第33話 大魔導士の情報


「……これは、初めて見ますけれどなんなのでしょう?」


「どれも美しいですな、綺麗な美術品でしょうか」


「ええ、玄関に飾らせていただきましょう」


「いえ、実はこれケーキというお菓子なんです。甘くて美味しいですよ。いろんな種類があるのでどれかひとつ選んでください」


 箱に入った色鮮やかなケーキ。ショートケーキにチョコレートケーキ、ミルフィーユにフルーツタルト。こっちの世界なら見た目がいいほうが喜ばれると思って、できる限り色鮮やかなケーキを選んできた。


 護衛のアルバイト代という臨時収入も手に入ったことだし、ちょっと奮発してみた。ついでに家には俺と母さんの分もある。


「これは食べ物なんですか!?」


「ほう、これはなんとも美しい!」


「ええ、とても綺麗です! この前いただいたマシュマロというお菓子もとても甘くて美味しかったですよね」


 銀紙とか透明なフィルムはこの世界の技術でできるか怪しかったから念のために外しておいた。いつも通りダルガさんとジーナさんが先に味を見てくれる。


「なんとも食べるのがもったいないですな。……こっ、これは!!」


「あっ、甘いです! この前のマシュマロよりももっと甘いだなんて!」


「うっ、じい、ジーナ、私も食べますね!……っつ、美味しい!!」


 前回この街の食べ歩きをした時に思ったのだが、どうやらこの世界には甘味が少ないらしい。街の屋台にもなかったし、唯一あったのは屋敷の食事で出たパンとクッキーの中間くらいの食感で少し甘めなお菓子もどきだけであった。そりゃ、マシュマロくらいの甘さでもあれだけ驚かれるわけだよ。


「素晴らしいですな! これほど美しく美味なるものがあるとは。マサヨシ殿、これはどちらで手に入れられたのですか?」


「これはうちの故郷で作られている特別なお菓子で製法や入手方法はちょっと秘密でお願いします」


「このケーキというものは販売しないんでしょうか? 貴族や王族に売れること間違いなしだと思います!」


 たぶんそうだろうな。これだけ綺麗で美味しい元の世界のケーキなら売れること間違いなしだろう。


「すみません、販売とかはする気はないんですよ。商売用とかで大量に仕入れることが難しくて」


 毎日大量のケーキを仕入れるのも難しいだろうし、日本の円を入手するいい方法もまだ見つけてないから販売は無理だ。


「……そうですか、とても残念です」


 サーラさんがとても残念そうな顔をする。


「また、来る時に持ってきますから、楽しみにしておいてください」


「本当ですか! 実は他の種類のものも食べてみたかったのです! お金ならお支払いしますのでぜひお願いします!」


 確かにこの数だとひとり一種類しか食べられない。晩ご飯前だし、カロリーも高いから一人ひとつ分しか持ってきていなかった。


「そこまで大したものではないので大丈夫ですよ。ジーナさんにはお願い事もしてありましたしね。また次回も持ってくるので、残りの二つはちゃんとあの時一緒に護衛していた2人にあげてくださいね」


「あ……そうですね、わかりました」


 余った二つのケーキも食べられると思っていたのだろう、サーラさんがまた残念そうな顔をする。また持ってくるから今回は我慢してください。





「それではマサヨシ様、こちらが以前にご依頼されておりました、私が知る限りの大魔導士様の情報です」


 ドサッ


 分厚っ!! A4くらいの用紙にびっしりと文字が書かれた紙の束が目の前に置かれた。


「えっと、こんなにあるんですね」


「はい、大魔導士様が今までになされてきた偉業、大魔導士様が行ったことのある国や場所、大魔導士様の子孫の情報、大魔導士様が使うことのできる魔法などできる限りまとめたつもりです!


 本来であればこの5倍くらいの量になるのですが、私の力不足で時間の関係上ここまでまとめる他ありませんでした。もう少しお時間をいただけましたら残りの分もまとめさせていただきますが?」


「いえ、これで本当に十分です! また何かわからない部分があったら、改めて聞きますから大丈夫です!」


 すでに200枚くらいあるんですけど! この5倍とかもらっても読みきれないから!


 俺としては大魔導士がどんな魔法を多用していたのかと、子孫の情報くらい聞ければよかったのだが、思っていた何十倍も頑張ってくれたらしい。さすがにここまでしてくれたんだし、今度ジーナさんにお礼を持ってこよう。


「本当にありがとうございます。今度何かお礼をしますね」


「いえ、大魔導士様を尊敬する者として当然のことをしたまでです。マサヨシ様も大魔導士様の教えをぜひこの世に広めてくださいね。大魔導士様を信じる者は救われます」


 宗教かよ! やっぱり大魔導士のことになるとジーナさんはちょっと怖い。


「え、ええ。本当に助かりました」


 収納魔法でもらった紙の束を仕舞う。また家に戻った後でゆっくりと読むとしよう。




「それではこれでお暇しますね。いろいろとありがとうございました。またすぐに遊びにきます」


「もう帰られてしまうのですか? このあと一緒に晩ご飯でもいかがでしょうか? そのまま屋敷に泊まってくださっても全然構いませんよ」


「すみません、今日はもう帰らないといけないので。またすぐに遊びきますよ」


「そうですか……残念ですが承知しました。お待ちしておりますのでいつでも来てくださいね!」


「ええ、またケーキも持ってきますね! では!」


 たった数百円のケーキであれだけ喜んでくれて何よりだ。サーラさんに会いに来る時はまた何か持ってこよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る