43話 一夜で調教された魔女はお好きですか?


 季節外れのマフラーがひらひらと舞っている。

 クラスメイト達はマフラーの方へと視線を追っていくけど、私はマフラーではなくメアリー自身に釘付けだった…。


 雪みたいに白い肌は、赤く染まっていた。

 まるで自分のモノだって主張するみたいに、おびただしいほどの赤の斑点が首元に付けられている。

 

 そろそろ夏だし、蚊でも刺されたのかな?なんておバカな私は考えてしまうけど…流石に蚊の仕業なんて誤魔化せるほどの量じゃないし、そもそもこの痕がなんなのか私は知っている…。


 これは、マーキング。

 自分の所有物だと刻まれた、一方的な愛の証。


 そして、これを付けた人間…いや、悪魔を私は知っている。

 しかも、その悪魔の正体は…。


「わ、わたしだ……」

「……ッ!!」


 震える唇で確かに犯人の名前を呟くと、応じるようにメアリーは胸ぐらを強く掴んだ。

 ギロリと睨むその眼差しからは、尋常じゃないくらいの殺意と恨みで満ちていた。


 私は、そんな殺意に塗れた瞳を覗き込みながら…昨夜起きた、いや私が起こした出来事を思い出していた。


 それは、今朝見た夢の続き。

 曖昧で朧げで、記憶に霞がかかったみたいに視界不良だけど…確かに実在する記憶の欠片。

 私は酔っているみたいに不明瞭で、ふらふらとした様子で記憶を探ると…そこから出るのはメアリーを凌辱する悪魔の姿だった。


 キスをしてぐじゅぐじゅに溶かして、トロトロになったアソコに優しく指を入れる。

 激しく優しくと緩急を付けて動かしたり、気分次第で強くしたりして遊んで…それから、その小さな胸を揉んだりしてたりした。


 最初はやめてって溶けそうな顔で言っていたけど、次第に切なくて甘い声を響かせていくようになってヒートアップしたところまでは思い出せた……。

 まあ、つまり…その、えと…言うなれば私は。


(強姦魔じゃん……!)


 それはもう、悪魔だとかなんだとか以前に犯罪者!

 やってしまった事を今更思い出した私は、メアリーから視線を逸らして頭を抱えた。


 だから今朝から体調がやけに良かったんだ!

 メアリーから大量の魔力と精気を吸い出したから、あんなつるつるの卵肌になってたのか……。


 朝の疑問がようやく解けたけれど、だからといって現状が変わる訳はなく、私は逸らしていた視線を戻してメアリーを見た。

 うん、めちゃくちゃキレてる…!

 このままだとお話し合いとかする以前に、この場で殺されてしまいそうなんだけど!?


「と、とりあえず落ち着いてよメアリー?」

「落ち着く?あんなことをされて落ち着いていられるわけが…ぁっ…ないでしょ!?」

「わ、私自身あの時は空腹が酷くて…!それにああなると私は私じゃなくなるって言うかぁ!」

「言い訳は聞きたくない!あんな恥辱を味合わせた罪…今ここで!!」


 メアリーの空いていた手が大きく開き、魔力が集まっていくのを感じた。

 瞬間、私の背筋から恐ろしいものが走る…それは吸血鬼の時に感じた、確かな殺意だった。


 まずい、本当にこのまま殺される!

 冷や汗が頬を伝い、事態の重さを空気で感じ取ったシエルが私を助けようと駆けているが、メアリーはこの瞬間に魔法を放てる。

 つまり、私は助けが入る前に攻撃される状況に陥っていた……。

 

 身体に駆け巡る魔力が、メアリーの掌に収束する…。

 そして、それは火球を象り…今にも放たれようとした瞬間!


「おーいお前らー!次の授業は体育なの分かってんのかー?さっさと体操服に着替えて体育館に


 えらく間延びした声が教室に駆け巡った。

 その人は体育の授業を受け持つ先生だった、白のシャツとジャージというもはや制服にも近い格好した先生は、教室に顔だけ覗き込ませて言うと…そのまま事態に気付かずに廊下へと戻っていった。


 みんな、先生の声を聞いて我に返る。

 すぐに体操服に着替えようとする人間が出始めて、その空気は感染するように広がっていた。

 私は、そんな一部始終を見ながら…ふと疑問が浮かんだ。


「あれ、メアリー…?」


 強く掴まれていたはずなのに、解かれている。

 さっきまでの怒りがどこかに消えたように、メアリーは手を解くと…次の瞬間苦しそうにうずくまった。


「んぅ…っ!はぁ、はぁ…ぁっ♡」

「メ、メアリー?」

「や、やめて…いま、なにも…ぉっ、しないでぇ…♡」


 突然の変わり様に、私は心配になって触れようとした…。

 でも、すぐに甘い声で返されて…私はピタリと手を止めた。


 同じく、メアリーを見ていたシエルを見つめる。

 シエルなら、何か分かるかもしれない!そう思って彼女の方へと視線を動かすと。


「シ、シエル…!?」


 なぜかゴミを見るみたいな目で見ていた。


「ユウ、本当はなにかあったんですよね?それにこの子の様子は…ユウに何かされた以外検討が付かないのですが?」

「あ、あれ?シエル…なにか怒ってる?


 ゴゴゴゴゴ…と威圧の音がすぐそこまで迫って来てる。

 冷や汗を流しながらシエルに怒りの理由を聞くと、シエルは眉間に皺を寄せて呆れ顔で口を開いた。


「ユウ、彼女に淫紋を刻んだでしょう?」

「へ?」

「この症状、私もよく経験してるので分かります。荒い吐息に不定期に訪れる快感…慣れていない姿を見る限り、昨日刻まれたと見るのが妥当……つまりユウ」

「は、はい!」

「ヤったんですね?」


 ギロリと…メアリーにも負けない鋭い睨みが私を襲う。


「あ、いや…その!」

「その?なんですか」

「じつは、話すと長くなりまして…」

「それが、今話せない理由でも?」


 ジリジリと詰め寄られて、私もメアリーと同じく萎縮する…。

 やばい、ばれちゃった…隠そうとした矢先にバレて、シエルってばめちゃくちゃキレてる!!


 あの凍て付く魔力が、今にも私に襲い掛かりそうな錯覚を覚えて…そして。


「とりあえず、体育の授業が始まります…あとでじっくりと話を聞かせてもらいますから」


 はぁ、とため息を吐いてシエルは身を翻した。

 ついでにメアリーの方を見て、ギロリと睨んだシエルは去り際に口を開く。


「さっきの先生が登場して、急に蹲ったみたいですが…もしかすると彼女には言葉が関係してるのかもしれません」

「え?言葉?」

「はい、一定の言葉で淫紋が作動するようなので……例えば」


『イけ』


 シエルが冷ややかな表情でさらりと言う。

 私はその単語を聞いて赤面していると、蹲っていたメアリーがビクビクと震えた。

 

「ゃ、やめっ!お"っ♡ぃっ!」


 濁音の付いた嬌声が私達の耳に響く。

 これ、もしかして…。


 シエルの言っていた、淫紋の効果を私はようやく知った。

 私が刻んだであろうその淫紋には、トリガーとなる単語が仕組まれていた…。


 イけ。


 そう言うと、メアリーは無条件に快楽に苛まれて、腰が砕けるほどの快感に染まる。

 それってつまりは……。


 え、えっちな本に出てくる…調教奴隷みたいなことになってる……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る