第58話 ライブ


「安倍くん、こっちこっち!」


「ごめんごめん、ちょっとだけ遅れた」


「大丈夫、俺も渡辺もちょうど今来たところだから」


 日曜日の朝、駅前の公園でみんなと待ち合わせをしている。今日はみんなで佐山さん達が所属するアイドルグループのライブに行く予定だ。


「それじゃあ駅まで移動しようか」


 安倍と渡辺と待ち合わせて、そこからライブ会場の駅まで移動して川端さんと我が同志である飯島さんと待ち合わせをしている。


「それにしてもあの有名な佐山ゆかりと川端さんが同中で親友だったなんてな」


「うん、さすがに中学校までは知らなかったなあ。そう考えるとうちの高校にも佐山ゆかりと同じ中学校だった人も結構いるんだよね、羨ましい!」


 渡辺、さすがに出身中学校まで知っていたら逆に怖いよ。


 2人には佐山さんと川端さんが中学からの親友であることと、いろいろあって俺も佐山さんと顔見知りになったことはすでに伝えてある。あと飯島さんについてはストーカーであることはぼかして知り合ったことにしている。そもそもストーカーであったかすら微妙だったしな。


「あ、川端さんはもう来ているな」


「立原くん、安倍くん、渡辺くん、おはよう」


「川端さん、おはよう」


「お、おはようございます」


「おはよう」


「あとは飯島さんか。待ち合わせ時間までもう少しあるな」


「ふう〜ふう〜、すみませんお待たせしました」


 ちょうど飯島さんもやってきた。その巨体を揺らしながらこちらに近付いてくる。懐かしいな、俺も昔は少し走ったらすぐに息を切らしていた。それに少し走っただけで汗がすごい出るんだよね。太っている人はいろいろと大変なのだ。


「いえ、みんなちょうど来たところですよ。みんな、こちらは飯島さん、ちょっと前に知り合ったんだ」


「はじめまして、安倍です。よろしくお願いします」


「わ、渡辺です。よろしくお願いします」


「飯島です。今日はご一緒させてもらってすみません。少しみなさんと年齢は離れていますが、普通に話しかけてくれると嬉しいです」


「……なんか少しだけ懐かしい気がする」


「……うん、今は慣れちゃったけど、立原くんとちょうど同じくらいの体型だったよね」


 うん、俺も少し前まではこんな体型だった。俺もちょっとだけ懐かしかったりもする。


「あなたが川端さんですね。立原さんから聞きました、この度はあなたにまで怖い思いをさせ、迷惑をかけてしまって本当にすみません」


 飯島さんが川端さんに向かって頭を深々と下げる。2人が直接会うのは初めてになる。


「初めまして、川端です。立原くんから話は聞きました。私はそれほど怖くなかったので大丈夫です。でもゆかりにはちゃんと謝ってくださいね」


「はい、ご迷惑をおかけしました。もちろんゆかりさんにはちゃんと謝罪します」


 飯島さんは佐山さんだけでなく川端さんにも怖い思いをさせてしまっていたから、ちゃんと謝りたいと言っていた。どうやら川端さんも許してくれたようだ。


「……えっと、どういう状況?」


「2人も知り合いなんだね?」


「まあいろいろあったんだよ」


 安倍も渡辺もぽかんとしている。説明は少し面倒だから省略で。




「というわけで今回は大きなライブ会場で座席指定だから場所とかはあんまり気にしないで良さそうだね。小さいライブハウスだと基本は立見で、前の方は熱狂的なファンがいっぱいいるから気をつけないといけないんだよね」


「なるほど」


「あとは小さい会場の前の方だとコールや一緒にオタ芸で踊る人達がいたりするから、静かに見たいなら後ろの方や壁際で見るのがおすすめだね」


「渡辺くんすごい、詳しいんだね」


「い、いや、別に普通だよ」


 うん、普通は知らないと思う。でも今回は座席指定だからそういう心配はいらなそうだな。渡辺の話を聞く限り、やはりライブにひとりで行くのはなかなかハードルが高そうだ。


「そういえば飯島さんはライブに行ったことがあるんですか?」


「うん、僕でもゆかりさんのライブに行けるか確かめたくて、別のグループのライブに一度だけ行ってみたことがあるよ。でもやっぱり熱気がすごくて周りからも白い目で見られたから、やっぱりデブには難しいと思ってそれっきりだったよ」


「今日は大勢で行くし、座席も指定だから大丈夫ですよ!」


 やっぱり世間の目は太った人達には厳しい。幸い今日は5人の仲間内で見に行くので、白い目で見られるようなことはないだろう。




「すげ〜な、こんな大きな会場でやるのか」


「『さんきゅ〜ガールズ』は今すごく人気のあるアイドルグループだからね。始めのころはもっと小さいライブハウスからだったけど本当に立派になったよ」


 会場に入って座席に着く。安倍の言うとおり、かなり大きな会場だ。佐山さんを護衛していた時はもっと小さな会場だった。今日は日曜日だし、平日よりも大きな会場でライブを行うのかもしれないな。というか渡辺は詳しいし、もしかしたら結構初期からこのアイドルグループを追っていたのかも。


「ライブが終わったら写真やグッズ販売の他に有料だけど一緒にチェキも撮ってくれるから、どの娘と一緒に撮るかも決めておいた方がいいかもね」


「へえ〜すごいな、そんな近くにまで来てくれるのか」


「うん、今日はないけど握手会とかもあるよ。身近にふれあえるのがこういうアイドルのウリだからね!」


 なるほどそういうものなのか。おっと、周りが少し暗くなってきた。どうやらライブが始まるようだ。

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