第13話 運命の杖に導かれ?


 明日の金曜日からいよいよ3連休だ。母さんには事前に友達2人と旅行に出かけると伝えてある。ついでに電波も悪そうだから夜くらいしか連絡はできなそうとも伝えてある。嘘をついたのは少し後ろめたいが、まさか異世界に旅行に行くと本当のことを言うわけにはいかないからな。


 念には念を入れて元の世界から収納魔法で食材や缶詰などの食料をしまっておく。ないとは思うがしばらく帰れなくなるなんてこともあるかもしれない。


「よし、出発!」


 昨日と同じ装備をして昨日転移魔法で進んだ森の出口まで一気に飛ぶ。今日はここから村とか街とかを探して進みたい。まだこの異世界に来てから魔物にしか出遭ってないからな。


 さて、どっちに進もうかな。森を出ても道のようなものはないし、前はどちらを見ても草原しかない。こういう時はこれしかないな。


「……こっちか」


 大魔導士が遺してくれた杖の中に運命の杖と名付けられた杖があった。別に武器としてはそれほど強いというわけではないのだが、派手な装飾が付いているし、なんといってもデスティニーだぜ。


 運命の杖を垂直にして離し、杖の倒れた方向に進む。運命の杖も絶対にこんな使われ方をするとは思ってもいなかっただろう。こういう時は運を天に任せて進んでみるのが一番だ。しばらく進んで何もなければまたここに戻ってくればいいだけだしな。




 飛行魔法みたいなのがあれば楽だったのだが、残念ながら大魔導士から継承した魔法の中にはなかったので、普通に草原を走っている。この身体なら走ってもまったく疲れる様子がないし、車以上のスピードで走れる。


 さすがに森を出ると気配探知スキルにはほとんど生き物の反応はかからなくなった。たまにあっても4足歩行する動物か魔物だけか。これまで1時間以上走ってきたが人工物はまだ何もない。残念ながら運命の杖の力はハズレだったようだ。もう少し進んで何もなければ、森の出口まで一度戻ろうかな。


「ん!!」


 気配探知スキルに反応があった。ここからすこし先に行った所に10以上の2足歩行する生物の反応がある。さすがにこれは人なんじゃないか!隠密スキルを使っているから、近付いてみて魔物の群れだったら即撤退しよう。


 近くにあった大きな木の陰に隠れて様子を窺う。おお、馬車があるということはほぼ人であることが確定した。しかし妙だな、なんだか兵士のような人達が争っているように見える。


 それと同時に危機察知スキルにも反応があった。どうやらこの中の人に命の危険が迫っているらしい。だが状況がまったくわからない。ここは聞き耳スキルを使って少しだけ様子を窺おう。おお、ちゃんと異世界の言葉も日本語として聞こえてくるな。


「くっ、なんとしても耐えるのだ! ここで姫様を失うわけにはいかん!」


「ですが隊長、我々だけではもう耐えられません……」


「隊長! 姫様の血が止まりません! 私の回復魔法ではこれ以上持ちません!」


「くそっ、まさか我が隊に裏切り者がいるとは……一生の不覚だ!」


「くっくっくっ、この時の為だけに一年以上もあんたの隊に潜入していたから気付かないのも当然だ。おら、さっさとそいつを引き渡せ! そいつの死体を持っていくまでが俺の仕事だからな!」


 ………………なんだかとても物騒な状況に遭遇したらしい。どう考えても後ろで1人の女性を護っている4人を囲っている10人ほどの盗賊っぽいやつらと潜入していたという兵士が悪者なんだが、とりあえず事情を聞きたいから全員拘束しよう。隠密スキルを使いながら一気にやつらに近付いていく。




