第8話 大魔導士の家の片付け


 そして翌日、学校へ登校する。


 露原達も全員休まずに登校していたようだ。しかし昨日約束した通り、俺には一切関わってこなかった。というか目すら合わせようとせず、たまたま北村さんに廊下で鉢合わせた時は大声をあげて逃げていってしまった。少しやりすぎたような気がしなくもない。


 ただ磯崎のやつは威圧スキルを使った時に気絶していたせいか、たまに目が合うたびにこちらを睨んできた。とはいえさすがに露原に戒められているのか、こちらには近付いてこなかった。


 昨日授業がなかった教科の教師にまた同じ説明をするのは面倒だったが仕方がない。特に問題なく授業が終わる。さすがに今日はリア充の王である露原達のグループも静かだった。別に昨日言ったふたつの約束さえ守ってくれれば、別に俺からは何もしないんだけどな。


 範囲を広げたにもかかわらず今日は危機察知スキルに反応がなかった。まあ、考えてみれば命の危険なんてそう簡単に起こるもんでもないよな。


 家に帰って部屋の鍵を閉める。母さんが帰ってくる前に帰るつもりだが、遅くなった時のことを考えて、居間のテーブルの上に急に友達の家に泊まることになったと書き置きをしておいた。これでたとえ帰るのが遅くなったとしても警察に連絡されることはないだろう。




「さあ、行くか!」


 天井の蓋を開けると異世界への扉はちゃんとまだ繋がっていた。ゆっくりと扉を通るとそこは前に通った時と同じ部屋に繋がっている。隣の部屋に行くと本棚が倒れて本が散乱し、床がへこんでいた。


「そういえば前回のままほったらかしで帰っちゃったんだっけな。まずは掃除からしないと駄目か」


 とりあえず本棚と本を元に戻し、へこんだ床を土魔法を使って元通りに直した。大魔導士のレベルを継承して身体能力も大幅に上がっており、本棚も片手で軽々と持ち上げられることができたのですぐだった。


 試しに本の何冊かをパラパラとめくる。言語理解スキルのおかげで日本語として読むことができた。本は元の世界に持って帰って、ゆっくりと読むことにしよう。


「さて、恩人をちゃんと埋葬してあげますかね」


 無理矢理に継承魔法を発動させて物凄い苦痛を与えられた時にはぶん殴ってやりたいところだったが、結果としてとんでもない力を貰えたし、いじめもやめさせることができた。死のうと思っていた俺の人生を変えてくれた恩人だし、可能な限りしっかりと埋葬してあげよう。




「よし、こんなものかな」


 大魔導士の家の裏に遺体を埋葬してお墓を作った。結構深めに穴を掘って遺体を埋め、その上に石を加工した日本式の墓石に大魔導士の名前を刻む。


「異世界への扉を開く魔法はちゃんと成功していましたよ。どうか安らかに眠ってください。そしてあなたから貰った力のおかげで本当に助かりました、感謝しています」


 お墓の前で手を合わせる。大魔導士が死ぬ間際まで研究していた異世界への扉、そのとんでもない魔法が成功していたことをしっかりと伝える。お墓は家のすぐ裏に作ったし、欠かさずお参りしよう。




 前回来た時に倒したオークの装備を回収して大魔導士が趣味で作ったという武器や防具や魔道具が置いてある倉庫の部屋へ入る。前回オークが出た時には武器と防具をここから適当に選んで持ってきてしまったからな。今日はまずここにあるものを確認することから始めよう。




「しかし異世界ものでは定番の鑑定スキルとかがあれば便利なんだけどな」


 倉庫にあるものをひとつずつ確認しながらそんなことを思う。大魔導士から継承したスキルや魔法の中にはそのような便利なものはなかった。


 また、ステータスのようなものがないか気になって一度ステータスウィンドウ、オープン!っと唱えてみたが何も起こらなかった。俺のレベルやステータスがどれくらいなのか気になったんだけどな。そして唱えたはいいが何も起きないと結構恥ずかしかった。


「でも定番のアイテムボックス代わりの収納魔法が使えるのはありがたいな」


 確認が終わった武器や防具や魔道具を片っ端から収納魔法で収納していく。この収納魔法はさすが大魔導士の魔法だけあってかなりの容量が入りそうだ。


 といっても性能についてはさっぱりわからないから、適当に収納しているだけだ。大魔導士が残した本に性能が書いてある可能性もあるし、少しずつ性能を確認していこう。


 ……なんだか亡くなった人の財産を盗んでいる泥棒のような気がしなくもないが、ちゃんと本人から許可はもらっているから気にしてはだめだ。




「……ん、また気配察知スキルに反応があるな」


 前回のオークの時と同様に何者かがこの家に近付いてくる感覚がした。ちなみに元の世界に戻った時には気配察知スキルはオフにしてある。どこにいっても人の反応が多すぎて、ずっと気配察知スキルが発動してしまっていて意味がないからな。


「今回は少なくとも人じゃないな。前回と同じように家の陰から様子を窺おう」


 前回のオークは人型だったから人間の可能性もあったが、今回は人の形をしていない。なんだろうな、今回のやつは前のオークよりもだいぶ小さいということだけはわかる。前回使った武器と防具を装備して、家の陰から様子を伺う。


「この辺りにはこんなやばいやつしかいないのかよ……」


 この家の柵の前にいるモンスター、それは元の世界のゲームなどでも出てくるモンスターのスライムだ。スライムといえば最初の村の付近で出てくる雑魚モンスターのイメージが強い。


 だがこの家の前に現れたスライムはどう見ても最初の村付近で出てきそうなやつじゃない。青色ではなくドス黒い色をしており、何よりでかい。絶対にスライムキングとかスライムエンペラーとかの上位種とかに違いない。さすがに今回はオークとは異なり鎧も大剣も身に付けていない。


 前回のオークと同様、柵の前の障壁によりそれ以上先には進めないようだが、障壁を破壊しようとしているらしい。この家って何か魔物を惹きつけるもんでもあるのかな? これだけ頻繁に魔物が来てもこの家が長い間守られてきたということは、障壁の強度はよっぽどなのだろう。


「とはいえほっとくのもちょっとな……」


 目の前に危険なモンスターがいるのにほっとくのはあまり良い気分ではない。また、障壁が壊れないという保証はないのだ。それを考えると排除できるならしておいたほうがいいに違いない。


 前回は雷の上級魔法でオーバーキルだったからな。今回は中級魔法でいってみよう。


「ファイヤーウォール!」


 突如スライムの下から火柱が巻き起こる。中級火魔法であるファイヤーウォール、この魔法は名前の通り炎の壁を作ることができる。敵の足元に発動させれば火柱となって敵を焼き尽くす。


「また一発とはすごい威力だな」


 特に悲鳴をあげるわけでもなく、そのままスライムは黒焦げとなった。しばらく時間はかかったが、このレベルのモンスターなら中級魔法が適切な火力のようだ。しかし大魔導士の魔法は恐ろしい。これほど強そうなモンスターだったのに中級魔法一発とは。





「よし、今日はこの辺で切り上げよう」


 こっちに来てからもう3〜4時間は経っている。そろそろ帰って晩ご飯の支度をしないといけない。しばらくは学校に通って帰ってきたら異世界、家に帰ってからは大魔導士の家から持ってきた本を読むという流れになりそうだ。土日になったら少し遠出してみるのもありかもしれないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る