第29話 おちおち異世界にも行けない
「のぞみ、立原さんが来てるって聞いたけど大丈夫? 茂木さんと揉めてない?」
「あっ、ゆかり。ライブ終わったのね。えっと揉めているといえば揉めているんだけど……」
「………………えっと、これはどういう状況?」
どうやらライブが終わってみんな控室に戻ってきたようだ。可愛い衣装を身につけた佐山さん達が疲れた様子で部屋に入ってきた。そしてこちらはというと……
「お願いします! どうか兄貴の弟子にしてください〜!」
「いや、だから俺はそんな大した者じゃないって言っているじゃないですか! 昨日のはたまたまですって!」
「そんなわけないじゃないっすか! 兄貴、どうかご慈悲を〜」
佐山さんに付きまとわれるよりよっぽど面倒な状況になってしまった気がする。茂木さんが俺の足に縋り付いてくるが、男に縋り付いてこられても何にも嬉しくない。誰か助けて!
「あっ、あの茂木さん。立原さんが困ってますので……」
よかった、佐山さんから助けが入る。茂木さんも言い寄るほど好きだった佐山さんに言われれば正気を取り戻すだろう!
「佐山さん、いま兄貴と大事な話をしているから邪魔しないで!」
「えっ!? あっ、はい……」
おいいいい!! あんた昨日と態度変わりすぎだろ! 昨日はあんなにゆかりとか馴れ馴れしく呼び捨てにしてたのに、苗字呼びになってるぞ! 誰でもいいからこのカオスな状況をなんとかしてくれ〜
それからしばらくしてなんとか茂木さんを落ち着かせることができ、連絡先を教えることでなんとか俺の足から離れてもらった。うん、ストーカー問題が解決したら即ブロックになりそうだ。
「……まあ結果オーライでいいのかな?」
「……一応茂木さんがゆかりに言い寄ってくることはもうなさそうね」
「……なんででしょう、言い寄られなくなったことは嬉しいんですが、アイドルとしてはいろいろと負けた気分です」
とりあえず茂木さんを何とかした後、今日はそのまま川端さんと一緒にゆかりさんの家まで送っている。一応俺の狙いは成功してゆかりさんが言い寄られることはなくなったと思うのだが、これじゃない感がすごい。
「それじゃあ今日もありがとうございました」
「いえいえ。あっ、すみませんけど明日はちょっと予定があって護衛はできないんですけれど大丈夫ですか?」
「そうなんですね……ええ、大丈夫です! 明日もそれほど遅くはならないはずなんで!」
「私は予定がないから今日と同じくらいの時間に行くね!」
「うん、いつもありがとね、のぞみ!」
「本当にごめん!明後日からはしばらく空いてるから」
「いえ、立原さんにも予定があるのは当たり前です。空いてる時間だけでも本当に助かります! それじゃあまた明後日からよろしくお願いしますね!」
「ええ、それじゃあまた明後日」
佐山さんを家の前まで送り、そのまま俺達も帰宅した。今日はまだ明るかったから川端さんとも電車で別れた。
今日はまだ早いから異世界に行こうかとちょっと思ったが、いろいろと調べたいことがあったからおあずけだな。さっさとストーカー問題を解決しないとおちおち異世界にも行けない。
そして次の日の授業が終わる。
「立原、今日俺部活休みだからどっか寄ってかねえ?」
「ごめん、安倍。ちょっと今日は行かなきゃいけない所があるんだ」
「そっか、残念。それじゃあまた明日な〜」
「おう、また明日な〜」
安倍の誘いを断って帰宅の準備を進める。さあ、今日は急いで行かないといけない場所があるからな。
――――――――――――――――――――――――
……今日はあの高校生の男はいないようだな。いつも一緒にいるゆかりさんの親友の女の子だけだ。絶対に彼女に気づかれるわけにはいかないからもう少し距離を取ろう。
それにしてもあの男はいったいなんなんだ? ゆかりさんとどいう関係なのだろう? あの衣装係の茂木とかいう男がゆかりさんに付きまとっていたが、それと同じだろうか? たぶんそうだ、ああいうイケメンのやつらにはろくなやつがいない。
だが、安心してくれ、ゆかりさん! たとえ君が誰に狙われたとしても、必ず僕が他のやつらの悪意から守ってみせるから! 僕が捕まったところで君には迷惑はかからないし、君を守れるなら僕はどうなってもいい。
そう、本当はあの日に僕は死ぬつもりだった。でも君に出会って生きる希望が持てた。君に救われた命だ、君を守るためなら僕の命なんてこれっぽっちも惜しくはないよ。
「あの、すみません」
ちっ、勧誘かなんかか? うるさいな、今僕はゆかりさんを見守ることで忙しいんだ、無視だ、無視!
「もしも〜し」
しつこい奴だな、何度も僕の肩を叩いてきやがる!
「しつこいな、今忙しいんだよ!勧誘なら他を……」
………………なぜだ? なぜこの男がここにいる? 一昨日からゆかりさんと一緒にいた高校生の男がどうしてここに?
「やっとこっちを見てくれましたね。佐山ゆかりさんのことで少し話があるんですけどちょっといいですか?」
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