第19話 せめて俺のいないところでやってくれ


「「「………………」」」


「えっと、サーラさん、ダルガさん、ジーナさん。この黒の暗殺者とかいうやつはどうしましょう?」


「……はっ、すみません、思考が飛んでおりました。まさかあの黒の暗殺者を一瞬で拘束してしまうとは。あれほどの騒ぎなのですぐに憲兵がここにやってくるでしょう。そのあと誰に依頼されたかを吐かせましょう」


 ダルガさんが再起動したようだ。しかし、まさかまたサーラさんが襲撃されるとはな。また前回と同じ第二王子の仕業か?


「……馬鹿が! 誰が依頼主の情報など吐くものか! 貴様のような化物が存在するとは私の不覚だった。いざさらば! ぐっ…………」


「くっ、まさか毒を口の中に隠しておったか! これでは誰が依頼したかわからん!」


「……ざまあみろ、我らは決して情報など誰にも漏らさん! ぐ、ぐふっ……」


「ハイキュア!」


「………………」


 解毒魔法を唱える。先程までだんだんと顔色が悪くなっていく暗殺者の毒が取り除かれた。


「それで誰に暗殺を依頼されたんだ?」


「……化け物め、誰が吐くものか! かくなる上は、がっ……」


「くっ、まさか舌を噛み切って死ぬ気か!」


「ハイヒール!」


「………………」


 回復魔法を唱える。血だらけだった口の中が回復魔法により治癒していく。どうやらこの回復魔法は軽い欠損部位程度なら治せるようだ。


「……殺せ」


「いや少なくとも依頼者を吐かせるまでは殺さないよ」


「「「………………」」」


 というのもあるが、さすがに目の前で自害されようとしても困る。こちとら普通の高校生だぞ。自害とか尋問とか処刑とかはせめて俺のいないところでやってくれよ。


 憲兵さんが来るまでに黒の暗殺者を拘束し直し、縄を噛ませ自害できないようにする。ダルガさんも憲兵さんと同行していった。またサーラさんを狙った首謀者を確かめるのだろう。


 まあなんだ、最後に一悶着あったがそれ以外はとても楽しい時間を過ごせたから良しとしよう。

 





 そして次の日の朝。サーラさんの屋敷を出発する時間となった。明日からは学校が始まるし、今日はさっさと野暮用を済ませて早めに帰ろう。


「それではサーラさん、三日間いろいろとありがとうございました」


「とんでもない! こちらこそマサヨシ様には二度も命を救っていただきまして本当にありがとうございました。こちらがその御礼となります、どうか受け取ってください」


「えっと、これは?」


「こちらはマサヨシ様の身分証となります。こちらは特別な通行証にもなっておりまして、この街だけではなく、この国の街ならばすべて入ることが可能で通行税もかかりません」


 それはとてもありがたい! これがあればこの国をいろいろと回ることができるぞ。もちろん隠密スキルを使えばこっそり街に入ることは可能だが、あまりいい気分はしないからな。


「そしてマサヨシ様の身分は王家が保障するということについても記されております。何かありました際には貴族や領主など身分の高い者に見せれば何かと便宜をはかってくれるでしょう」


「すごいですね! こんな素晴らしいものをありがとうございます」


「そしてこちらが謝礼金でございます。また、この金額には黒の暗殺者の懸賞金も含まれており、合計で2000万Gありますのでお受け取りください。こちらは1枚が100万Gの大金貨となります。普通の金貨の方がよろしければお申し付けください」


 ダルガさんが持ってきたケースの中には20枚の大きな金貨が並べられていた。2000万Gということは1000万円……いや、さすがにこれは貰いすぎだ。今のところこの世界で特にお金が必要なわけでもない。


「いえ、そちらの謝礼金は大丈夫です。こちらの身分証だけで十分ですよ」


「いえ、二度も命を救われたのです! 本当は少なくともこの倍の金額は用意したかったのですが、私の力不足で申し訳ございません。どうか受け取ってください」


「マサヨシ殿、こちらは正当な報酬です。一国の王族の命を救ってもらったのです。どうか受け取ってください」


 二人ともそうは言うが、俺はただ大魔導士の力を継承しただけで、サーラさん達を助けたのは俺自身の力というわけではない。それで大金をもらうのは逆に心苦しい。


「本当に大丈夫ですよ。この身分証だけでとてもありがたいです。お金をもらうためにみなさんを助けたわけではありません。もしどうしてもと仰るなら、そのお金はこの国のためにサーラさん達が有効活用してください」


「マサヨシ様……」


「マサヨシ殿、そのお気持ち本当にありがたく思います。でしたらせめて500万Gだけはお受け取りください。こちらは黒の暗殺者の懸賞金となっておりますので、姫様の懐は痛みません。姫様もそれでいかがでしょう?」


 あの捕まえたやつの懸賞金がそんなにあるのか!? 日本円にすると250万円かよ。拘束魔法で一発だったが実は結構な大物だったらしい。う〜んそれなら受け取ってもいいか。


「わかりました。それでは懸賞金の分だけはありがたくいただきます」


「マサヨシ様がそう仰るのならば……残りの分は必ずこの国のために使うことをここに誓います!」


「そこまで大袈裟に考えなくても大丈夫ですよ。自分達のために使っても全然構いませんからね」


 別に誓いとかそこまで求めてないからね。ここ数日間の付き合いだが、サーラさんが悪人でないことだけは間違いないからそのあたりは信用している。


 結局5枚の大金貨を受け取った。細かいお金は昨日冒険者ギルドで換金した金貨や銀貨があるから大丈夫だろう。




「そういえば昨日の暗殺者は何か吐きました?」


「ええ、死ぬ寸前まで拷問をして、また回復をしてから拷問を永遠に繰り返すと脅したら観念して諦めたようですね。今回の襲撃は第一王子からの刺客でした。先日の第二王子と同様に我々の自作自演だとあらぬことを言われましたが……」


 今度は第一王子かよ……そしてこの世界で証拠を集めるのってどれだけ難しいんだ?依頼書みたいなものを残しているわけもないしなあ。そしてダルガさん、意外と脅し方がエグい……


「こちらの件に関しましては黒の暗殺者に依頼した者についても現在調査中です。うまくいけばこちらの方から第一王子を追い詰めることができるかもしれません」


「そうですか……」


「あっ、いえ、この件に関しましてはこちらで引き続き調査しておりますので、マサヨシ様はお気になさらずとも大丈夫です!」


 ダルガさんも気を使ってくれているようだ。もしかしたらサーラさんにあまり俺を巻き込まないようにするよう言われているのかもしれない。


「お力になれず申し訳ありません。それではみなさん本当にお世話になりました」


「こちらこそこの度は本当にお世話になりました。またいつでも遊びに来てください」


「マサヨシ様、今度いらっしゃるまでに大魔導士様の資料をまとめておきますので、また大魔導士様について語り合いましょう」


「はい、またすぐに遊びにお邪魔しますね!」


 みんなにはいつでも屋敷に遊びに来てほしいと言われているし、ジーナさんには大魔導士の情報についてもいろいろと教えてもらう予定だ。王女様の仕事を邪魔しない程度には顔を出させてもらおう。異世界で初めて知り合った人達だし、これからも仲良くさせてもらえればいいな!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る