第47話 最後の一人


 おし!さっきの3人を助けたことで、あと工場の中に取り残されているのは1人!


 いける、いけるぞ!


 どうやらこの大魔導士の能力は救助にめちゃくちゃ向いているようだ。生存者の位置を気配察知スキルで一瞬で把握でき、危機察知スキルで危険度の高い順に救助ができる。


 要救助者のもとへ一直線に行けるし、邪魔な障害物があれば素手で取り除き、建物が崩れそうになっても魔法で支えられる。怪我人がいても回復魔法で一瞬で治せるし、たとえ閉じ込められてしまっても転移魔法で一瞬で脱出できる。


 火の海の中に飛び込んでもこのスーツのおかげで熱くもなんともない。さすがよくわからないけど神霊布とかいうやばそうな布を使った甲斐があった。




 今のところ助けた人達には回復魔法をかけ、スリープで眠らせてから工場から離れた場所にまとめて避難させておいた。しばらくしたらみんな目を覚ますだろう。


 工場内にいた人達はさっきの男性の人みたいに何かに挟まってしまったり、ドアが変形して閉じ込められてしまった人達が大半だった。これで20人近く助けたが残るは最後の一人。


 今のところ危機察知スキルも反応していないし、危険が差し迫っているわけではない。なんとか俺が到着してからは全員無事に救助することができそうだ。しかし、最後の一人はなんでこんなに工場の奥の方にいるんだ? まさか自分から奥に進んだわけではないと思うが……





「……くそ! こんなものでは焼石に水か!」


 高く積み上がった資材の山。なんとか一人でここまで積み上げてきたが、それも焼け石に水にすぎない。あとはここまで炎が迫らないこと祈るしかないか。


 バカアアアアアン


「うおらあああああ!」


「うわ、なんだあ!」


 よし、最後の一人を発見した。さっさと救助して出るとしよう。


「よし、あなたが工場に残っている最後の一人です。早くここから脱出しましょう!」


「まっ、待ってくれ! よくわからない格好をしているがもしかしてレスキューの人か?」


 ……わかってはいたが、変な格好とかよくわからない格好とか言われたい放題である。どうみてもレスキューの格好ではないから仕方のないことだが。最後の一人は茶色のツナギを着た60代くらいの男性だった。


「レスキューではないけど、助けには来ました。というかこんな場所で何をしてたんですか?」


 よくわからないけれど火から逃げてこんな奥まで来たわけではないのかもしれない。資材を積み上げているが何をしようとしていたんだ?


「頼む、仲間に連絡して早く火を鎮火させるように連絡してくれ! あれに引火してしまっては一大事だ!」


 男性が指を指す先にはかなりの数のドラム缶が転がっていた。全部で50近くはある。


「えっと、あれは?」


「あれはこの工場で出た廃棄物だ。しかも可燃性で燃えれば人にも害のある有害なガスが発生する!」


 やだ何それ怖い……そんなドラム缶が50もあるんですけど。


「……普通の工場ってそんなやばいものがこんなにいっぱい置いてあるものなんですか?」


「そんなことあるはずがない。普通の工場は危険な廃棄物が出た段階で専門の回収業者に頼んで回収してもらうんだ。……ただうちの会社は社長が経費削減のために廃棄物を溜め込んでから格安の回収業者に頼むよう指示している。もちろん違法だ……」


「最悪な社長だな!!」


 さっきの従業員の人の話だと、そもそもの爆発事故が起こった原因も、社長が工場の安全面の不備を知りながら放置していたせいだったよな、おい!


 今からでも社長を探し出して、今も燃え盛っている工場の中に置き去りにしていってやろうか!


「あなたはこの廃棄物を火事から守ろうとしてたんですね」


「ああ、そもそもこのことは社長と私を含めた役員数人しか知らないんだ。私が工場から脱出して消防やレスキューの人に話しても間に合うか分からなかった。今日は他の者は来ていなかったし、社長は一番に逃げ出したし、私がなんとかするしかないと思ったんだ」


「………………」


 この人もいっぱいいっぱいだったのかもな。逃げて消防やレスキューの人達に周囲の避難を呼びかけてもらったほうがよかった気もしなくはないが、この人なりに必死だったのはよくわかる。でなければわざわざより危険な工場の中に残るという選択肢は取らなかっただろう。


 もちろんこの廃棄物を溜め込んでいたことを知っていて黙っていたこの役員の人達にも責任はあると思うが、そのあたりは俺が裁くことではない。


 ……まあ法とか罪とかとは置いておいてこの工場の社長を一発ブン殴りに行きたくなったが、とりあえずヤるとしても後にしておかないと。


「事情はわかりました。引火しなければ大丈夫なんですね? あと他にそんな危険なものは、もうこの工場にはないですよね?」


「あっ、ああ!気化しても害はあるが、燃えさえしなければそれほど広がらないし、少し有害なくらいだ。これ以外に危険なものはもうないだろう」


「わかりました、それではあとはこちらに任せて脱出しますよ」


「ああ、本当にすまな……」


 グラッ


「っ!!」


 おっと余震か!でもさっきほどまでの揺れは感じられない。


 ガランッ、ガランッ


 しかし大量のドラム缶の上から2つが転がり落ちてきた。さっきの地震でバランスが崩れて今の余震でとどめを刺されたのかもしれない。


「うわっ!!」


「おっと!」


 そのうちのひとつがこの男性に直撃コースだったので、両腕でキャッチした。ふう危ない、危ない。


「………………えっと重くないの?」


「い、いえ! もちろん重かったですよ! ギリギリでした!」


 キャッチしたドラム缶をゆっくりと降ろす。


「ギリギリというか人ひとりで持てる重さじゃないような……というか最初も天井から入ってきたような……」


「スリープ!」


「……ふあ」


 ふう、これ以上は危ないところだった。よし、まずはこの人を避難させよう。


 んっ?さっきの余震で落ちてきたドラム缶のひとつが鉄パイプの飛び出た壁にぶつかって中身が漏れてしまっているな。たしか気化しても多少危険だと言っていたし、一応収納魔法で回収しておくか。

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