第54話 お裾分け


 結局昨日は初めてのドラゴンの肉をリリスさん達とお腹いっぱい食べたことにより、サーラさんの屋敷には行くことができなかった。


 そして日曜日の昼前、今日も異世界の扉を通って異世界へ。転移魔法を使ってルクセリアの街の近くの森に転移する。門番に通行証を見せて街の中に入った。


「……相変わらずの警備だな」


 先週サーラさんの屋敷を訪れた時と同じで、屋敷の前には大勢の門番がいた。どうやら第一王子と第二王子が命じた警備は今日も続いているらしい。


「すみません、サーラ様の知り合いのマサヨシと申しますが、サーラ様はいらっしゃいますか?」


 門番の人に話しかけてみる。前回来た時と同じ人だったと思うけど覚えているかな。


「マサヨシ様ですね。はい、今屋敷の者を呼びに行かせますので少々お待ちください」


「はい」


 よかった、覚えてくれていたようだ。いつもの屋敷の人が迎えに来てくれた。当たり前だがサーラさんの顔見知りであっても一人では通してはくれないみたいだ。




「おや、マサヨシ殿、お久しぶりですな」


「ダルガさん、お久しぶりです! サーラさんはいますか?」


「姫様は今習い事の時間ですが、もう少しすれば終わると思います。お急ぎのご用件ですかな?」


「いえ、ちょっと良い食材が手に入ったので、この前のジーナさんからいただいた大魔導士の情報のお礼もあわせて一緒にいかがかなと思いまして」


「おお、それは姫様もジーナも喜ぶでしょうな。この前いただきましたケーキというものは非常に美味でした」


「もちろんダルガさんの分もありますよ。それにケーキも持ってきています。それで料理のできる方に調理をお願いしたいのですが」


「ええ、こちらにどうぞ。料理長を紹介しますよ」




「初めまして、この屋敷での料理を担当しておりますファラーと申します」


「初めまして、マサヨシと申します」


「お話はお伺いしております。なんでも姫様の恩人であると。そしてこの前マサヨシ様よりいただきましたケーキなるものは大変美味であったともお伺いしております」


「おお、そうなんですね。今日はケーキを少し多めに持ってきているので、ファラーさんもぜひ食べて見てください」


「本当ですか! 実はお話を聞いてぜひ私も御相伴にあずかりたいと思っておりましたのですよ。感謝致します。それで本日はなんでも良い食材が手に入ったと……」


「ええ、これなんですけどなんでもワイバーンの上位種の肉だそうで、ぜひ料理人の方に調理してもらいたいと思いまして」


「……おお、これが収納魔法! 食材もしまえるとは非常に便利ですな。ふむ、確かにワイバーンの肉よりも質が格段に良いですね! これほど質の良い肉は初めて見ました!」


 ドラゴンもワイバーンの上位種だろうからな、特に嘘は言っていない。さすがに事情を知らないサーラさん達にちょっとドラゴン狩ってきましたとは言い難い。


「それとこのふたつのタレは俺の故郷で使われているタレです。焼いた肉に合わせると美味しいのでぜひ使ってみてください」


 あらかじめ小瓶に詰め替えておいた黄金のタレとおろしのタレをファラーさんに渡す。


「なんともかわった色のタレですな。ありがたく使わせていただきます」




「おお〜なるほど。肉はそう焼くのがいいんですね、勉強になります」


「ええ、この肉は質が良くスジも少ないですが、それでも少し叩いたりスジを取り除くことでより柔らかくなりますね。それと強火で一気に焼いたあとに弱火か余熱でじっくりと加熱することで、その肉汁をしっかりと閉じ込めることができますよ」


 さすが本職の料理人だ。とても勉強になる。ファラーさんが食事の準備をしている間にその様子を見せてもらっていた。


 手際良く何種類かの料理を仕上げていくファラーさん。煮込み料理などの手の込んだ料理は、俺じゃなかなか作ることができないから参考になる。


「マサヨシ様!」


「サーラさん、お久しぶりです」


 調理場のドアを開けていきなりサーラさんが入ってきた。先週の土曜日以降だから一週間ぶりか。今日も満面の笑顔でとても可愛らしい。


「お久しぶりです、お元気そうで何よりです! 今日はなんでも珍しい食材があるとじいから聞いております!」


「はい、前回はジーナさんから大魔導士の情報をいただいたのでそのお礼です。もう少しでできるので、あとちょっとだけ待っててくださいね」


「はい、お待ちしております!」




「というわけでワイバーンの上位種の良い食材が手に入ったのでお裾分けです。ジーナさん、この間は大魔導士の資料をありがとうございました」


 まだ半分も読めてないんだけどね。さすがに200ページは分厚すぎた。


「いえいえ、大魔導士様を敬う同志として当然のことをしたまでです。私の方こそ、わざわざありがとうございます」


 ……大魔導士を敬う同志かはわからないがとりあえず助かってはいる。


「調理はファラーさんにお願いしました。あっ、こっちの料理だけは俺が作った故郷の料理です。カツと言って衣を付けた肉を油で揚げた料理になります。こっちのソースという調味料をつけるとなかなか美味しいですよ」


 ドラゴンカツについては昨日リリスさん達の家でカツを揚げたときに、今日の分も揚げておいた。揚げ物系はなかなか手間がかかるからな。一気に作っておいて収納魔法でいつでもアツアツをお届けだ。


「おお、これは何という美味さだ! 今まで食べた肉の中でも一番かもしれない!」


「すごい、肉もそうですが初めての味ばかりです!」


「っ!! マサヨシ様、このカツという料理はとても美味しいです! このソースも初めての味です!」


 うん、リリスさん達と同様、好評のようだ。俺もファラーさんが作ってくれた料理を食べてみる。


 う〜ん、昨日作った料理ももともとの肉が美味いだけあってとても美味しかったが、やはり本職の料理人が作った料理は一味も二味も違う。肉の厚さから火加減まですべてこだわっているのだろう。


 そしてドラゴンの肉と野菜の煮込み料理や、ローストビーフならぬローストドラゴンもとても美味しかった。しかもローストドラゴンには俺が持ってきた黄金のタレとおろしのタレを使ってくれている。そう、元の世界でもローストビーフにはどっちのタレも抜群に合ってたもんな。これは素晴らしい!!

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