第25話 「アナタがこの家にいて、私はガッカリ……しました」
閉じていた瞳がゆっくりと開く。
どうやら一晩中この場で寝ていたらしい。ひどく、身体が冷えている。
「風邪ひくぞ……俺」
……なんだろう、何だか虚しい。
零司は屋根からベランダへと降り、家の中へと入る。
リビングへ下りると、中は綺麗に片付いていてチリ一つ無い。
「さすが、伊達に一人暮らししてないな……俺」
……違う、俺は一人で暮らしてなんかいなかった。
テレビの電源を入れると、そこは普段見ない俺の嫌いなチャンネル。
「なにやってんだ、俺は」
零司はリモコンを机へ投げ捨て、疲れたようにソファーへと倒れこむ。
「無理、だよなぁ。……俺、めっちゃ拒否られてたし」
零司の記憶は、消えていなかった。
アーシェの術式が発動した直前、零司はマジックキャンセラーを発動させ防いだのだ。
その後、アーシェは朝方までずっと零司の隣にいた。
術式の反動で気絶していた零司はもちろん、それを知らない。
「勝手に人のこと巻き込んで、最後になって何で一人で行っちまうかなぁ……」
零司は顔を押さえ、心の中で自分を攻めた。
好きな奴が、危険な目にあっているのに……なぜ足が動かない?
なぜ、今俺は一人こんな場所で寝ている?
「ふざけんなッ!」
俺は机の上のリモコンを弾き飛ばした……まるで、子供と同じだ。
「……ん?」
なんだ? なにか、音が……。
テレビを消すと、零司は家のドアがノックされていることに気が付いた。
「はい?」
ドアの向うにいるのは亡者という可能性もある。しかし、今の段階でその存在すら知らない零司が警戒心を抱くことなどありえない。
零司は無防備にドアノブを回し、開けた。
「み、美紗!?」
そこに立っていたのは全身ボロボロになった美紗の姿。
「霧谷零司…コレを」
差し出されたのは、見覚えのある刀。
「……そんな」
エリスの……刀?
「こうなってしまっては……言うしかない…ですよね。……アステロペテスは死にました…アナタの、アナタ方のために」
「死ん…だ?」
美紗は背を向け歩きだす。
「アナタがこの家にいて、私はガッカリ……しました」
「……え?」
何故……って。
「アナタは感じないの……ですか? この町に充満している魔力を」
「……ずっと感じてるさ。半端な魔術師である俺でも感じるくらい、馬鹿みたいにデカイ魔力」
だからこそ、俺は動けない。こんな化け物相手に俺が助勢したって……。
「仮にも今は魔術師であるアナタが……この魔力を感じていて動かないというのは不思議…ですね」
俺は……。
「あの魔女はもう出たよう……ですね。彼女に足手纏いだとでも言われ置いていかれた…のですか? まさか、それでふてくされて家に居るわけじゃない…ですよね?」
「……それは」
足手纏いと面と向かって言われたわけではない……でも、この状況はそういうことなのだろう。
口籠もる零司へと、呆れ顔で振り向く美紗。
「当たらずも遠からず……ですか」
「仕方ないだろ半端な力しか持たない俺が行ったところで……大体、アーシェは俺には無理だと――」
零司の言葉が終わるのを待たずに、美紗が勇み足で零司へと詰め寄る。
「魔女に拒絶されたから? では、私がアナタの手を引けば来てくれるの……ですか?」
「っ!」
零司の腕をぐっと掴むと、美紗は力一杯引いた。
「アナタは……こうして手を引かれないと、好きな人一人“守ろうとする”ことができない…のですか?」
信じられないほどの、普段何があっても穏やかな表情を保ち続けていた美紗がみせた怒りの籠もった剣幕。
「アナタが弱かろうが半端だろうが、あの魔女が背中を任せられるのは……アーシェと共に闘う資格を持つものはアナタだけなのですよ」
……そんな事はわかってる。
「拒絶されたから……それだけの理由で、アナタは大切な人を見殺しにするのですか?」
煮え切らない態度に、ついに美紗が零司の胸ぐらを掴んだ。
「全力だったアステロペテスを倒したアナタは強い……少なくとも私よりは。なのに、アナタはあの魔女の助けになるだけの力があるのに、なぜこんな所にいるのですか!」
―――。
一時の沈黙……零司は美紗の瞳を直視することが出来ない。
「……わかりました」
美紗は落胆し、零司の胸ぐらをそっと離す。
「最後に一つ……」
美紗はポケットから一枚の紙を取出し、零司へと見せ付けた。
「七つの教会全てが魔術師クレアと、この町を特級危険因子と認定……しました。アナタが望む望まぬ関係無しに、これから教会の人間以外の一斉掃討が始まり…ます」
「……っ!?」
「救いたい者が居るのなら、アナタ自身で動いて……ください」
言うと、美紗は先に走っていった。
走り行く美紗の背中。
零司は、手に持つエリスの倭刀へと視線を落とした。
「俺自身の手で……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます