第64話 昼休憩


 やはり女性の冒険者自体が珍しい中、獣人とはいえ美人な4人の女性パーティは珍しいのだろう。しかもそれがA級冒険者パーティならなおさら人気が高いのも頷ける。


「おお、あれが噂の獣人4人のA級冒険者パーティか! すげえ、全員可愛いじゃねえか!」


「普段はエガートンの街に常駐しているんだろ。騎士団の俺達でも知ってるほど有名だぞ!」


「ああ、リリス様。今日も美しいですわ! 私もいつかあなた様と同じA級冒険者にまで上がってみせますわ!」


「……はぁ、はぁ。ネネアたん、今日も可愛いよ!!」


 先程のドレインさんには悪いが比較にならないレベルの人気だ。というかリリスさん達ってこんなに人気のある冒険者パーティだったんだな。中には気持ち悪いくらい熱狂的なファンもいるっぽい。


「今回の討伐戦には2組のA級冒険者パーティが参加する。くれぐれも無理をするなよ! それでは出発だ!!」


「「「おおおおおおお!!」」」




 討伐部隊が出発してブラッドリーの街を離れ、ブラッドリーの森へ向かう。俺はその後ろを隠密スキルを使ってこっそりとついていく。さすがにA級冒険者の人達には隠密スキルはバレてしまいそうだが、距離が離れているからたぶんバレないと思う。


 別にリリスさん達にはバレてもいいのだが、ギルダートさんやドレインさん達にバレると面倒なことになるかもしれないからな。


「それではこれより森に入る! 事前に偵察部隊が確認したところ、変異種は森の中央付近に位置するようだ。凶暴化して増えた魔物を蹴散らしながら進んでいく。ここからは事前に打ち合わせていた通り、隊列を横に伸ばして進んでいくぞ」


「「「おお!」」」


 ふむふむ、今まで縦に伸ばしていた隊列を横に組み直し進むようだ。そして縦に2列になり、両端にはドレインさんとリリスさん達を配置し、中央にはリーダーのギルダートさんがいる。




「大いなる風の槍よ、我が敵を貫き通せ! ウインドランス!」


「ガゥア」


「今だ、止めを頼む!」


「おら!」


 ザンッ


 黒いローブを着た魔法使いの風魔法により猪型の魔物が吹き飛ばされる。そして剣を持った冒険者が魔物の首に止めの一撃を与えた。


「ふう〜しっかしキリがねえな」


「倒しても倒しても向こうから襲ってきやがる。これが変異種の影響ってやつか」


 俺はとある冒険者パーティの戦いを後ろから見ていた。このパーティは2人の前衛と1人の魔法使いのパーティだ。前衛2人が魔物を相手にし、その間に魔法使いが魔法を叩き込む戦略のようだ。C級冒険者パーティらしいが危なげなく戦えている。


 今は倒した魔物を手際よく解体している。今回の討伐戦では倒した魔物はそれぞれのパーティの物になる。とはいえ各パーティで持てる荷物の量は限られているので主要な素材以外はすべて地面に埋めている。肉とかはほとんどが埋められているので勿体ない限りである。


 そして魔物の方だが、こちらはだいぶ厄介だ。ある程度数が多いのは仕方ないとしても、あの凶暴性は異常極まりない。多少ダメージを与えたところで怯まずにそのまま襲ってくるし、仲間の魔物がやられたとしても撤退という考えがないらしい。


 森に入ってからすでに2時間が経過した。討伐部隊でかなりの数の魔物を倒してきたが、討伐部隊の死者はゼロで軽傷者が数名出たくらいだ。今のところ危機察知スキルに大きな反応もなく、大きな怪我をした人もいないので、俺は何もしていない。まあ俺の出番がないことはいいことでもある。


「よし、今のところ大きな負傷者もなくとても順調だ。引き続きこのまま気を引き締めて行くぞ! それでは見晴らしの良いこの場所で30分ほど休憩をとる。交代で見張りをして各自体を休めるように!」


 森の中心部に近付いてきたこの見晴らしの良い場所で一度休憩をとるらしい。各パーティが腰を下ろして早めの昼食をとっている。ちょうどいいから昼食を取ったあとにリリスさん達にだけ、俺もいると伝えておこう。




 あ、いたいた。端っこのほうで4人でご飯を食べている。遠巻きに彼女達をチラチラと見ている冒険者も結構いるな。


「あっ、お兄ちゃんだ!」


「おっと!」


 相変わらずすごい勢いでネネアさんが俺の鎧に飛びついてきた。普通の力だったら吹き飛ばされているよな。って、あれ? 隠密スキルは使ったままのはずだよな? かなり近付いたとはいえ、気付かれるとは思わなかったぞ。


「お、マサヨシも来ていたのか!」


「マサヨシ様、お久しぶりですわ!」


「……なんだかマサヨシ兄さんの気配が薄い気がするな」

 

 一応隠密スキルはちゃんと発動していたようだな。隠密スキルをオフにする。


「すみません、こっそりついてきていたので隠密系のスキルを使っていました。それにしてもよく気付きましたね、ネネアさん」


 ネネアさんの頭を撫でると気持ちよさそうな顔をしてくれる。小動物みたいで本当に可愛らしい。


「普通にお兄ちゃんの気配がしたよ?」


「ああ、俺達獣人は五感が人族より優れているからそのせいかもな。気配は薄かったが、なんとなくそこに誰かいる感覚はあった気がする。ただ俺にはマサヨシかはわからなかったけどな」


 なるほど。獣人は五感が鋭いのか、覚えておこう。


「それよりもマサヨシ様がいらっしゃるなら、変異種といえど心配することはありませんわね」


「あ、そのことなんですけど、今回は援護に徹しようかなと思っています。俺は冒険者にも騎士団にも所属していないし、変異種もA級冒険者のみなさんで倒せそうですからね。もちろん何かあった時はすぐに加勢しますよ」


「よくわからないけどマサヨシ兄さんがいるなら安心できるな」


「そうですわね、マサヨシ様には何か深い考えがあるのでしょう」


 ……相変わらず謎の信頼があるな。


「あと5分で出発だ!」


 おっと、もうそろそろ時間になるな。鎧に張り付いていたネネアさんを地面に降ろす。


「それじゃあみなさん、気をつけてくださいね」

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