第14話 エルフのお姫様


 とりあえず馬車の中に隊長さんと姫様と呼ばれていたエルフの女の子と一緒に移動してきた。馬車の中はそこそこ豪勢な造りとなっており、座っている椅子もかなり柔らかい。他の人達は襲ってきたやつらの武器を取り上げて縄で縛っている。


「まずは改めて自己紹介をさせていただきます。私はエドワーズ国の第三王女のサーラ=エドワーズと申します。サーラとお呼びください」


 美しく輝く金色の髪、透き通った宝石のような碧眼、この子の整った顔立ちは容姿端麗などというありきたりの言葉では表現できないほどの美しさだ。大人になって背が伸びれば間違いなく絶世の美女になるだろう。


「儂は姫様の護衛をしておりますダルガと申します。この度は我等をお救いいただきまして誠にありがとうございます」


 こちらは30〜40代くらいの男性で、立派な顎ひげが特徴的だ。大柄な身体に似合わず、ものすごく丁寧な言葉遣いをしている。


 てか第三王女!? 姫様と呼ばれていたから偉い人かとは思っていたが、まさか王女様とは。てことはこの国がどれくらい大きいのかはわからないが、王様と王妃様を入れてもこの国で5番目に偉いってことか?


「初めましてマサヨシと申します。遠い国から旅をしています。かなり遠くの国から来てますので言葉遣いや作法など失礼があるかもしれませんが、どうかご容赦ください」


「マサヨシ様ですね! 滅相もありません、命の恩人の方ですもの、言葉遣いなど気になさらずとも大丈夫です。それにとても美しい発音をしておりますよ」


 それは言語理解スキルのおかげだな。それにしても幼く見える割にサーラさんの言葉遣いはとても丁寧だ。この世界のエルフがどういう種族なのかはまだわからないが、もしかしたら見た目に反して結構な年だったりするのかな?


「なるほど、それでこの辺りでは珍しい黒い髪と黒い目をしているのですな」


 ふむふむ、言われてみると俺以外はみんな金髪や茶髪だったな。このあたりでは黒髪と黒目は珍しいようだ。


「それで襲ってきたやつらはなんだったんですか? もしよろしければ事情を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」


「ええ、もちろん構いませんよ。おそらくは第一王子か第二王子の手の物の仕業でしょう。彼等は姫様を疎ましく思っているため、以前にも何度か刺客が送られてきました。その際は我々で防げたのですが、今回はまさか味方に裏切り者がいるとは思わずしてやられました。マサヨシ様が助けてくれなければ我々は全滅しておりましたでしょうな」


 ああ〜王位継承とか跡目争いのやつか。もしかしたらあまり深入りするとまずいやつかもしれない。


「二人の兄様は私の母がエルフなのが気に入らないのでしょう。幼い頃からよくこの耳をからかわれたりしました」


 長い耳をピクピクと動かすサーラさん。どうやらその長い耳は自分で動かせるようだ。


「とても可愛らしくて綺麗な耳なのに酷い人達ですね。そういう人達がいうことは気にしないでいいと思いますよ」


 とても可愛らしくて綺麗な耳の形をしているのにな。個人的にはサーラさんの耳に触れてみたいが、まさか王女様の耳に勝手に触るわけにはいかない。


「………………」


 あれ、サーラさんが黙ってしまった。綺麗な耳と褒めたはずなんだけど、何か気に障ってしまうことを言ってしまったのだろうか?


「ありがとうございます。そう言ってくださる人は我が国では非常に少数なのですよ。エルフや獣人、ドワーフなどの亜人と呼ばれている種族は昔から迫害されてきたのです。最近ようやくそれぞれの種族の権利が認められてきたのですが、残念ながらまだ差別が残っているのです」


 ダルガさんが説明してくれる。おお、この世界にはエルフだけじゃなくて獣人やドワーフもいるのか! ぜひ会ってみたい!


「マサヨシ様、もしよろしければ私達のいる街にいらっしゃいませんか? 今日はもうすぐ日が暮れてしまいますので移動はできませんが、明日馬車で移動すれば日が暮れるまでには到着するかと存じます。ぜひ、御礼をさせてください」


「そうですね! ぜひ姫様を救っていただきました御礼をさせてください」


 おお、街まで案内してくれるのは非常にありがたい。このまま別れるにしても街の場所だけは聞こうと思っていたところだからな。


「ありがとうございます、これからどこに行こうか迷っていたところですので、お言葉に甘えさせていただきます。ですが御礼とかは結構ですよ。代わりに街に着いたらこの国のことについていろいろと教えてくれませんか? なにせこの国のお金すら持っておりませんので」


 一応大魔導士の家にあった宝石や武器など、売れそうな物は収納魔法に入れてきたけど、お金自体は一銭もないからな。


「ええ、もちろんお教えいたします。ですが御礼に関しても受け取ってはいただけませんか? 私達の命の恩人に何も御礼を差し上げないのは我が国の名折れとなりますので」


 上目遣いでこちらを見てくるサーラさん。こんな可愛い女の子の上目遣いは破壊力が段違いだ。さすがにこれは頷く他ない。


「それではありがたく受け取らせていただきます。ですが、本当にそれほど気を使われなくても大丈夫ですので」


「ええ、かしこまりました。マサヨシ様のご配慮感謝致します。それでは少し先に水場がありますので、今日はそこまで移動しましょうか。じい、外のみんなにも伝えてね」


「はっ!」


 とりあえずこの場を離れて1時間ほど進むと綺麗な川があった。日も少し暮れてきており、今日はここで野営をするようだ。ちなみに賊達は全員太いロープで両手をひと繋ぎにして結んであるので、逃げ出そうと思っても難しいはずだ。


 



「それでは、我々の命を救ってくれましたマサヨシ様に乾杯!」


「「「乾杯!」」」


 晩ご飯の準備が整い、サーラさんが乾杯の音頭をとる。自分に向かって乾杯されるのは初めてなので中々緊張した。それにこの世界に来て初めてのご飯だし、嫌でも期待してしまうな!


「とはいえ今は大したおもてなしができずに申し訳ございません。明日屋敷に戻れば今よりもずっと立派なものを出せますので」


 出てきたのは黒パンにチーズに干し肉であった。確かにご馳走とは言い難いが、これはこれで昔の旅での食事って感じでなんかいいな。


「いえいえ、普段はこういったものをあまり食べないのでなんか新鮮でいいですね」


 黒パンは酵母を使っていないのか少し固く味もそれほどよくない。チーズと干し肉は火で少し温めるとなかなか美味しかった。


「えっと、マサヨシ様は旅をなされていたのでは?」


 あっ、やべ! いきなり旅人設定にボロが出た。


「いっ、いえ! いつもは一人なので、こうして大勢で食べるのは新鮮でとてもいいですね。あっ、そうだ! よろしければこちらも皆さんでいかがですか?」


 誤魔化すために収納魔法で非常用に持ってきていたマシュマロを取り出す。マシュマロは非常食としても優秀だから念のため持ってきていた。


「すごい、これは収納魔法ですね! 初めて見ました!」


 サーラさんを回復魔法で治療していた女性の魔法使いであるジーナさんが驚く。ジーナさんは俺と同い年か少し上くらいの綺麗な女性だ。


「あれ、もしかして収納魔法って珍しい魔法だったりします?」


「はい! かなり高位の魔法使いしか使うことができない魔法です。先程の魔法も初めて見ましたし、マサヨシ様はとても高名な魔法使い様なんですね!」


 マジか、収納魔法も珍しい魔法だったのか。こっちの世界でもあまり目立ちたくないんだけどなあ。さすがに転移魔法のことは黙っておこう。


「いえ、魔法しか取り柄のない田舎者ですよ。これはマシュマロといって甘いお菓子です。少し火に近付けてから食べると美味しいですよ」


 キャンプとかでは定番のマシュマロだ。少し火に近付けて溶かして食べると本当にうまいんだよな。


「なんだこれは! こんな甘いもの初めて食べたぞ!」


「本当だ、隊長これすごいですよ!」


「うむ、なんという美味さだ! 姫様、大丈夫ですよ」


 先にサーラさん以外の護衛の人に食べてもらう。王女様に変なものを食べさせてしまったらまずいからな。


「うわあ〜とっても甘くて美味しいです!」


 やっぱり普段は大人びていても小さな女の子なんだな。可愛らしい顔でおいしそうにマシュマロを頬張っているサーラさんを見ていると、何かに目覚めてしまいそうだ。


「まだまだ沢山あるので遠慮なく食べてください」


 2袋くらい買っておいたからこの際食べてしまおう。一袋百円ちょっとでこれだけ喜んでくれるなら何よりだ。やっぱりこの世界だと砂糖も珍しかったりするのかな?


 そして賊達の見張りをしている護衛の一人が物凄く羨ましそうにこちらを見ている。心配しなくてもあの人の分はちゃんと取っておいてあげよう。




「命を救ってもらったばかりか、こんなに美味しいものまで本当にありがとうございました」


 あっという間にマシュマロ2袋が空になった。みんなもっと食べたいという気持ちと遠慮する気持ちがせめぎ合っている様子が見て取れてちょっとだけ面白かった。


 ご飯の後は明日向かう国のことについて色々と聞くことができた。一から色々と聞いているうちにだいぶ時間が経ってしまったので、ちょっと申し訳なかったな。そしてサーラさんとジーナさんは荷馬車の中で、他の人は交代で見張りをしながら簡易のテントで就寝した。


 俺はというとだいぶ前に買った安物のテントと寝袋を収納魔法で持ってきていたのでその中で寝た。こんな小さなテントがあるのかと驚かれたし、これからはもう少し持ってくる元の世界の物を慎重に選んだ方がいいかもしれない。

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