第32話 久しぶりの異世界へ


 さて、今日は金曜日だ。ストーカー問題も無事に解決したことだし、今日の授業が終わったらまた異世界に行こうと思う。


 前回行ったルクセリアの街は十分まわったし、他の街をまわってみるのも悪くないかもしれない。今のところの候補は海の近くの街に行って異世界の海産物を味わうか、山の方へ行ってそこに住まうドラゴンを討伐し、夢であるドラゴンステーキを食べるかの2択だな。


 えっ? 食べることばかりじゃないかって? そりゃ異世界に行けるなら美味しいものを食べることに全力を尽くすものだろう。一応他の候補に観光地として多くのドワーフ達が集まりその技術を競い合う鍛冶の街と、多くの獣人達が集まるケモミミの街があるのだが、個人的にはまずはグルメからだ!


 とりあえず今日はサーラさん達の屋敷に行って様子を見に行くのと、明日からの移動のための情報集めかな。今から放課後が待ち遠しい!





「立原くん、昨日電話でも伝えたけど本当にありがとうね」


 昼休みに川端さんから連絡を受けて中庭に呼ばれた。昨日のストーカー問題が解決したことについてはすでに川端さんにも電話で伝えてある。


「今回は相手が話のわかる人だったからよかったよ」


 茂木さんよりもよっぽど話が通じた。茂木さんもイケメンでアイドルの衣装担当で格闘技をやっていて相当ハイスペックなのになんで性格だけはあれほど残念なんだろう。


「まさか護衛をお願いしてからこんなにすぐに解決してくれるなんて思ってなかったわ。立原くんに頼んで本当によかった!」


「そう言ってくれると俺も頑張った甲斐があるよ。そういえばいろいろあって、安倍や渡辺とその飯島さんて人と佐山さんのライブに行くことになったんだけどせっかくなら川端さんも一緒に行かない?」


「えっ、飯島さんてその……ストーカーをしてた人だよね? 本当に大丈夫なの?」


「うん、結果的には佐山さんや川端さんに迷惑をかけてしまったけど、本当に彼女を害する気はなかったみたいだしね。ないと思うけど彼が暴れようとしたら絶対に俺がみんなを守ってみせるから!」


 絶対に同志を犯罪者なんかにはさせない。


「………………」


「あっ、やっぱり男4人と一緒に行くのはちょっと嫌か」


 よく考えたら女の子は川端さん1人だ。それによくわからないがライブとかは女の子のお客なんて全然いないかもしれない。


「う、ううん! それは大丈夫。それじゃあ一緒に行かせてもらうね!」


「うん! 細かい日程が決まったら連絡するね!」


 よかった、川端さんも一緒に来てくれるようだ。合計5人となかなかの大人数になったが、ライブ当日が楽しみだ。






 放課後、ダッシュで帰宅して天井にある異世界の扉を通り異世界へ移動する。そしてそこからルクセリアの街の近くにある森へ飛び、走って街まで進む。


 前回来た時にもらった通行証のおかげで門番のチェックもなく街に入ることができた。うん、やっぱりこの通行証は本当にありがたい。そして街の中を通りサーラさん達の屋敷の前まで来たのだが……


「……何これ?」


 サーラさんの屋敷の前に大勢の兵士達がいた。前に来た時は門の前に門番が数人がいるくらいだったが、今は門だけでなく屋敷の壁の周りを数メートルおきに兵士が配置されている。


「まさか、サーラさん達の身に何かあったんじゃ!?」


 これだけの警戒体制だ、みんなの身に何かあったのかもしれない!


「止まれ! 貴様は何者だ?」


 門の前にいる兵士達に止められる。いや、あんたらこそ何者かと聞きたいんだが?


「以前サーラ様にお世話になったマサヨシというものです。あの、サーラ様達に何かあったのでしょうか?」


「マサヨシ……サーラ様より伺っていた者か! 誰か門の中にいる門番を呼んできてくれ! マサヨシ様、申し訳ないのですが、お顔の確認をしたいのでほんの少しの間こちらでお待ちいただいてもよろしいですか?」


「あっ、はい」


 すぐに門の中から見知った顔の人が現れた。前回来た時にこの屋敷の門番をしていた人だったと思う。


「はい、間違いありません、マサヨシ様本人です」


「承知した。マサヨシ様、大変お待たせして申し訳ございません、どうぞ中へ」


「あっ、はい、ありがとうございます」


「よし、お前ら引き続き気を引き締めろ! ネズミ一匹通すんじゃないぞ!」


「「「はっ!!」」」


 ……なんなのこれ?




「えっと何があったんですか?」


 前に屋敷にいた時の門番さんに尋ねる。


「それが私にもさっぱりでして……ダルガ隊長に直接お伺いしていただいてもよろしいでしょうか」


「あっ、はい」


 とはいえさすがに少し予想はついている。サーラさん達はどうやら無事のようだし、おそらくは……


「それが我々にもさっぱりなのですよ。先日いきなり第一王子と第二王子が安全な王城に引っ越してこないかと姫様に打診がありました。


 自分達で姫様を城から追い出しておいて、なおかつ暗殺者を送り込んできた直後にそんなことを言い出すからには間違いなく罠があると思い断ったのですが、それならばせめて屋敷に護衛を置いてくれと。


 人選はこちらで決めていいし、費用も向こうが出すという、どう考えてもこちらに利しかない提案だったのでそちらについては受け入れました」


 ……ですよね〜、そういえばノリで王子2人にサーラさんを守るように勧めたような気がしないでもない。


「そして更には……」


「マサヨシ様!」


 おっとダルガさんと話している途中でサーラさんとジーナさんが部屋に入ってきた。


「サーラさん、ジーナさん、お久しぶりです」


「マサヨシ様、お久しぶりでございます」


「お久しぶりです! もっとすぐに会いにきてくれるものかと思っておりましたのに……」


 うっ、だからサーラさんのそんな顔は反則だって。


「すみません、ちょっといろいろと忙しくて。ってあれ、その腕輪は……」


「そうですね、マサヨシ様にもいろいろご都合がありますよね。あっ、この腕輪は『神雷の腕輪』と申しまして我が国の国宝の魔道具です。


 魔力を蓄えることができまして、今はまだ少ししかたまっておりませんが、最大までためればあの破滅の森の魔物すらも倒せるほどの力を持つといわれております。なぜか第一お兄様が、しばらくの間貸してくれることになりまして……」


 やっぱりあの時第一王子が腕に付けていたあの腕輪だった。そりゃ大魔導士の障壁魔法を破るくらいの威力だもんな、国宝だったというのも頷ける。


 てかどう考えてもやりすぎた。第一王子も第二王子もここまでするとは思わなかったぞ! まさか国宝の腕輪までサーラさんに貸すとは……


 いや、確かに王城よりもこの屋敷にいる方が危険だから目の届かないところにいるくらいなら、ちゃんとした自衛手段を持たせたいと思うのも当然と言えば当然か。まあ護衛や自衛手段が増えること自体は良いことなどでこのままにしておこう。


「……あの、マサヨシ様。もしかしてまたマサヨシ様が何かしてくれたのですか?」


 ギクッ! まさか城に忍び込んで王子二人を脅したなんて言えるわけがない!


「いえ、俺は関係ありませんよ」


 だが大丈夫、証拠はない。ふふ、残念だったな、明智くん!


「………………そうですか」


「そうだ、今日はみなさんにお土産を持ってきたんですよ!」


 サーラさんが疑った目でこちらをみてくるので話題変更だ。大丈夫、このブツなら話題を逸らせる自信がある!

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