第59話 控室


「いや〜すごいよかったね!」


「おう、思ったよりも楽しかった! なんかこう会場と観客が一体になって盛り上げるみたいな雰囲気がいいよな!」


「意外と女性のお客さんもいるんだね。実際にライブに来るのは初めてだったけど楽しかったわ!」


「川端さんも楽しめたみたいでよかったよ。確かに女性客も結構いるんだね」


「ちなみに有名な男性グループのライブなら男女比率は完全に逆転するんだよ。今は女性ファンのほうが強いまであるからね」


 そういえば母さんの友達も韓国のアイドルグループにハマっているといってたな。それも海外のライブを生で見に行くくらいハマっているらしい。


「まさかゆかりさんのライブに来れるとは思わなかった……立原くん、誘ってくれて本当にありがとう!」


 飯島さんはなぜかライブに来れたこと自体に感動していた。初めて好きな娘がいるアイドルのライブを生で見れて感動しているのかもしれない。


「いえいえ。というより結構太っている人もいましたし、別にひとりでライブに来ても全然問題なさそうですよ」


「そうだね、座席指定のライブなら大丈夫かもしれないね。でもやっぱり立見のライブだと他の人にも迷惑がかかるから、そっちはやめておこうかな」


 相変わらず謙虚だな。


「この後は物販とチェキの撮影会があるけどどうする?」


「……えっと僕は遠慮しておくよ」


「俺も今回は遠慮しておくよ」


「私もそっちはいいかな」


 飯島さんはこの後控室にいって、先日の件を佐山さんに謝る予定だ。さすがにその前に一緒にチェキ撮影はできないだろう。俺はというとアイドルと一緒に撮れるチェキには非常に興味があるが、今回は飯島さんに付きあってやめておこう。


 川端さんも佐山さんの親友なんだし、写真ならいつでも撮れるのだろう。


「せっかくだから俺はちょっと見てくるかな」


「僕も行ってくるよ」


 安倍と渡辺は見てくるようだ。グッズを買ったり、チェキを撮ったりしたほうがグループを応援したことになるのだろう。次回ライブに行くとしたら俺も行くとしよう。というか知り合いの可愛い女の子とツーショットでチェキを撮れるチャンスがあるとか最高すぎる。




「いやあ〜すごかったな! ついつい買っちまったぜ」


「そうなんだよね。あまり買う予定がなくてもついつい買っちゃうんだよね〜」


 戻ってきた2人の手にはうちわやタオルなどのグッズが山ほどあった。2人ともだいぶライブを満喫したようだ。


「それじゃあ後で控室に入れてもらえるから先に軽くご飯でも食べようか」


「うわ〜、まさか控室に入れるなんて感激だよ!」


「ふふ、でもあんまりはしゃぎすぎちゃ駄目だよ」


「か、川端さん! わ、わかってます、ファンとして迷惑はかけませんから!」


 あらかじめ佐山さんには5人で控室に行く許可はもらってある。最初は俺と飯島さんと川端さんだけで行こうとしてたが、安倍も渡辺もどうしても一緒に行きたいというので、ダメ元で佐山さんに聞いてみたところオッケーをもらえた。


 アイドルの控室なんて普通は一生入ることなんてできないから気持ちはわからなくもない。


 5人でファーストフードのハンバーガーを軽く食べてから控室に向かう。ちなみにハンバーガー代は自分は社会人だからと言って、飯島さんが全員分を出してくれた。確かに高校生の俺たちにとっては、ハンバーガー代ですら結構高く感じてしまうのでとてもありがたかった。みんなでちゃんと飯島さんにお礼を伝えた。




「こんにちは。佐山ゆかりの友人の川端です」


「ああ、話は聞いていますよ。え〜と5人ですよね、はい中へどうぞ」


 警備員さんに許可を取って控室に入る。ちゃんと話は通っていたようで安心した。


 中に入るとすでにアイドルの人達は戻ってきており、何人かで集まって話をしていたり、偉そうな人達と話をしていた。


「のぞみ〜こっちだよ!」


 おっと佐山さんがいた。まだステージに上がっていた時と同じ可愛らしい衣装を着ていた。さっきまで踊りながら歌っていたアイドルと話せるなんて、今思うとやっぱりすごいことなんだよな。


「兄貴〜!!」


「のわっ! ちょ、茂木さん!」


 いきなり背後から茂木さんが俺の足に縋りついてきた。俺を害する気はなかったからか危機察知スキルも発動していない。


「なんで連絡先をブロックするんすか〜!」


「いや、だって毎日連絡されてきても困りますよ! てか一度離れてください! ほら、またみんなに見られてますから!」

 

 そう、この人は連絡先を教えた日から毎日何回も連絡をしてきたのだ。それも格闘技について毎日どんな訓練をしているのかとか、強くなるためにどんなことを意識しているのかというような質問ばっかりだ。


 意外と格闘技については真面目に向き合っているんだなと感心したのだが、大魔導師の力で力やスキルを継承した俺にそんなことがわかるわけもない。正直に特別な訓練はしていないし、意識もしていない、俺はちょっと特殊なパターンですよと答えた。


 そしたらこの人は、やっぱり兄貴は天才なんですね! と更におかしな勘違いをして普段の食生活や運動など細かいことまで聞いてきたのだ。さすがにこれはもう付き合っていられないと判断してブロックしたわけだ。


「兄貴がブロックを解除してくれるまで離しません!」


「だあ〜もうわかりました! ほらブロックは解除しましたから。あと連絡するにしてもせめて1日1回までにしてくださいね!」


「おお、よかったです! わかりました連絡は1日1回にしますね!」


 ようやく足から離れてくれた。あと別に連絡は1日0回で構いませんよ。……いや、マジでお願いします。

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