「おいおまえら、一斉に行くぞ!」


「おう、死ね!」


「くっ、もはやこれまでか……」


 キンッ


「なっ、なんだ!?」


 盗賊達の剣が見えない壁のようなものに弾かれる。俺が使った障壁魔法だ。


「バインド!」


 続けて拘束魔法を放つ。盗賊達の足元から鎖が出現し、全員をがんじがらめにして拘束する。この魔法は複数人を拘束できる魔法だ。ただし強度はそこまでは強くないので、おそらく森にいた魔物ほどの力だったら鎖を引きちぎられてしまうだろう。


「うお、なんだこれは!」


「くそっ、身体が動かねえ!」


 だがこの盗賊達には十分だったらしい。誰一人鎖による拘束を外せずにいた。


「なっ、何が起きたんだ?」


「すごい、こんな魔法初めて見た」


 後ろにいた人達も俺の魔法に驚いているようだ。


「通りすがりの旅人です。えっと状況がわからないのですが、とりあえず助太刀しました。そちらの女性は大丈夫ですか?」


「そうだ、姫様の容体は!」


「……すみません、隊長。私の回復魔法ではこれ以上治すことができません。たとえ傷を治せたとしても刃に塗られた猛毒のほうは私ではどうにもなりません」


「くっ、なんてことだ!」


「はっ、ざまあみろ! その刃に塗った猛毒はおまえらごときに解毒できるような代物じゃねえよ! 俺達も終わりだが、そいつも終わりだ! はっはっはっ!」


「くそう!!」


 隊長と呼ばれていた大柄な男が拳を握りしめて地面を叩く。


 ……よくわからないが大魔導士の力を継承した今の俺ならこの人の傷や毒も治せるんじゃないのか? できるとは思うが確信は持てない。ちゃんと事前に伝えておこう。


「あの、できるかわからないですけれど、傷や毒を治せるかもしれないので試してみてもいいですか?」


「本当ですか、旅のお方!お願いします、我々ではもう手の施しようがございません! どうか姫様をお救いください!」


 倒れている女性の方へ近付く。よく見るとまだ幼い女の子で小学生高学年くらいだ。お腹を刃物で刺されたらしく、まだ血が出ている。そして刺された傷口が紫色に腫れている。これが毒か。


「ハイキュア、ハイヒール!」


 解毒魔法をかけたあとに回復魔法を唱える。頼む、これで治ってくれ!


 傷口が光り出し徐々に傷が塞がっていく。それと同時に女の子の顔色が良くなってくる。


「おお!」


「すごい、傷口が一瞬で塞がっていく! こんなすごい回復魔法みたことないわ!」


「……あれ、じい。私はまだ生きているの?」


「姫様!」


 どうやら解毒魔法と回復魔法が効いてくれて女の子も目を覚ましたようだ。


「すごい、さっきまでとても痛かったのに、もうなんともないなんて。それにもう傷口もすっかり塞がっているわ」


 女の子が刺されていたお腹の辺りを確認している。どうやら回復魔法で傷口まで塞がったらしい。


「そっ、そんなバカな! あの毒はそんな簡単に解毒できるようなもんじゃねえ! 速効性はねえが、その代わりに一度体内に入れば絶対に治せない猛毒のはずだ」


 なるほど、今回の場合は逆に速効性のあったほうがヤバかったかもな。この女の子は運がいい。


「姫様、こちらの旅のお方が我等を救ってくれたばかりか、姫様の怪我も一瞬で治してくれました。旅のお方、本当にありがとうございます!」


 隊長と呼ばれていた男が頭を下げ、続けて他の人達も俺に向かって頭を下げてきた。


「本当にありがとうございました。あなた様のおかげで命拾いを致しました。この御礼は必ずさせてください!」


 倒れていた女の子が立ち上がり、頭を下げてくる。そして先程まで女の子は倒れていて、髪が掛かって気付かなかったが、頭を下げその美しく輝く金色の長い髪の間から長く尖った耳が姿を現した。


 漫画やアニメの中でよく見かけるファンタジーな種族、そう彼女の容姿は完全にのそれだった。

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