第18話 異世界の街ぶら中に…
「大変お待たせしてすみません」
冒険者ギルド内のテーブルに座って待ってくれていたサーラさん達と合流する。結局30分近く待たせてしまった。
「いえ、私達が好きでついてきているので気にしないでください。それよりも職員の方々が驚いていたようですが大丈夫でしたか?」
「はい、思ったよりも珍しい鱗だったようで200万Gで買い取ってもらえました。魔鉄リザードの鱗って言ってましたね」
「ほう、それは珍しいですな。確か強靭な鱗を持つトカゲでその鱗は優秀な武器にも防具にもなるはずです。それなら200万Gでの買い取りも頷けますな」
「そうなんですね。綺麗だなと思ってたまたま拾った鱗だったのでラッキーでした。お金も手に入ったことだし、少し早めのご飯を食べたいのですがどこかお勧めのお店とかありますか?」
「それでしたらここから少し行った先にこの街の名物を出すお店があるのですがいかがでしょう?」
「おお、ぜひそこでお願いします!」
異世界の街の名物なんて気になるじゃないか。昨日屋敷でご馳走になった料理はとても美味しかったが、変わった料理はなかったからな。名物料理というくらいなら何か面白い料理みたいなのもあるかもしれない。
「お待たせしました。この街の名物のスライム料理でございます」
「すごい! スライムって食べられるんですね」
「はい、本来スライムは倒すとそのまま消えるのですが、ある特定の倒し方をするとその身が残り食べることができるようになります。私達はスライムの活け締めと呼んでいます。それではゆっくりとお楽しみください」
店員さんが説明をしてくれた。まさかスライムを食べられる日が来るとは思わなかったな。
「この街で初めてスライムの活け締め方法が発見されたのでこの街の名物料理となりました。ただ人によってはこの食感があわず、食べられないという人もいますので、もし口に合わなければ別の料理もありますからその時は教えてください」
サーラさんの補足説明が入る。確かにスライムというだけで嫌悪感を抱く人もいそうだ。
「ありがとうございます。まずは試してみますね」
サーラさんが注文したスライム料理は全部で2種類あった。ひとつはスライムを焼いたもの、もうひとつはスライムを小さく切ったものだ。まずは焼いたものから試してみよう。
「うん、面白い食感だ」
焼かれているため表面は少し固く、中はプルプルとしたゼリーのような食感だ。スライムの味自体は薄めなので、上にかかっているソースとこの面白い食感を楽しめるようになっている。
続いて小さく切られたスライムに移る。スプーンですくうとプルプルとした感触が伝わってくる。口の中に入れて味わうと、噛み切るたびに口の中で暴れ回る。ゼリーやプリンよりもかなり弾力があるな。
どちらの料理も食感を楽しみながら楽しめる料理だった。俺は大丈夫だが、確かにこれは好みが分かれる味かもしれない。俺はどちらかというと青や緑色の色が少し気になったくらいだけどな。それにしてもまさかスライムを食べられる日が来るとは思わなかったよ。
「うん、面白い味ですね。俺は好きですよ」
「それはよかったです。私もジーナも結構好きなのですが、ダルガはこれが苦手なんですよ」
「儂はこの食感がどうしても好きになれないのですよ」
「何を言っているんですか、隊長。この食感が美味しいんじゃないですか」
「これだったら普通の肉や魚の方がうまいだろう。そうだ、マサヨシ様この辺りで取れるワイルドボアやビーカクックの串焼きなども有名ですよ。あちらには屋台などもたくさん出ております」
「おお、それも美味しそうですね! ぜひ行きましょう!」
ダルガさんはスライム料理には手をつけていないし、今度はダルガさんも食べられるものがいいだろう。それに魔物の肉にも興味があるし。
少し先にあった広場の屋台街で食べ歩きを楽しんだ。元の世界では聞いたことのないような素材がたくさんあって本当に面白かった。この世界を旅しながら美味しいものを食べ歩くのもありかもしれないな。
ちなみに昼食代はサーラさんが支払ってくれた。拾った魔物の素材で大金も得ることができたし、案内もしてもらっているから、むしろ俺にご馳走させてほしいと言ったのだが聞き入れてくれなかった。
そのあとはこの街で有名な広い公園や多くの店が集まる露店市場などを案内してもらった。見知らぬ街を歩くというのは存外とても楽しくて、あっという間に時間が過ぎてもう日が暮れてきた。
「いやあ、本当に今日は楽しかったです。みなさん、本当にありがとうござました」
「いえ、私も久しぶりに街をまわれて楽しかったですわ。マサヨシ様、またぜひご一緒させてください」
「こちらこそまたお願いしますね!」
とはいえサーラさんは王女様だからな。そう簡単に誘えるとは思えない。また機会があればの社交辞令みたいなものかな。
「あの、マサヨシ様は明日に出発されるのですよね?」
「はい、また少しこの辺りをまわってきます。でもまだしばらくはこの街にいますよ」
残念ながら明日は日曜日で三連休の終わりだ。明後日からはまた学校が始まる。このまま異世界をずっと旅したい気持ちもあるが、さすがに元の世界を捨ててしまうのもちょっとなあ。まあ今は空いた時間に異世界を旅するくらいがちょうどいい。
「……そうですか。あの、この街にいる間はずっと屋敷の部屋を使っていただいて大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。ですがこれ以上お世話になるわけにはいきませんよ。2日間もお世話になりっぱなしでしたからね」
「マサヨシ様は命の恩人なのですからこれでも全然足りませんわ。遠慮などは不要ですので、ずっと屋敷に泊まって行ってください」
「ありがとうございます。お気持ちだけ受け取っておきます」
毎日転移魔法で大魔導士の家まで戻って元の世界に帰るわけだから、ずっとサーラさんの屋敷にお世話になるわけにはいかない。そうだ、お金を貯めてこの街に自分の家を買うのもいいかもしれないな。大魔導士が作ったという武器をいくつか売ればすぐにお金は稼げそうだし。
「……そうですか、とても残念です。あの、マサヨシ様……」
その時危機感知スキルに反応があった。そして見切りスキルも発動し、サーラさんの方へ飛んできた2本のナイフを即座に剣を抜いて打ち落とした。
「きゃあっ!!」
「姫様、敵襲です!!」
「くっ、どこから!?」
サーラさんが尻もちをつき、ダルガさんとジーナさんが庇うように前に出てくる。こんな街中で襲撃とか正気かよ!
「きゃあ〜! 今ナイフが飛んできたわ!」
「こんなところで剣を抜いている奴がいるぞ、逃げろ!」
「早く憲兵を呼んできてくれ!」
俺やダルガさんが剣を抜いたことにより広場が騒然となった。周りにいた人達はあっという間に逃げ出し、周りには誰もいなくなった。
「……まさか今のを防ぐとはな」
周りに人がいなくなると、建物の横から一人の男が現れた。全身を黒装束で身に纏い、顔も体格も窺えない。声でなんとか男というこということだけはわかった。
「貴様は……まさか黒の暗殺者か!」
ダルガさんはこいつのことを知っているようだ。暗殺者とか物騒だな。日暮れどきにそんな全身真っ黒な姿をしていたら逆に目立つんじゃないか?
「……ほう、私のことを知っているとはな。まあいいどうせ貴様らは皆殺しだ」
「ダルガさん、誰なんですかこいつは?」
「第一級の暗殺者です! あの黒い装束は魔道具で己の気配を完全に断つことができ、誰にも気付かれずにターゲットを暗殺するそうです。この国で指名手配されております、お気をつけください!」
どうやら全身真っ黒なのは伊達じゃないそうだ。確かに気配探知スキルでも反応が普通の人よりかなり弱い。これが魔道具の力なんだろう。
「……まったく第三王女の暗殺というでかい依頼にとんだ邪魔が入ったものだ。まさか完全に気配を消したあの一撃が防がれるとはな」
なんだろう、第一級の暗殺者を前にしてもあまり脅威を感じない。やはり大魔導士の家がある破滅の森にいた魔物達の方が全然強そうだ。
「くそ、さすがに我らには荷が重い! マサヨシ様、ここは私とジーナが命を懸けてやつの相手をします。どうか姫様を連れて逃げてください!」
「マサヨシ様、どうか姫様をお願いします! ここは命に代えても我々が抑えます!」
「じい、ジーナ!」
「……逃すわけがないだろう。安心しろ、この二人を地獄に送った後にすぐに貴様らも地獄に送って……」
「バインド!」
俺が拘束魔法を唱えたことにより、黒の暗殺者の足元から鎖が突如現れ、黒の暗殺者をぐるぐる巻きにして拘束する。
「……貴様、まさか魔術師だったのか。私としたことが油断したな。だがこんな魔法ごときで私を捕まえた気になるなど甘い考えだ。こんな拘束すぐに解いて………………
ちっ、なかなか固い拘束だ、やるではないか。仕方ない、ならば私も本気を出そう! はあああああ!
……くそ、なぜだああああ! なぜこんな拘束ごときが外せんのだあああああああ!」
「「「………………」」」
うん、なんかそんな気がした。確かに前回サーラさん達を襲ってきた賊よりはだいぶ格上なのだろうが、破滅の森にいた魔物よりは全然弱かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます