第48話 エガートンの街の冒険者ギルド


 その後、最後の一人を他の人達と同じ場所に避難させた。さっきのように余震でドラム缶が崩れないように、重ねておいてあったドラム缶をすべておろした。


 ここまできたらもう行くとこまで行ってしまえということで、廃棄物のドラム缶があった場所から消防の消火活動を手伝った。


 やろうと思えば工場全体の消火も一瞬でできそうだが、さすがにそれは不自然すぎるからやめておき、水魔法を使い、工場を少しずつ消火していく。消火作業がある程度落ち着いたところで、工場から離れて転移魔法で家まで帰った。




 さすがに今日は本格的に疲れた。人を連れての転移魔法も散々使ったし、回復魔法もかなりの回数を使用した。間違いなく今までで一番魔法を使用したこともあって多少は身体が怠い。だがさすがの大魔導士の力でまだまだ魔法を撃てる余力はありそうだ。


 とはいえ今日のところは異世界へ行く元気はもうなかった。明日は土曜日だし、またケーキでも買ってサーラさんの屋敷にお邪魔しようかな。あっ、その前にお昼くらいにリリスさん達に会いに行かないと。命の恩人と言っていた領主様が無事に助かっていればいいな。






 そして次の日の土曜日、ネットで昨日の地震について調べてみたが、やはり昨日の工場の爆発事故が大きなニュースとなっていた。


 非常に幸いなことに、あの爆発事故での犠牲者はゼロだったようだ。確かに俺が来てからは全員救助することができたが、それよりも前に死者が出ていなかったのは驚きだ。運良く爆発が起きた場所には人がいなかったらしい。


 爆発の原因は現在調査中となっており、社長が安全対策に手を抜いたことがバレるのは時間の問題のようだ。それに不法廃棄物の問題もあるから責任を追及されることは間違いない。


 俺のことに関しても今のところは特にニュースにはあがってはいない。変装スーツを着ていたから絶対に俺ということはバレてはないと思うが、変装スーツのこと自体は助けた人達から話を聞いて、何かしらの話題はでてくるかと思っていた。いろいろと情報が集まる数日後くらいには何かしら話が出ているかもしれないな。


 サーラさん達へのお土産用のケーキを買い、異世界へ移動する。いつものルクセリアの街ではなく、先日リリスさん達を送ったエガートンの街の近くに転移した。門番の人に通行証を見せて街の中に入れてもらい冒険者ギルドを目指す。


「ここか……」


 冒険者ギルド自体の場所はすぐにわかった。街の入り口の人に聞いたら簡単に教えてくれたし、遠目から見ても大きい建物でわかりやすかった。


 前回ルクセリアの街の冒険者ギルドに行った時はサーラさんやダルガさん達と一緒だったけど今はひとりでだいぶ緊張している。ただまあ身につけている鎧と剣はかなり立派なものだから、絡まれることはないと信じたい。


 カランカラン


 この街の冒険者ギルドも扉を開けるとベルが鳴る仕組みだった。ギルド内の視線が一斉にこちらに集中する。


 あたりを見回してみるが、リリスさん達はまだ来ていない。お昼ごろに来るとは言ったが、具体的な時間は言ってなかったし、11時はちょっと早すぎたか。少し冒険者ギルド内をまわって待ってみよう。


 視線が集まったのも最初だけで、特に絡まれるようなことがなかったのはラッキーだったな。いや、実際に新顔が冒険者ギルドに出入りするだけで絡んでくるような冒険者がいたら、それを許している冒険者ギルドに問題大アリだ。


 ふむふむ、こっちが依頼者のための受付で、こっちが冒険者のための受付か。そして受付に座っている受付嬢さん達はとても綺麗な人ばかりだ。この世界だとやる気が冒険者達の帰還率にほんのわずかだが直接影響しそうだし、受付嬢さん達を美人な人にするのは正解なのかもしれない。


 それでもってこれが依頼ボードか。ここから受注書を剥がして受付に持っていって依頼を受注するといった流れか。なになに、ビーカクック3体の討伐と納品、レッドブル1体の討伐と納品、求むワイバーンの牙10本などなどたくさんの依頼があった。


 そしてこっち側は初心者のクエストのようだ。家の引っ越しの手伝い、新規開店する飲食店のオープニングスタッフ、最近畑に現れるゴブリンの討伐。なるほど、この世界の冒険者は何でも屋のような存在なのかもしれない。


「あのう……」


「すみません……」


 振り向くとそこには明らかに冒険者になったばかりという格好をした2人の女性がいた。年は俺よりも若く、装備は小さめの皮の胸当てと脛当て、腰には小型のナイフを携えている。もちろん2人とも初めてみる顔だ。


「はい?」


「あの、こっちの低ランク帯の依頼を見ているということはE〜Fランクの冒険者、あるいはそれとも上のランクだけどこっちの依頼に興味があるのでしょうか?」


「えっと、私達はつい最近冒険者になったばかりのFランクです。あの、突然のお誘いですみません! もしお時間がありましたら、今日だけでもパーティを組んでいただけないでしょうか?実は実際に依頼を受けるのは今日が初めてなので少し不安で……」


 こここ、これは!!


 いわゆる逆ナンというものではないだろうか! そんなの都市伝説かと思っていたぞ! それとも身につけている装備が良い物であるのを見て誘ってきてくれたのかもしれないが、何にせよ女性からのお誘いなんて小学校以来初めてだ。


 くっ、しかし今の俺は冒険者登録をしていない。なんてこった、こんなことになるなら冒険者登録をしておけばよかった。……今からでも遅くはなかったりしないか、いやさすがに無理か。


「お誘いありがとうございます。申し訳ないのですが……」

 

「おい、そこのお嬢ちゃん達!」


 なんだか人相の悪い4人組がこちらに近付いてきた。

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