第6話 いじめグループとの対決
「それでは出席を取るぞ、安倍」
「はい」
「石川」
「はい」
うちの担任が順番に出席を取っていく。
「立原」
「……はい」
「茅ヶ崎」
「はい」
……俺については完全にスルーなんだな。本当にこの担任は俺のことをまったく見てもいない。担任だからといって、こんな教師にいじめのことを話した俺が本当に馬鹿だった。
「露原、露原龍一はいるか?」
「ちょ、先生! なんで俺だけフルネームなんですか!?」
「ん?なんでって、そりゃ我が校の生徒会長様だからな、名前まで呼ばないとバチが当たるだろ?」
「いやバチなんて当たりませんよ! 俺も普通にみんなと同じように呼んでくださいって!」
「ははっ、ほら龍、生徒会長様なんだから諦めろって!」
「そういう小野寺は少し露原を見習ったらどうだ? この間の小テストの出来はひどかったからな」
「うぐっ、藪蛇だったか……」
「「「あははは」」」
スクールカースト上位グループの奴らが楽しそうに笑っている。これがこいつらの日常だ。楽しそうに仲間達と学園生活を満喫しておきながら、その裏で気に入らないやつをいじめている。こいつらが楽しそうに笑っているのを見ているだけで殺意が湧いてくる。
そして露原がこの学校のスクールカーストのトップに君臨する理由の一つがこれである。そう、こいつはこの学校の生徒会長をしているのだ。成績優秀で部活のほうも確かこの前優秀な成績を収めて表彰されていたな。
更には顔もイケメンで教師や他の生徒からの信頼も厚い。おまけにこいつの父親はこの辺りで一番大きな露原病院の院長をしている。うちの母親もそこで看護師として働いているというわけだ。
なんでこんなリア充の王みたいなやつが、いじめなんかしているのか本気で理解できない。しかもタチの悪いことにこいつらは、教師達にバレないように嫌がらせをするのが抜群にうまい。
そしてクラスメイトに対しても、見張りやゴミを机や下駄箱に入れる役割をほぼ全員に一度はやらせている。そうすることでクラス全員がいじめの共犯者となり、教師に告げ口をさせないようにする。
もし万が一俺のように教師にいじめを告げ口する者がいても、クラス全体で口裏を合わせるし、まさか優等生の生徒会長がいじめをしているなんて誰も信じてくれないだろう。その頭の良さをもっと何か別のことに使ってほしい。
そのあと授業が始まり、他の教師は俺の変化に気付いてくれて少しだけほっとした。自分で言うのもあれだが、だいぶ太っていたので悪い意味で印象的だったようだ。というか俺の変化に気付かなかったのがうちのクラス担任だけってどういうことだよ。
しかしそれぞれの教科の教師全員に俺の身体の変化を説明するのは結構大変であった。何人かの教師はすぐには信じられないようだったが、その教師の過去の授業であった出来事などを話したら一応は信じてくれたようだ。クラスメイトからは授業中も昼休み中もジロジロと見られていたがこればかりはしょうがない。
キーンコーン、カーンコーン
今日の授業がすべて終わり、帰りのホームルームが終了した。露原達はチラチラとこちらを見ているが、まだ教室から出る気配はない。それなら先に屋上に行って露原達を待つとしようか。
「……へえ、逃げ出すと思っていたけどちゃんと来たんだ」
「ああ、いい加減に終わりにしたかったからな」
「どうやら痩せただけじゃなくて態度も相当でかくなったらしいね。これだけの人数の前でそんな態度を取れる度胸だけは褒めてあげるよ」
現在屋上にいるのはいつもの5人に加えて、茶髪や金髪でいかにもヤンキーな格好をしているやつらが8人もいる。こいつらは露原の友達ではなく磯崎の仲間なんだろう。なんで優等生の露原とヤンキーの磯崎がつるんでいるかというと、家が近い昔からの幼馴染だそうだ。
「おい、龍。お前に言われて人は集めたけどよ、まずは俺一人でやらせてくれよ。あの野郎をボコボコにしてやる!」
「ったく、拓海の悪い癖だよ。タイマンとか今時流行らないって。それに立原のあの自信、きっと何かあると思うよ。龍も朝に腕を掴まれて握力がおかしくなってるって言ってたじゃん。本気で整形手術だけじゃなくて改造手術みたいなのも受けてるかもしれない」
