第60話 ぽっちゃりしているだけ
さすがに控室で騒ぎを起こすのも3回目となると、またか的な視線で見られていた。毎回他の人達に迷惑をかけてしまい本当に申し訳ない……主に茂木さんが。
「それで兄貴、今日はどうしたんですか?」
「ちょっとだけ知り合いを佐山さんに会わせたくて来たんですよ。多分もう控室にくるのはこれで最後だから安心してください」
「兄貴ならいつでも大歓迎なんですけどね。それで会わせたいのはあの超デブなやつっすか?」
「口には気をつけろ! ちょっとぽっちゃりしてるだけだろうが!!」
超デブなんてこと言うんじゃない! 俺の前の体型を含めてちょっと太っている、もしくはちょっとぽっちゃりしているだけだろうが!
「す、すみません! よく見たらちょっとぽっちゃりしているだけでした!」
「言ってなかったですけど、俺もちょっと前まではあれくらいの体型だったんですよ。なのでぽっちゃりしている人達への悪口はできる限り控えてくれると助かります」
つい口が荒くなってしまった。しかし同志への悪口は許さん!
「はは、兄貴がっすか? まさかあ!」
「はい、これが俺の学生証です。いろいろあってこの姿から急激に痩せて今に至ったわけです」
俺の学生証を出して昔の姿を見せる。まあこれで俺に幻滅してくれて、少し大人しくなってくれるならそれでもいいか。
「……やっぱ兄貴はすげ〜っす!! あんなデブ……いや、ぽっちゃりした姿からここまで痩せるなんて並大抵のやつじゃできねえっしょ! もう一生ついていきます!」
……相変わらず茂木さんの思考はよくわからない。だが一生とかは本気で勘弁してください!
「あっ、そろそろ仕事に戻らないと。今度組手とかに付き合ってくれると嬉しいっす! それじゃあ兄貴、これで失礼します!」
……嵐のような人だったな。まあアドバイスとかはできないかわりに、組手とかなら手伝ってもあげてもいいかもしれない。
「……えっと、どういう状況?」
「……あの人立原のことを兄貴とか呼んでなかったか?」
「……あの人のことは気にしないで。たぶん他の人に害はないと思うから」
安倍と渡辺のところへ戻る。当の本人は自分の仕事に戻っていったようだ。本当にいろいろと忙しい人だな。そしてライブが終わったばかりというのに、いろいろな人に指示を飛ばしている。
「はい、じゃあこれが次のステージの衣装ね。着心地に問題ないか後でチェックしておいて。あとはこれが次回のヘアメイクさんへの指示書。衣装のイメージと合う感じでお願いって伝えといて!」
「……もしかして茂木さんて仕事できたりするの?」
川端さんに小さな声で聞いてみる。
「うん、衣装の仕事自体は親のコネとかじゃなくて、実力で入ったらしいよ。それに仕事に関してはメンバーからの評判もすごくいいってゆかりが言ってた」
……意外と仕事の方はきっちりこなしているんだな。イケメンで仕事もできて親は有名な人で総合格闘技もやっていて大会に出るほど強い。……この人の基本スペックは本当に高いのになぜ性格はあんなに残念なのだろう?
「この度はゆかりさんとそのお友達にご迷惑をかけて本当にすみませんでした!」
ようやく本題である飯島さんの謝罪ができた。他のみんなは控室の少し離れた椅子に座って待っている。ありえないが、飯島さんが佐山さんに何かする可能性を考えて俺は飯島さんの隣にいる。
「詳しい事情は立原さんから聞いています。私を守ろうとして見守ってくれていたんですよね。でもやっぱり少し怖かったのでもうしないでくださいね」
「はい! 立原くんに言われて冷静になって考えてみましたが、どう考えてもやりすぎていました。あれでは僕がストーカーと同じでゆかりさんを怖がらせてしまって当然です。もちろん、もう二度とこんなことはしません!」
「ええ、それなら今回のことは許します。それにライブとかも普通にきてくれても大丈夫ですよ」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、太っていることを気にしていると聞きましたけど、同じくらいの体型の人も結構来られますよ。気にしなくても大丈夫です」
「あっ、ありがとうございます!」
「あっ、でもあんまり無理はしないでくださいね。やっぱりライブとかって結構お金がかかるから、余裕のある時だけで大丈夫ですよ」
「はい、絶対にまたきます!」
電話でも許すと伝えていたが、実際に面と向かって許すと言われた飯島さんは本当に嬉しそうだった。
「佐山さん、飯島さんを許してくれてありがとうね」
先に飯島さんはみんなの方へ戻っていった。俺は少し残って佐山さんと話をしていた。
「いえ、それは立原さんがお礼を言うことではありませんよ。それにお礼を言うのはこちらのほうです。茂木さんの件も飯島さんの件も本当にありがとうございました! おかげさまで今は何の心配もなく活動ができるようになりました!」
「それはよかった! 今日もすっごく元気に歌って踊っていたよね、なんだか俺も元気をもらえた気がするよ!」
ライブに来たのは初めてだったが、可愛い女の子達が元気よく歌って踊っている姿を見ていたらなんだか元気をもらえた気がする。
「うわ、そう言ってもらえると私もとっても嬉しいです!」
そういいながら笑顔を見せる佐山さんは本当に可愛かった。
「うん、今度ライブに来たときは俺も佐山さんと一緒にチェキを撮ってもらいたいな。アイドルとのツーショットなんてすごい宝物だし」
「た、宝物なんて大げさですよ! あの、あの! もしよかったら今度一緒にどこかに遊びに行きませんか?」
「もちろん、よろこんで! もしできたら川端さんだけじゃなくて俺の友達も誘っていいかな?」
「……あっ、はい。もちろん大丈夫ですよ。みんなで一緒に遊びに行きましょうね……はぁ」
なぜか目に見えてがっかりしている佐山さん。まさか人気アイドルに2人で遊びに誘われるなんてことは現実的に起こり得るはずないしな。
「それじゃあまた連絡するね! あとなにかあったらいつでも気軽に言ってね。俺はいつでも佐山さんの力になるから!」
「っ!! ありがとうございます、また連絡しますね!」
あれ、なぜかちょっと元気が出たのかな。とりあえず今日は本当に楽しかったな。チェキも一緒に撮ってもらいたいし、またみんなを誘ってライブに行ってみよう。
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