第21話 戻ってきた日常
「ふう、とりあえずうまくいったな」
サーラさん達と別れたあと、俺はその足で野暮用を片付けに王城に向かった。さすがに2回も襲撃されているサーラさんを見て黙っていられるわけがない。
実際に2回目の襲撃では俺も被害を受けたわけだし、サーラさんが大魔導士の子孫というのも大きな理由のひとつだ。さすがにこれだけの力を無理やりとはいえ継承してくれたわけだし、その恩人の子孫を放っておくほど恩知らずでもない。
実際にやったことは単純だった。王城へ忍び込み、第一王子と第二王子の部屋を探して威圧スキルで脅す、ただそれだけだ。侵入は大魔導士の隠密スキルでうまくいったが、さすがに強そうな護衛には隠密スキルがバレそうになったから麻痺と睡眠の魔法でしばらくおとなしくしてもらった。
だがさすがに第一王子のあの魔道具にはマジでビビったわ。まさか戦闘力が全く無さそうな男からあんな一撃が放たれるとは思っていなかったもんな。危機察知スキルが今までで最大に反応し、咄嗟に障壁魔法を三重に張って防ごうとしたが。そのうちの1枚は割れていた。あの大魔導士の障壁魔法を1枚でもブチ破るとは恐ろしい威力だった。
さすがにレベルを継承して強化されたこの肉体でも生身であれを受けていたら間違いなく死んでいただろう。そう思うと今になって少し身震いした。
それ以外は特に問題なく目的を果たすことができた。第二王子に関しても第一王子みたいな魔道具を持たされているのではないかとかなり警戒したが、さすがにそんなことはなかった。まあ、あんな魔道具がポンポン出てきたら破滅の森の魔物があれほど恐れられているわけはないからな。
ちなみに呪いに関しては全くの嘘っぱちだ。一応大魔導士から継承した魔法の中には呪いのような物もあったが、そこまで都合よく人を縛れる魔法はなかった。だがあれだけ圧倒的な力を見せつければ、呪いの存在もかなり現実味があるはずだ。
これで少なくともあの王子2人からサーラさんが狙われることはないだろう。威圧スキルを結構強めに使ったし、恐怖で喋ることもできていなかったから相当こたえたはずだ。
もう時刻は夕方になっている。野暮用を片付けるのに結構な時間がかかってしまったようだ。やはり王子達2人の部屋を探すのが思ったよりも手間だったな。あの城広すぎるんだもん。
街の外に出て、近くの森の中に入ってから大魔導士の家に転移する。うん、この家も特に3日前と同じで魔物に侵入された形跡もない。元の世界への扉を抜けて自分の部屋に戻る。
それにしても3連休の間にめちゃくちゃいろいろあったな。運命の杖に導かれて賊に襲われている人たちを助けたら、それがエルフで王族で。異世界の街も堪能できたし、城に潜入して大魔導士の力の凄さも確認できた。
それにしても明日からの学校は面倒だ。間違えて魔法を使わないように気をつけないとな。
月曜の朝、重い足取りで学校に向かう。昨日の夜は母さんに三連休に出掛けていた場所について聞かれて、なんとか適当に誤魔化すことができた。今度からは写真とかお土産とかを準備しておいた方がいいかもしれない。
「安倍、渡辺、おはよう」
「おう、立原、おはよう」
「立原くん、おはよう」
今日は俺が最後だったらしく、教室ではすでに安倍と渡辺が登校して2人で話していた。カバンを自分の席に置いて2人の方へ向かう。
「立原、おはよう」
「立原、おっす〜」
「おは〜」
2人の席へ向かう途中に先週末の放課後に話しかけてきた女子3人が挨拶してくれた。
「柳さん、市川さん、吉井さん、おはよう」
少し思うことはある3人だが、挨拶をされて返さないのは人として駄目だからな。というか、たとえ性格が悪くても可愛い女子におはようと声をかけられて嬉しくない男子など存在しない。
「立原くん、おはよう。先週の体育の時はありがとうね!」
「川端さん、おはよう! 川端さんが怪我しなくて本当によかったよ」
川端さんからも挨拶をしてくれた。とはいえ川端さんは俺が太っていていじめられていた頃も、朝廊下でばったり会った時とかにはちゃんと挨拶してくれていた。
「朝からモテモテじゃないか?」
「リア充爆発しろって感じだよね〜」
安倍と渡辺の席の方に行くといきなり2人から嫌味を言われる。まあ俺でも逆の立場なら言ってたかもしれない。
「たぶん最初のうちだけだって。そういえば2人がおすすめしてくれた漫画読んだよ。どっちも先が気になったから今度小遣いもらったら最新刊まで揃えるかな」
先週安倍と一緒に本屋へ行った時に、2人に勧められた漫画を2巻ずつ買ってみた。昨日の夜異世界から戻ってから読んでみたけどなかなか面白かった。今はもうお金がないから最新刊まで買えないが、お金が貯まったら買ってみよう。
「ああ、あれ読んだんだな。漫画だけじゃなくてアニメの方も面白えから時間あったら見てみてくれよ」
「うん、あれ面白かったでしょ。ヒロインの女の子が可愛いんだよね!」
「なるほどアニメなら無料だし見てみるかな。あと渡辺の勧めてくれた漫画はヒロインもそうだけどストーリーも結構よかったよ」
朝から女子に声をかけられ、友達とアニメや漫画の話をしたり俺の学生生活もリア充に少し近付いてきたみたいだ。
ちなみに今日から磯崎は一週間謹慎期間である。来週の月曜まで顔を合わせないで済むと思うとせいせいする。露原達のグループは、磯崎が先週こちらに手を出したことで、俺の言動をビクビクしながら見ている。さすがに先週は磯崎の暴走を止めようとしていたし、他のやつらは俺に手を出そうとしていたわけではないから今回は別に何もしないのにな。
まあ俺がいじめられていた頃みたいに、せいぜい俺の言動にいちいち怯えながら過ごせばいいさ。
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