第33話 「許さない……アナタも、テレサも、皆…絶対に許さない!!」

「何のつもりだテメェ等」



 全身から殺気を放つメソテス。


 その周囲を十人の術師が取り囲んでいた。



「見ての通りだメソテス……いいかげん我らも痺れが切れたのだよ」


「全てが終わるまで、アナタにはこの場に留まっていただきます」


「カルロ、テレサ……自分達のやろうとしている事が理解できてるのか?」



 冷静を装いながらも、その額には強く浮かび上がる青筋。


 メソテスは許せなかった。信じていた者達の裏切り……それは家族に裏切られたのに似た感覚。



「教会と同じ……いや、無差別ならテメェ等は教会以下だ! 最低なくそ野郎どもだ!」


「真の平和が来るのなら……私達はクソ言われようともかまいません」


「イデアに洗脳されやがって……ヤツのやろうとしているのは世界の完全な初期化だ! 平和なんか来るわけねぇだろ!」



 メソテスが前へと踏み出すと、カルロはテレサをかばうように前へと進み出た。



「ならば、すべてが終わった後にイデアを抹殺すれば良いだけの話だ」


「テメェらごときに出来るか……それができるとすれば、それはサイスだけだ」



 消えた――いや、刹那にしてメソテスはカルロの後ろへと回り込む。



「くっ」


「俺がどう移動したかわからなかっただろ? それじゃダメだ」



 ドッ、と音が鳴るほどにメソテスは強くカルロの背中を蹴り飛ばす。



「カルロ!」


「くっそ…私に構うな、メソテスを止めろ! 全力でだ!」



 それを合図に一斉に印をきりだす術師達――しかし、それでは遅すぎる。



「よくその程度でイデアを倒す何て言ったものだな」



 声はする。しかし姿は無い。



「わかるか? これがイデアと闘うための最低ラインの動きだ」



 メソテスの姿が再び現われたと同時に崩れ落ちるカルロ・テレサ・クレア以外の術師達。


 彼らが弱いわけではない。ただメソテスとはバトルセンスと、実力の次元が違いすぎた……ただそれだけの話。



「っ、化け物が……」


「テメェ等はさっきその化け物以上の化け物を倒すって言ったんだ……これで分かったか? オマエ達じゃイデアを倒す夢を見ることすら出来ない」


「それを言うのは、今の私達を相手にしてからにしてもらいましょうか!」



 音もなくメソテスの左右に潜り込んだテレサとクレア。


 二人は同時にその手へとカギ爪を召喚し、両方から同時にメソテスを凪ぎ払う。



「だから……遅いんだよ」


「なっ……そんな?!」



 凪ぎ払った筈なのに感じぬ手応え……メソテスは刹那にして遅い来る二人のカギ爪の刄を砕いていた。



「これが今の俺との実力の差。少なくとも数百年単位の壁だ……イデアは俺の比じゃない。数千、いや、数億年経ったとしてもおまえらじゃ勝てない」



 メソテスの両手に召喚される一振りの剣。


 彼はそれをテレサとクレアの首筋へとあてる。



「それでもまだイデアに手を貸す気なのなら……わかるな?」


「殺しますか? 構いませんよ。私達が死んでも結果は同じ……サイスはイデアに敗れ、教会の歴史に終止符がうたれ、最後には旧人類の滅亡が待っています」


「そうさせないために、俺とサイスは今まで頑張ってきたんだよ」



 一瞬刄を引き、メソテスは二人の首を切り落とした……筈だった。



「消えた……だと?」



 予想しえぬ出来事。二人の首を切り落とすはずだったメソテスの双剣は跡形もなく消滅していたのだ。


 それに驚いたのはメソテスだけではない。カルロやテレサもまた同じ。



「魔力結晶の武器を消滅させた?」


「これも、イデアの力だと?」


「こんな力まで持っていた……俺もまだ、イデアを見くびっていたってのか?」



 上空のイデアへと集中する視線。



「なッ!?」



 信じられない――いや、信じたくない光景。


 視線の先にあったもの。それは、イデアの鎌により切り裂かれ墜落していくサイスの姿。



「サイスッ!」



 サイスの落ちた場所へと駆け出すメソテス。


 一心不乱に、絶望を胸に、メソテスはサイスの元へと走った。




 ℱ




 広場の中央にその姿はあった。


 よたよたと、力なく歩みよりサイスの傍らで膝をつくメソテス。


 サイスはすでに虫の息……尋常ではない魔力を凝縮したイデアの鎌は、サイスに再生を許さない。



「メソ、テス……」



 薄めを開け、苦しそうに、呻くように名を呼ぶサイス。



「っく」



 唯一、サイスを助ける手段はある。しかし、それは未だ未完成の術式……今出来ることは、ただサイスの魂を抜き取り結晶化させることのみ。



「すまないサイス……でも、オマエはまだ死んだらいけねぇんだ」



 戦い傷つき苦しむサイス……それなのに、まだ生かしてイデアと闘わせようとすることが果たして人として外道でないと言えるだろうか?



「……」



 しかし、メソテスは意を決してサイスの胸元へと手を当てる。


 二人を包み込む光……それは直ぐに消え去り閉じられたサイスの目蓋。代わりにメソテスの手には、紫色のクリスタルが握られていた。



「メソテス……何やってるのよ…」


「アーシェ!?」


「今メソテス、サイスを……じゃぁ、テレサの言った事は……」



 最悪のタイミングで来てしまったアーシェ。


 彼女の瞳に映った真実は、メソテスが、サイスに術式を使い殺したという事。



「違う、落ち着けアーシェ!」


「許さない……アナタも、テレサも、皆…絶対に許さない!!」



 怒りと共に限界を遥かに超えるアーシェの魔力……その背後には、アーシェが社の前で捨てた筈の“黙示録”が浮かんでいた。



「あれは……ちっ、すべてイデアの掌か」


「うぁぁぁぁぁぁぁっ!」



 アーシェの瞳が赤く染まり、背中に生える漆黒の翼……それは、彼女が守ることではなく、復讐を選んだ結果だった。



「くそっ」



 やむなく転移術式でその場を離脱するメソテス。


 その数秒後、アーシェの悲痛な叫びと共に、集落は完全に世界から消滅した。








 これが真実。


 復讐の幕開け。


 数多のすれ違いは全てを壊し幸せを奪い去った。



 この運命は回避できたのだろうか……。



 否。



 全ては運命と必然。


 起こった運命は起こるべきして必然になされたのだから。



 そう、ただ一人の術師、イデアの手によって。

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