第46話 勇気ある若者
くそっ無駄な時間をとってしまった。急がないと!
一応近くでなんらかの事件が起こった時のためにシミュレーションはしてある。トイレの中に入りカバンを収納魔法でしまい、結構前に大魔導士の家で作った変装スーツを学生服の上に装着し黒い面を付ける。
あの工場から一番近い場所は……ここだ!
転移魔法を使って爆発したという工場から一番近くの中継ポイントであるビルの屋上に移動する。ここのビルだけでなく、周りに高いビルがなく、人が出入りせず、監視カメラのないビルの屋上をいくつか中継ポイントとして不法侵入……じゃなかった、こっそりとお邪魔させてもらっていた。
さすがに変装スーツを作ったのに、うちの高校から出入りしていることがバレたら意味がないもんな。どうよ、完璧なプランじゃね?
なんて自画自賛している場合じゃない。転移したビルから急いで爆発のあった工場へ向かう。飛行魔法を使うことはできないが、風魔法で足場を作って宙を走り一直線に目的地まで走っていく。
隠密スキルを使っているし、もし見られたとしても鳥とかにしか見えないと信じたい。
「っ!! 見えた!」
確かに工場が燃えている。消防車はすでに到着しており、消化作業を行なっているが、火災の規模が非常に大きい。そして工場の内部で危機察知スキルにいくつもの反応があった。やばそうな反応があるところから順に急ぐしかない!
――――――――――――――――――――――――
「くそ、あのクソ社長が! だから安全面にもっと気を使えと散々言っただろうが!」
「そのくせ一人で先に逃げ出しやがってよ! 駄目だ、全然持ち上がらねえ!」
「おい、もういい! このままじゃ君達まで死んでしまう! 私を置いて早く逃げるんだ!」
「いいからおっさんももっと力入れろ! 絶対に全員で出るぞ!」
あの大きな地震の後、いきなり大きな爆発があった。あれほど社員全員で安全面について不備があると社長に意見したが、一向に聞き入れてくれなかった結果がこれだ。
更に運の悪いことに爆発の衝撃で私の頭上から多くの資材が降ってきた。直撃は避けられたものの、腰から下に資材が覆い被さり、完全に身動きが取れなくなってしまった。
他の者達が我先にと逃げ出そうとする中、この2人の若者だけは自らの危険を顧みず、今の今まで必死に私を助け出そうとしてくれていた。
茶髪であろうとそれがどうした。多少口が悪くあろうともそんなの関係ない。まったく、この2人の本当の優しさに今まで気付かなかったのだから私は本当に情けない。
「竹下くん、三木元くん、本当にありがとう。だが、もういいんだ。もう私の腰から下の感覚はない……たとえ資材をどかすことができてももう私は助からない。頼むから君達だけでも逃げてくれ……」
徐々に増えていく重さに痛みを通り越して、もう私の腰から下の感覚はない。口の中は血の味しかしない。
「……おっさん!」
「くそがっ!」
「……最後に、妻と息子にずっと愛していたとだけ伝えてほしい」
「おっさん……ああ、約束する!」
「俺もだ、約束する!」
「ありがとう! さあ早く君達も逃げてくれ! ほら、急ぐんだ!」
「……くそ!」
「すまねえ、すまねえ……」
よかった、行ってくれたようだな。ああ、神様。こんな老いぼれを最後まで助けようとしてくれたあの勇気ある若者達をどうか助けてください。
これから私は死ぬ。倒壊した建物に潰されるか火に焼かれながら死んでいく。最後に妻と息子にもう一度だけ会いたかった……
「うおらあああああ!」
「……っんな!」
私が死の覚悟を決めた瞬間、突如工場の天井をぶち破って、何者かが突然現れた。
「聞き耳スキルで全部聞こえてんだよ! そういう感動ドラマはテレビの中だけにしてくれよ!」
現れるなり訳のわからないことを言い出し始めた謎の男。真っ黒な仮面にマントまで付けてどこかで見たようなおかしな格好をしているが、まさかこんな状況でもう助けが来たのか?
「おい、なんだ今の音!」
「助けが来たのか!」
い、いけない! 2人が戻ってきてしまった!
「そ、そこのあなた、私は腰から下が潰れてもう助からない。この2人を連れて早く逃げてくれ!」
「おい、あんた! そんなおかしな格好をしているがレスキューなんだろ、3人でやりゃあおっさんを助けられるかもしれねえ!」
「頼む、力を貸してくれ!」
「スリープ」
「……ふあ」
「……んな」
「おっ、おい!」
なんだ、2人が急に倒れてしまったぞ!
「頼む、そこの2人を連れて早く逃げてくれ! 2人とも最後まで私のような老いぼれを助けようとしてくれた勇気ある若者なんだ!」
「……任せろ! あんたも含めて必ず助ける!」
「私はもう無理だ! いいから2人を連れて早く逃げてくれ!」
仮面の男が私の足の資材をどけようとする。だが2人でも無理だったのにそんな細腕でできるわけが……
ミシミシミシ
「んな!?」
2人があれほど試してもびくともしなかった資材がいとも容易く押しのけられた。この男見た目と違ってかなりの力の持ち主のようだ。だがたとえ資材をどけられたとしてももう私は持たないだろう……
「よし、もう大丈夫だ。安心してくれ! ハイヒール! スリープ!」
「……なあ」
う、急に眠気が……そんな、こんなところで気を失うわけには……
……はっ!!
ここはどこだ! あの二人は、竹下くんと三木元くんは無事なのか!?
ああ、よかった、ふたりとも隣にいる! 他にも10人近くの人が横になっていた。ここはどこかの公園か?
「竹下くん! 三木元くん!」
「……うぅ」
「……んぁ」
「よかった、ふたりとも無事だったんだね!」
「おっ、おいおっさん! その足……」
「足? えっ、な、なんで!?」
今の今まで気付かなかった。資材に押し潰されてしまった私の足。しかしそこには今まで何十年も付き合ってきた私の足がそのままの姿でそこにあった。潰れるどころか折れてさえいない。足の指先も動く!
「すげえ、傷ひとつねえじゃんか!」
「なんでだ、俺も細けえ切り傷が治ってやがる!」
「……変な仮面の男が現れたところまでは覚えてんだけどなあ」
「ああ、俺も俺も!」
……もしこれが夢でなかったなら、あの黒い仮面の男が私の傷を治してくれたのだろうか? いや、まさかそんな映画みたいなこと……
いや、何にせよ今こうして3人が無事に生きている。そのことに深く感謝をしよう。
「竹下くん、三木元くん、最後まで私を助けようとしてくれて本当にありがとう」
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