第28話 そういう狙いではない


 そして次の日学校に登校する。結局昨日は時間も遅くなってしまったので、異世界には行けなかった。今日も佐山さんの護衛をするから行けなくなるかもしれない。早めにストーカー問題をなんとかしたいところではある。


「ところで2人は佐山ゆかりって知ってる?」


 午前の授業が終わった昼休み、安倍と渡辺に佐山さんのことを聞いてみた。昨日家に帰って調べてみたが、ネット上ではどれくらいの知名度があるのかいまいちわからない。ファンクラブとかができているから結構有名だとは思うが。


「名前は聞いたことがあるな」


「えっ!! 2人とも知らないの? めちゃくちゃ有名だよ!」


 安倍は名前だけで渡辺は詳しく知ってそうだ。


「佐山ゆかりは今地下アイドルで一番人気のあるグループ『さんきゅ〜ガールズ』のメンバーで、たまにセンターでも歌っているくらい凄いんだよ!」


「なっ、なるほど」


 渡辺の説明に熱が入る。結構有名ということだけはよくわかった。


「それに彼女は僕たちと同級生でしかも近くの高見沢高校だから、結構身近なんだよ!」


「詳しすぎる!」


 同級生とかの情報はともかくなんで高校名まで知ってるんだよ! ありえないとは思うが、まさか渡辺がストーカー犯だったりするのか? 友達がストーカーとかマジでやだぞ。


「何言ってるんだよ、立原くん。こんなのちょっと詳しい人なら常識だよ」


「そうなのか? でも普通高校名とかって秘密なんじゃないの?」


「そりゃそうだよ。でも一部の熱狂的なファン達はすぐにそんなの調べてネットに上げちゃうんだ。本当に迷惑な人達だよね」


 ……その情報をネットで調べるのはセーフなのか?


 とはいえ、渡辺が知っているということは詳しい人達ならその情報を得ることはできるということで、ストーカーが必ずしも同じ高校にいるというわけではないかもしれない。


「でもなんで立原くんが佐山ゆかりさんのことを知ってるの? あんまり地下アイドルとかに興味なさそうだったのに」


「いや、昨日たまたま塩見原公園を通った時に野外ステージでライブをやっていたから、気になって後でネットで調べたらそのグループだったってわけ」


「ああ、なるほど。そういえば昨日その公園でミニライブがあったよね。僕も行きたかったけど部活もあったし、お金もそんなに余裕がないからね」


「ちなみに地下アイドルなのに外でライブするんだな」


「ははは、やだなあ立原くん。地下アイドルっていうのはテレビとかよりもライブを中心に活動しているアイドルのことを言うんだよ。握手会とかもあってファンとの距離も近いのが特徴だね。こんなの常識でしょ?」


 常識なの? 安倍の方をチラッと見て助けを求める。あっ、目を逸らしたし、たぶん安倍も知らないぞ。やっぱり渡辺の中だけの常識だな。


「もし興味があるなら今度一緒にライブでも行ってみる?」


「いいね、今度行ってみようか」


 ライブとか一度も行ったことがないけどちょっと興味はある。どこかにメイド服で歌って踊るアイドルグループとかいないかな。


「俺も、俺も、ぶっちゃけライブとか一度行ってみたかったし!」


「わかったよ、今度みんなの予定が合う時に行ってみよう」


 うん、久しぶりに3人でどこかに出かけるのも悪くない。せっかくならみんなで佐山さん達グループのライブを見にいってみるのもありかもしれないな。




「立原くん、お待たせ!」


「ううん、俺もちょうど今来たところ」


 授業が終わり、別の駅で川端さんと待ち合わせをする。今日も佐山さんはライブがあるから一緒にそこまで向かう予定だ。


 それにしてもいいな、なんだか恋人との待ち合わせみたいだ。今回の依頼で川端さんと佐山さんの連絡先もゲットできたし、ぶっちゃけお金よりもこっちの方が大きな報酬な気がする。


「それにしても茂木さんに会うのはちょっと憂鬱だなあ」


「向こうが悪いんだし立原くんは気にしなくても平気よ」


 向こうが悪いとは思うけどやりすぎたし、恨まれているだろうな。できれば露原達みたいにビビってこちらを無視してくれるのが一番なんだけどなあ。




 ライブ会場に到着した。今日は野外ではなく大きなライブ会場のようだ。今はちょうどライブの真っ最中で佐山さん達はステージにいる。今のうちに茂木さんに会いに行こう。


「失礼します」


 控室をノックして部屋に入る。川端さんには外で待っててほしかったんだけれど、どうしても一緒に来たいと言って聞いてくれなかった。


「ねえ、見て。あの男の子昨日の!」


「キャー、昨日のイケメンじゃない!?」


 昨日目立ちすぎたせいで控室が騒がしい。だからせめて外でやりたかったのに。えっと茂木さんはというと……あっ、いた。


 椅子に座って真剣な表情をしてじっとこちらを見てくる。やばいなあ、やっぱり昨日のことを根に持っているよな……こういう時は先にこちらから頭を下げよう。


「あの、茂木さん。昨日は大変失礼しました。無礼なことをして本当にすみません」


 頭を90度近く下げる。いわゆる最敬礼というやつだ。こちとら伊達にいじめられて頭を下げ続けていたわけではない!理不尽なことで謝ることは慣れている……うん、なんにも威張れることではない。


「………………」


 無言の圧力……これはよっぽど頭にきてるに違いない。


「なにを言ってるんですか、兄貴!! 悪いのはどう考えても俺じゃないっすか! 早く頭をあげてください!」


「………………はい?」


「いえ、ですから昨日は本当にすんませんでした! マジ反省してます、この通り!」


 顔を上げるとなぜか茂木さんが頭を下げてくる。おかしいな、確か昨日最後に頭を攻撃したけど頭がおかしくなっちゃたんじゃないよな?あるいは変なスキルとかが勝手に発動してしまったとかか? てか兄貴ってなんだよ?


「昨日兄貴にボコボコにやられた後、いろいろと考えてみたっす! 初めはすげー恥かかされたと思ってむかついてたんすけど、1時間くらい考えたら最後の俺の攻撃なんて兄貴なら簡単に避けられたじゃないかって気付いたっす!


 それなのになんでわざと俺の攻撃を食らったかのかというと後ろの女子2人を守るためだったんですね! ふふ、他の人の目は欺けても俺の目は欺けませんよ!


 強いだけじゃなくて女も守るとかマジカッケェっす! マジリスペクトっす!」


「………………」


 いやたぶん茂木さん以外みんなすぐに気づいていたらしいよ。


「しかも俺、結構ガチで総合格闘技やってたんすけど兄貴の動きがまったく見えなかったっす! マジ強えし、もうこれは弟子入りするしかないと思ったわけっす! どうか兄貴と呼ばせてください!」

 

「なんでだよ!」


 あまりの意味不明さに、年上の茂木さんに思わずタメ口になってしまった。


 いやいや、おかしい。確かに茂木さんのベクトルは佐山さんからこちらに向いたが、そういう狙いではない。向けるなら怒りとか恨みとかじゃないのかよ!

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