第57話 動画検証
授業が終わり、急いで帰宅して例の動画を探してみた。この人があげている動画は今日の朝、学校で安倍と渡辺が教えてくれた3つだ。
『爆発事故の原因とは!? 現役員が内部告発! 工場のずさんな安全対策と違法行為!』
この動画はあの工場の役員の人が、事故の原因についてと廃棄物の不法処理による危険性を内部告発した動画だった。告発者はモザイクがかかっていたが、もしかしたら工場で最後に助けたあの人かもしれない。
『自らの危険を顧みず仲間を助けようとする姿に拍手喝采! 勇気ある若者に全俺が泣いた!!』
この動画は爆発事故直後から逃げ惑う従業員のパニックの様子や、そんなパニックの中ひとりの資材に挟まれてしまった人を必死で助け出そうとする2人の姿があった。
もちろん火も迫っていて、いつ工場が崩れてもおかしくないこんな状況では自分の命が一番なので、逃げようとする人達を責める理由はない。そんな中でもこの人達は俺みたいにチートな能力もないのに本当に勇気があると思う。ちなみにこの動画は俺が出ててくる直前で終わっていた。
『謎のヒーロー参上!? 監視カメラがとらえた爆発事故の救出劇!』
……問題の動画だな。何度か見直してみたが、少なくともこの動画から俺個人を割り出すことはできないと思える。とはいえ今の技術がどれくらいすごいのかわからない。もしかしたらこんな画質の悪い映像から身長何センチとか、歩き方や姿勢から個人を割り出すことなんかもできてしまうかもしれない。
しかも動画のコメントは人を救助したことや能力のことについてよりも、俺の格好に関するコメントの方が多かった。ダサいとか、変な格好とか、エセヒーローとか不審者(笑)とか。もう俺のライフはゼロだってのに……
この動画をあげた人についてだが、この3つの動画以外にあげている動画はない。というかユーザー登録をしたのも動画をあげた日だ。その割にはタイトルとか動画の作り自体は素人ではないようにも思える。う〜む、誰なんだろう。
動画をあげた人を探し出して交渉し(威圧スキル込み)、動画を消してもらうのもありかと思ったのだが、探し出す方法がない。どうやら大魔導士のスキルや魔法は救助や争いごとを治めるのは得意だが、現代社会のネットワーク環境に関しては何もできないようだ。異世界にネットワーク環境はないから当たり前といえば当たり前か。
動画をあげた人はやっぱり工場の関係者だろうか? あるいは警察の関係者か。いずれにせよ俺からは何もすることができない。これ以上動画があがらないことと、この動画から俺個人が割り出されないことを祈るしかない。
というかなんでこんなスーツにしちゃったんだろう……大魔導士の魔法で過去に戻れたりしないのかな? 頼むからこの動画を見た人の記憶をすべて消去してほしい……
動画のことを知ってから4日が過ぎて今日は金曜日だ。この4日間は新たな動画が上がることもなく、警察が家に来ることもなく平穏な日常を過ごしてきた。いや、平穏は嘘だな。毎日後悔して、ぬおおおおおおおお! ぎゃああああああああ! とか羞恥で悶える日々だった……それに特に悪いことをしたわけではないのだが、正体がバレたかと思い、宅配便の呼び鈴にすらビクビクする毎日だった。
それ以外には危機察知スキルに反応もなければ、学校でも特に大きな問題もなかった。忘れずに担任にも誰かと話をしている時に何度か下痢にしたので、もう来週からは状態異常魔法をかけなくても大丈夫だろう。……個人的には毎日でも下痢にしてやりたいがな。
この4日間でいろいろ調べてみたが、やはり動画をあげた人を見つける手段はなさそうだ。大魔導士の力も現代ネットの前には無力だ。動画の方も最初のうちはだいぶ騒がれて、一時はテレビのニュースで取り上げられるほどだったが、金曜日にもなると動画のランキングも下がり、ほんの少しだけ落ち着いてきたようだ。
このまま時間が経てばUFOとかネッシーみたいな感じで、都市伝説や怪しい噂としてゆっくりと話題から消えていくのだろう。
ふう〜正体がバレないかずっと心配していたから、少しだけ安心してきた。明後日みんなで行く予定のライブの前に、余計な心配事が少し減って本当によかった。それに正体がバレたところでなるようにしかならないし、気にしてもしょうがないと思うしかない。
さて今日は土曜日だ。明日はみんなで佐山さん達アイドルグループのライブに行く予定となっている。何度かライブに行ったことのある渡辺に話を聞いたところ、特に準備をするものはないそうだ。そのため今日は特に予定がない。
またサーラさんかリリスさん達に会いに行くのもいいかもしれないが、今日は久しぶりにひとりで食べ歩きでもしようかな。……ちょっとでも傷ついた心を癒したい。ついでに次に行く街の情報収集もしておこう。
いや〜たまにはひとりでのんびりと食べ歩きをするのも悪くなかったな。何よりお金のことを気にせずに高いものを好きなだけ食べられるのは最高だった。
こっちの世界のお金は使いきれないくらいにはある。元の世界のお祭りの屋台などでは予算の都合上、何を食べるかじっくりと考えなければいけないが、値段を気にせずに選べるというのは素晴らしかった。
それに屋台をやっている人達はお店が混んでさえいなければ、何かを買うといろいろと話をしてくれる。おかげさまでいろいろと情報が集まった。来週の土日になったら新しい街へ行ってみるとするか。
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