第73話 最後のあがき


「ちくしょう、なにが起きているんだ?」


「同志が殺すガキを選びに行ったまま戻ってこないぞ!」


「さっきから人質についているはずの同志達とも連絡が取れねえ!」


「おい、この部屋から出れねえぞ! ドアを開けたら半透明の壁があって通ることができない!」


 くそっ、なにが起きた! 計画は完璧だったはずだ。時間をかけて同志と共に現地に潜り込み、下調べも十分に行った。念には念を入れ人質も二つに分け、人質に見せかけた同志まで潜り込ませた。


 なのになぜだ!? 様々な不測の事態に備えて想定してきたはずなのにどの同志からも連絡がこない。こんな平和な国の警察どもが、すぐに対応できるはずはない。何者かが我々の邪魔をしていることは間違いない!




――――――――――――――――――――――――

 

「バインド!」


「うわっ、なんだこれは!」


「くそ、動けねえ!」


「なんだよ、足元から鎖が!」


 よし、これでテロリストどもはすべて拘束したことになる。ふう〜なんとか被害を出すことなく解決することができたようだな。


「なんだてめえは!」


「うお、おかしな格好をしているが警察か!?」


 部屋の入り口の障壁魔法を解いて中に入る。この部屋にいるテロリストは全部で5名。……もうこのスーツの評価はどうでもいいや。


「あなた達の仲間はすべて捕まえました。警察がくるまで大人しくしてくださいね」


「変な声しやがって! 離しやがれ!」


 あとは警察がきたら、俺が拘束魔法を解いても大丈夫なように上からさらに拘束してくれればオッケーだな。


 ドタドタドタ


 おっ、どうやら警察官も突入してきたようだな。人質達の安否が確認できてようやく突入してきたというわけか。


「……くっくっく、我らが神と同志達を解放することは叶わなかったか」


 聞き耳スキルで話を聞いていたところ、おそらくはこのテロリストグループのリーダーと思われる男が突然笑い出した。


「あんたらのいう神がどんなもんか知らないけれど、これであんたらは終わりだ。その神と一緒の牢屋に入れられることでも祈っていろよ」


 どうせこいつらは手足を鎖で縛られているからもう何もできやしない。こんなテロ集団を作った教祖だけは、探し出して思いっきりぶん殴るくらいはしてやりたいけどな。


「……民間人を巻き込めなかったのは残念だが、せめて今この駅に入ってきた警察と貴様だけは道連れにしてやろう!」


 道連れ!? おい、ちょっと待て、まさか!!


「我らは常に神と共に!」


「「「神と共に!」」」


「待て!!」


 カチッ


「「「………………」」」


「……スリープ!」


「ふあ……」


「リーダー!?」


「てめえ、リーダーに何をした!?」


「なぜ爆発しない!?」


「馬鹿な、ひとつも爆発しないだと!?」


 焦ったあああああああ!


 まさか両手両足を拘束した状態で爆弾のスイッチを押せるとは思わなかった! おまえ奥歯に仕込んだスイッチとかいつの時代の人間だよ! 普通は赤いボタンとか黒い無線みたいなやつとかスマホだろうが!


 しかし爆弾はあれで全部だったのは本当に助かった。おそらくは大丈夫だと思いつつも、心臓が破裂しそうなくらいビビって、全力の障壁魔法を張って防御したぞ!




 そもそも俺がここに到着したのはだいぶ前になる。自分自身に風魔法をぶつけるという荒技で現場に急いだ。下の階はシャッターが閉じられ、強引に扉を破らなければ入ることができなかったので、隠密スキルと風魔法を使って2階のホームから侵入した。


 人質達が傷付けられていないことを確認し、隠密スキルを使いながらテロリスト達の数や動向を探っていた。テロリストの人数も配置も確認し、いざ突入しようとした時に聞き耳スキルで聞いていたテロリスト達の会話から、全員が死を覚悟しているとか人質全員を殺す覚悟があるとか物騒な話が聞こえてきた。


 もしやと思い探索の魔法を使い、駅構内を探してみると紙袋に入れられ、隠されていた爆弾を発見した。念のために駅の中をすべてと、この駅の周りに至るまですべてを探索魔法で探していたため、人質を救助するのがだいぶ遅れてしまったというわけだ。


 正直に言って、爆弾を探している間はいつテロリスト達がマシンガンを人質達に向けて撃つんじゃないかと思うと緊張で胃に穴が開きそうになっていた。聞き耳スキルでテロリスト達の会話は聞こえているとはいえ、テロなんて起こすやつらだ。どんな些細なきっかけで人質達に銃を向けるかわからないからな。


 駅にあった爆弾は全部で2つ。爆弾の解体なんてできるわけがないのですべて収納魔法で回収した。下手をしたら駅の外にまで仕掛けているのではないかとも思い、聞き耳スキルが届くギリギリの範囲まで爆弾を探していた。


 俺が探せる範囲もあと少しということでテロリスト共が見せしめのために子供を殺すとふざけたことが聞こえてきたので転移魔法で急いで戻ってきたというわけだ。


 俺が探せなかったエリアに爆弾がなかったことと、収納魔法の中で爆弾が爆発してしまうことがなかったのは本当に助かった。


 リーダーと呼ばれていた男の口の中から爆弾のスイッチを回収する。どうやら奥歯の一本を抜き、そこにこの歯形のスイッチを埋め込んだようだ。死を覚悟してよくそこまでやれるよな……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る