第62話 変異種


「すみません、この街でのおすすめって何かありますか?」


「おうにいちゃん、この街は初めてか。そうだな、この街は近くにブラッドリーの森って大きな森があっていろんな魔物の肉が獲れるんだ。その中でもワイルドボアとラミネー鳥あたりがおすすめだな。


 あとは海の街からも近いから日持ちする海産物もこの街に届いてくるぜ。うちじゃ海産物は売っていないからそっちは他の店に聞いてみな」


「なるほど。それじゃあワイルドボアとラミネー鳥の串焼きを一本ずつお願いします」


「あいよ!」


 串焼きを2本受け取る。さすがにドラゴンやワイバーンの肉には及ばないが、美味しいには美味しい。最近は舌がだいぶ肥えてしまっているようだな。前までだったらどちらの肉も大満足の味だったはずだ。


「うん、どちらも美味しいですね!」


「おう、ありがとよ。にいちゃんはどこから来たんだ?」


「ちょうどさっきルクセリアの街から着いたばかりです」


「ほ〜王都の方からわざわざ来たのかよ」


「はい、このまま更に進んで海を目指す予定です。海産物が美味しいと聞いたので」


「いいねえ。俺も海の方まで何度か行ったことがあるが、魚はめちゃくちゃうまかったな。まあ多少はこの街でも食えるんだが、なにせ向こうは種類が山ほどあるからいろいろと楽しめると思うぜ!」


「そうなんですね。ありがとうございます、楽しみにしておきます! ちなみになんですけどこの街の冒険者ギルドの評判ってどんな感じですか?」


「そうだなあ。さすがに王都よりは劣るだろうが、この国の中でも大きくて評判はいいほうだろ。なにせブラッドリーの森があるからな。依頼も多い分、冒険者も他の街より多いはずだし、質も高いはずだ」


「ふむふむ。冒険者ギルドマスターはどういう人なんですか?」


「お、ギルダートさんのことか! あの人は強えぞ、なにせ元A級冒険者だ。なんとあの大魔道士の血を継いでいるんだぞ! それにあの人がギルドマスターになってからこの街も豊かになった気がするな」


 事前にジーナさんからもらった情報通りだった。元A級冒険者で30代の若さで冒険者を引退し、前ギルドマスターの推薦で現在の冒険者ギルドマスターに就任。その優秀な手腕を存分に発揮し、ギルド全体の依頼達成率をあげることに成功した。冒険者ギルドが賑わうことによりこの街全体が豊かになったらしい。


 というかジーナさんの調査能力がすごい。そりゃ大魔道士の子孫について一人一人これだけのことを調べていたら200ページにもなるわな。


「すごい立派な人なんですね」


「おうよ! ただまあ最近は変異種の発生で忙しいからギルダートさんも大変だろうな」


「変異種?」


「ああ、王都付近じゃ出てこないのか。ブラッドリーの森だと数年に一度くらいの割合で発生するんだよ。原因は知らねえが、あの森や他の大きな森だと突然変異の魔物が生まれるらしい。


 そんでもって変異種の魔物が発生すると付近の魔物が凶暴になるし、魔物の数自体も増える。よくわからんが、変異種を倒せばその現象は収まるらしい。


 少し前から変異種の発生が確認されたらしくてな、今は冒険者ギルドや騎士団で討伐部隊を組んで数日後には出発するって話だ」


 ほう、変異種なんてものが発生するのか。強い魔物は破滅の森に集まるとか、この異世界の魔物の生態は相変わらずよくわからない。


「大丈夫なんですか? 変異種っていうくらいだから強いんじゃないんですか?」


「そりゃある程度はな。毎回かなりの人数が討伐部隊に参加するが、数人は犠牲者が出るって話だ。ただ変異種の素材は高く売れるから討伐部隊に参加するやつらは多いらしいな。詳しいことは俺なんかよりも冒険者に聞いたほうがいいぞ」


 なるほど数人か。逆に言うとドラゴンみたいな強さまではいかないということだな。


「いろいろと教えていただいてありがとうございました。あ、追加でラミネー鳥の串焼きもう一本ください」


「あいよ!」


 思った以上にいろいろと話を聞けた。変異種ねえ……とりあえず冒険者ギルドに行くだけ行ってみようか。





 屋台のおっちゃんに冒険者ギルドの場所を聞いて冒険者ギルドへ向かう。なんだかんだで今まで訪れた街のすべての冒険者ギルドに寄っている。今更ながら冒険者登録しておいてもよかったのかもしれない。でも試験とかあったら面倒だし、依頼のノルマがあっても嫌だけどな。


 カランカラン


 うわっ、なんか殺気立っているな。


 冒険者ギルドの扉を開けたとたんに圧を感じた。なんだろう品定めをされているような視線だ。他の街のギルドよりも冒険者が多いのも、その変異種の影響だろうか?


 うん、とりあえずからまれることがなかったのは助かった。依頼ボードを見てみると結構な依頼の数がある。畑を荒らす魔物を狩ってくれ、近くの小さな村からの依頼で、村を魔物から護衛してほしいといった依頼が多い。


 こっちはパーティ募集の張り紙だ。なになに『変異種討伐隊に向けてC級以上の魔法使い募集!』、『変異種討伐、B級タンク職募集中!』。


 なるほど変異種と戦うためのパーティを募集しているんだな。最低でもC級以上の募集からで、討伐の日付は明後日となっていた。


 必要な情報は手に入れられたので冒険者ギルドを出る。さて、明後日ならちょうど土曜日で学校も休まずに行こうと思えば行ける。でも冒険者登録もしてないし、どうしようかな?

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