「ぷっ、改造手術とか何言ってるのよ、龍。漫画じゃないんだから」
「いや、かおり。実は海外とかではもうある技術なんだよ。筋肉が衰えた老人とかに手術で筋肉部分に機械を埋め込んで、筋肉の電気信号に反応して補助するみたいな技術がさ」
「へえ?すごい! やっぱり龍くんて物知りなんだね!」
「何それすげーじゃん! サイボーグみたいなかんじか? かっけー!」
そんな技術あるんだ。俺も初めて知った。家が病院だからっていうのもあるけど本当に物知りなやつだな。ちなみにこれだけの人数に囲まれているが、冷静沈着のスキルのおかげで落ち着いている。このスキルをオフにした瞬間に足がガクブルすることは間違いない。
「んなことどうでもいい! おら行くぞ!」
磯崎が拳振り上げ突っ込んできた。本当に何も考えずに突っ込んでくるだけだな。迎撃してもいいが、まずこういう輩には圧倒的な力を見せつけた方がいい。
スッ、スッ
磯崎のパンチを難なくかわす。これは見切りスキルの力だ。このスキルは敵の攻撃を見切ってかわすことができる。しかもかわす時には多少時間の流れが遅くなるように感じるという優れものだ。もしかしたら武術の達人などはこのような景色を見ているのかもしれない。
それにしても大魔導士から継承したスキルの中には見切りスキルや剣術スキルなどの接近戦のためのスキルがいくつもある。本当にこの大魔導士は何と戦っていたんだよ……
「はぁ、はあ……てめえ、避けてばかりいねえで本気でこいよ! 舐めてんのか!」
磯崎の攻撃を10回以上避けていたらそんなことを言われた。本気でいったら殺しちゃうんだって。まあ避けるのはこれくらいで十分か。
「それじゃあ行くよ」
コンクリートの地面を蹴り、一瞬で磯崎の前まで距離を詰める。
「んなっ!?」
これくらいかな。磯崎の額の前に右手を出し狙いを定める。
バチコンッ
「がっ!!」
磯崎が露原達の目の前まで吹っ飛んだ。すごいな、たかがデコピンで人が吹っ飛ぶなんて漫画みたいだ。
「うっ……」
よしよし、ちゃんと生きている。抑制スキルのおかげでしっかりと俺が望んだくらいの力が出てくれている。
「……お前本当に人間か?」
「失敬だな。どこからどう見ても人間だろ?」
「いや、どっからどう見ても化け物っしょ!」
粕谷さんからツッコミを受ける日が来るとは思わなかったな。ツッコミたくなる気持ちも分からんでもないけど。
「それで暴力はもう終わりでいいかな? 俺は話がしたいんだけど?」
「騙されるな! こんなのトリックか何かに決まっている。あいつの右手だけに気をつけるんだ! 取り囲んで一斉に飛びかかればどんな人間でも対応できるはずがない」
「お、おう!」
「くそっ、騙されるところだったぜ!」
「お前ら、一斉に行くぞ!」
露原の号令で残りのヤンキー8人が俺を取り囲む。うん、的確な指示だ。将の才能やカリスマ性まであるときたもんだ。っておい、金属バットを持ち出してるやつまでいるぞ! 最近のヤンキーは加減を知らないのかよ!
「いくぞ、せーの!」
「おら!」
「死ねや!」
一人のヤンキーの号令で8人が同時に俺に襲いかかってくる。
「硬え!」
「痛っ!」
俺は何もしていない。8人のヤンキーの攻撃をそのまま身体で受けただけだ。強くなった俺の身体は、むしろ殴ったり蹴ったりした方がダメージを受けるほどの硬さになっている。大丈夫だとは思うが一応金属バットだけは右手で受け止めておいた。
「ばっ、化け物……」
他のヤンキーの攻撃を身体で受け止め、渾身の力で振り下ろした金属バットを右手一本で軽々と受け止めた俺を見て、金属バットを振り下ろしたヤンキーがつぶやく。
お前らから見たらそう見えるだろうな。さて、力加減をちゃんとして、おら!
「ぐわ!」
「がは!」
ヤンキーどもを軽く投げ飛ばして気絶させていく。本当だったら難しい手加減も、抑制スキルのおかげで何も考えずに自動で手加減してくれるのは本当に助かるな。
ヤンキーどもを一人残らず気絶させて残りは4人だけとなった。俺は目の前の光景に衝撃を受けて固まっている4人に声をかける。
「さあ、話をしよう」
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