第63話 変異種討伐戦


 金曜日の放課後、とりあえず変異種というもの自体がよく分からなかったので、ケーキのお土産を持ってサーラさんの屋敷へ行ってみた。


 相変わらず俺の情報源はダルガさんとジーナさん頼みだ。……だってあの2人何でも詳しすぎるんだよな。なんでも聞けば教えてくれるからついつい聞いてしまう。情報料はケーキだけだしね。


 先週は深い心の傷を癒すためにひとりで街ぶらしていたからサーラさん達とは2週間ぶりだったな。相変わらずケーキをとても美味しそうに食べてくれていたが、これで持ってきたケーキは1種類ずつ食べたことになるから、今度は別のものを持ってこよう。


 ダルガさん達から聞いた情報によると、ルクセリアの街付近では変異種は発生しないらしい。どうやら魔力の濃い森や山などでのみ、変異種が発生する可能性があるとのことだ。


 ……しかし非常に残念なことに変異種は固くて食べられたものではないらしい。なんだか最近魔物はすべて食べられると思ってしまっている自分がいるな。


 基本的には近くの街から冒険者や騎士団を集めて討伐にあたる。この街からもすでに何人かの冒険者や騎士団がブラッドリーの街へ向かったようだ。変異種の強さはその時々で変わるらしく、酷い時には数十人の犠牲者が出るらしい。屋台のおっちゃんは軽く言っていたが、やばい時には数十人の被害か……




 さてどうするかな。大魔道士の力を継承した俺が変異種を倒すことは簡単にできるだろうが、冒険者でも騎士団でもない俺が割り込んで解決というのは少し違う気もする。


 それに変異種の討伐のために長い時間やお金をかけて装備や準備を整えている人も大勢いるはずだ。変異種を倒して富や名声を求めている人も多くいるだろうからそれを横取りはしたくない。


 かといって話が耳に入ってしまった以上、最悪数十人もの人が死ぬ可能性がある状況をほうっておくのもあまりいい気はしない。


 ……よし、ここは隠密スキルで隠れてついていき、ひたすら回復だけするという作戦でいくとしよう。他人に強化魔法を使ってしまうと自分の実力を勘違いしてしまう人もいるかもしれないから、危機察知スキルが反応した人達を回復魔法で治していくことに徹しよう。状況によっては変異種を少しくらい削るくらいならしてもいいかもしれない。


 それにブラッドリーの街の冒険者ギルドマスターも参加するだろうから、大魔道士の子孫の手助けくらいはしよう。どちらにせよ完全に俺の偽善と自己満足になってしまうがそれはそれでいいだろう。こっそりと支援するだけで他の人の生存率があがるなら、いないよりはいたほうがましだ。






 そして次の日の土曜日、討伐を開始する時間については調べていなかったため、朝早くからブラッドリーの街の冒険者ギルドへ移動した。


 俺がついた時には大勢の冒険者達や騎士団が冒険者ギルドの前にも集まっていたので、どうやら間に合ったようだ。その周りには街の住人達がその様子を見守っている。俺も住人達と一緒に遠くから見ていた。


 しばらくしたあと冒険者ギルドの扉が勢いよく開いた。


「時間だ! これより変異種討伐戦を開始する! まずは今この場に多くの冒険者や騎士達が集まってくれたことに心より感謝する!」


「「「おおおおおおお!」」」


「今回この討伐部隊を率いることとなったギルダートだ、よろしく頼む!」


「あれが噂のギルダートさんか!」


「あの若さでギルドマスターまで上り詰めた天才なんだろ!」


 ふむふむ、あれが大魔道士の子孫であるギルダートさんか。30代というが20代にも見えるくらい若いな。立派な鎧に身を包み、盾と剣を手にしている。冒険者というよりは騎士と言ったほうがいいかもしれない。


「諸君、すでに知っていると思うが敵はあの変異種だ! だが、変異種をそのままにしておけば魔物が凶暴化してすぐに森から溢れ出し、近隣の村や街に被害が及ぶ。そしてこの街にも魔物がやってきて、大切な人達に危害を与える可能性がある。これは私達の家族や仲間、大切な人達を守るための戦いでもあることを忘れないでほしい!


 そのうえで自分の身を守れ! 前回の討伐戦では非常に残念なことに数名の犠牲者が出てしまった。私達の後ろには大勢の仲間がいる! 自分ひとりで戦う必要はない。引く時は引き、仲間を頼ってくれ。今回は絶対にひとりの犠牲者も出さずに乗り越えるぞ、いいな!!」


「「「おおー!!」」」


 冒険者や騎士団の士気が上がるのが目に見えてわかる。すごいな、さすがギルドマスターの力だ。これがカリスマとかいうやつなのだろうか。


「そしてすでに今回の勝利は約束されている! なぜなら今回の討伐戦には現役のA級冒険者が参加するからだ!」


「「「おおおお!」」」


 冒険者達が盛り上がる。んっ、A級冒険者? もしかして……


「紹介しよう、A級冒険者『オーガ殺しのドレイン』殿だ!」


 違った、リリスさん達じゃなかった。冒険者ギルドの中からひとりの男が姿を現した。ドレインというA級冒険者は身の丈ほどもある大剣を持っており、身につけている鎧は一目で他の冒険者とは一線を画するものということがわかる。だいぶ若くてさわやかなイケメンだ。ひとりでいるところをみるとソロの冒険者なのかな。


「そしてさらにA級冒険者パーティの『万緑の猫』の方々だ!」


「「「うおおおおおおお!!」」」


 冒険者ギルドの中からリリスさん達が姿を現した。この場は今日イチの盛り上がりをみせた。

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