偵察部隊は!? 前回より小さな変異種だから問題ないだ、明らかに大問題だろうが!」
あ、まずい! 討伐部隊が下がる前に変異種の方からすごいスピードでこちらにやってくる!
「ちっ、もう来たか! 総員撤退! ドレイン殿、万緑の猫のみなさん、援護を頼みます!」
「グルオオオ!」
「ちっ!」
キンッ
さすが元A級冒険者のギルダートさんだ、恐ろしいスピードで襲ってきた変異種の急襲を盾で防いだ。
そしてようやく変異種がその姿を現した。いや、
「「「グルルルル……」」」
確かに大きさはそれほど大きくない。ドラゴンと比べれば遥かに小さく、全長2メートルほどの黒い毛並みをした狼型の魔物だ。日本では狼なんて動物園くらいでしか見たことはないが、確か全長1メートルちょっとだからそれよりもこの変異種はだいぶ大きい。
そして問題はその数である。ギルダートさんを襲った魔物の後ろからその仲間達が姿を現した。全部で30近くはいるぞ!?
「……なんなんだこの数は!?」
「……隊長、変異種の討伐部隊に参加するのは初めてなんだが、変異種ってのはこんなに数がいるものなのか?」
A級冒険者のドレインさんとリリスさん達が前に出る。それ以外の冒険者や騎士団達はギルダートさんの指示通り後ろに引いている。
「私が討伐部隊に参加したのは合計4回でしたが、いずれも変異種は一体のみでした。数十メートルもある超大型の猪型の魔物、大きな鳥型の魔物にオーガ、小さいながらも機動力と攻撃力が非常に高かった猫型の魔物。猫型の魔物の変異種に近いようですが、あれほどの数は異常です!」
「……幻影や分身の類ではなさそうですわね。どれも実体があります」
「どいつも手強そうだニャ!」
「この数はちょっとやばそうだな……」
「そうですね……先程の個体の突進も十分な力がありました。あの数が一斉に襲ってくるとなると我々でも防げるかどうかわかりません」
「単純計算すればひとりあたり5〜6体だがそう簡単にはいかないだろうな」
「ふっ、任せておけ。俺の防具なら変異種だろうとあんな小さな狼ごときにやられはしない!」
「ドレイン殿、ちょっと待ってください! 勝手にひとりで突っ込んでは……」
「見せてやるぜ! これが現役A級冒険者の力だああああああ!」
オーガ殺しのドレイン、その二つ名はとある街に突然現れ、街を破壊し大勢の人を殺しまわったオーガをソロで倒したことに由来する。特注で彼のために作られたその防具と大剣は、凄まじい怪力を誇るオーガの一撃をも防ぎ、オーガの硬い体すらも一刀両断することが可能だ。
「んなっ!!」
しかしその強烈な一撃を変異種達は素早い動きでかわしていく。その身の丈ほどもある大剣は地面を大きくえぐるだけであった。
「「「ガオゥ!」」」
そして30以上もの変異種が一斉にドレインさんへと襲いかかる。ひとり5〜6体相手をすればよいのは冒険者や騎士団側の都合で変異種にとっては、ひとりずつ仲間全員で襲いかかれば良いだけだ。
「ちょ、ちょっと待て! ぐわあああああああ!」
「ドレイン殿! くそっ、だからひとりで突っ込むなと言ったのに! 万緑の猫のみなさん、もう間に合わないかもしれませんが、ドレイン殿を助けにいきますよ!」
「隊長、落ち着いてくれ。ドレインのやつならたぶん無事だ」
「リ、リリス殿、なにを! いかにドレイン殿といえど、あれだけの変異種に囲まれては……」
「さすがにあの人は危機感がなさすぎた。確かに武器や防具はかなりの物だけど、本人があれじゃあな」
「あの方も今回は運が良かったですわね。普通だったら間違いなく死んでおりましたわ」
「お兄ちゃんがいるから大丈夫ニャ!」
「……そこまで信用されすぎるのも結構なプレッシャーがあるんですけどね」
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