42話 体調が良い時にはご注意を


 マシュマロみたいな真っ白な肌が、艶やかなピンク色に染まってる。

 お口からは滝のように唾液が溢れかえっていて、栓が機能してないみたい。

 それに、心の奥をくすぐるような甘い声が耳に響いてきて…私はその声に耳を傾けながら、つぼみをちゅーちゅーと吸う。


 あまいにおいがする。

 あまいあじがする。

 あまくてむねやけしそう。


 彼女は、あまくてかわいくて…えっちでえっちでしかたのないおんなのこ。

 だからね、もっと楽しく美味しくなるように私は彼女に教えるの。


 どうしたらきもちよくなるのか、どうしたらえっちな気分になるのか。

 昔おねえさんに教そわったことをなぞるように…。

 ほうら、少し力を入れたら跳ねちゃった。


 私は無邪気に彼女に触れて遊ぶ、遊んで遊んで…飽きることなく触れていると……。


『PPPPPPPPPPPPPPP!!』

「うわぁっ!?」


 曖昧で朧げな闇の中、けたたましく鳴り響く機械音に意識を引き上げられた私は、悲鳴に近い声を上げながら飛び起きた。

 あまりに唐突だったものだから、夏用布団を蹴飛ばしてしちゃって布団が宙に舞う。


 そして、そのまま布団が私の方に落下すると…私は布団に包まれた薄闇の中、ぱちくりと瞬きをした。


「あれ?ここ私の部屋だ…」

 


「あれぇ〜…?あのあとどうやって帰ったんだろ?」


 しゃこしゃこしゃこ…。

 口の中に泡たったからいミントの香りが広がり、寝ぼけた瞳をしゃっきりとさせながら昨夜の事を思い出す。

 昨日は確か、一人で帰ったら召喚されて…それから気付かないうちに契約を結ばれてから、破壊光線を撃ってくるカカシと戦ったんだけど……。


 ガラガラガラ…ぺっ!


 水を含んで歯磨き粉を吐き出すと、私は鏡の自分を見つめながら首を傾げた。


「あの後の記憶がまったくない…」


 でも、鏡の私はいつもより元気が良さそうだった。

 肌はつやつやの卵肌で、血色もすごくいい。それに体調もかなり良くて、いつもより寝覚めがいい!


「それに、今日は魔力が満タンまで溜まってる…!」


 お腹をさすりながら、私は内にある魔力を感知する。

 いつもは半分以下しかない魔力だけど、今日は何故かみなぎるほど溜まっていた。

 多分、身体の調子がいつもより良いのはこのおかげなんだと思う!でも…。


「昨日は魔力補充エッチをほとんどしてなかったんだけどなぁ…」


 私はサキュバスだから、基本えっちなことをしないと魔力を補充できない。

 シエルやチカは自然に魔力が回復するんだけど、サキュバスにはそういう機能がないから自然回復はあり得ないんだけど……。


「まぁ、なにか奇跡が起きたんでしょ」


 むずかしいことはよく分かんないし、運良く謎のパワーが私を助けてくれたんだよきっと!うんそうに決まってる!


 きせきパワーばんざーい!


「って、今はそんなことしてる場合じゃない!遅刻するから早くしなきゃ…!」


 喜んでる場合じゃなくて、私はいそいそと支度を始める。

 可愛く見せるためにナチュラルメイクをしたり、忘れ物がないか確認したり…あれこれそうこうしてる間にも時間は容赦なく進んで……。


◇◇◇◇


「もうユウちゃんってば、遅刻しちゃダメでしょ」

「ご、ごめんごめん…」

「まぁ、間に合ったから許すけど次から気をつけてよね?ユウちゃん…」


 家から出た後、玄関先で待っていたハナと一緒に通学路を走って数十分。

 お互いに少し汗を流しながら、私は呆れ顔で説教するハナに頭を下げて謝っていた。


 こんなこと言ってるけど、なんだかんだ言って許してくれるハナがすき♪


「って思ってるでしょ?ユウちゃん」

「あれ!?心読まれた!?」

「そういう顔をしてたからね?もう、甘やかすとすぐ調子乗るんだから…」


 そう言って、ハナは人差し指をぐぐっと丸めて私のおでこに狙いをすました。

 そして、ぴんっとおでこにデコピンを食らって、私は目をバツにしながら痛みに悶える。

 ハナのでこぴんちょーいたいぃ…。


「次から気をつけること!」

「は、はいぃ…」

 

 痛みに悶えながら謝っていると、ハナの背後から白いシルエットが目に映った。

 特徴的な渦巻く瞳に、真っ白な髪とデジタルっぽいポリゴン製の天使の輪!


 この世にこんな美しい天使は彼女以外ありえないだろう、その女の子の名前は…。


「シエル!おはよう!」

「あれ?シエルちゃんおはよう」

「ええ、二人ともおはようございます」


 私とハナが挨拶をして、シエルは薄く笑って挨拶を返す。

 でも、渦巻いた瞳はハナに向けられていて、なぜか私の方は見向きもしてくれなかった。


「あり?」


 いつもなら、真っ先に私に笑い掛けてくれるのにシエルってば素っ気ない…。

 なにか悪いことでもしたのかなー?と疑問に思った私は、過去を掘り返そうとしたけどシエルは私を見て気まずそうな表情で口を開いた。


「ユウ、昨日はすみませんでした…確かにユウの言う通り、決めつけだったのかもしれません…」

「へ?」

「だからその、許してほしいのです…」


 突然、謝罪の言葉がシエルの口から出て、私はぽかんと放心状態。

 対してシエルは少し涙目になったまま、スマホを取り出して、画面を私に見せた。


 そこには、私宛てに送信されたメール達。

 ずらーっと履歴がどこまでも続いていて、そのメール全てに既読が付いてなかった。

 このメールは、全部私に宛てられたもので…差出人はもちろんシエル。


 ど、どうしてこんなに?と声に出そうとした矢先に、シエルは私の手を取った。


「まさか、あれだけ怒ってるとは思ってませんでした…。一向に既読が付かなくて、ずっと悲しくて…だから」


 渦巻く瞳がうるうると潤んで、目尻に涙が浮かんでる。

 私はなんのことかと狼狽していると、私達を見ていたハナが割って入ってきた。


 早く離れろって言わんばかりに強く引き離すと、ハナは頬を膨らませて少し怒った顔で言った。


「シエルちゃんの言う通り、昨日のユウちゃんってば連絡が付かなくて心配したんだよ?」

「へ?」


 指摘されて、私は今朝までずっとスマホを見てなかったことに気付く。

 すぐにポケットからスマホを取り出して電源を付けると、ホーム画面からは大量の通知が届いていた……。


 ハナにシエルにチカに、お姉さんとか…。


 見た事ないくらいの通知にたまげながら、私は二人を交互に見合わせて…。


「し、しんぱいかけて…ごめん」


 震える声で謝った。


◆◆◆◆


「あのあと、特にんですね?」

「うん、そうだよ。すごく疲れてて寝てたんだ」


 何度も確認するシエルに、私は答えを返す。

 シエルは納得いかなそうな表情で眉を寄せているけど、私はそんな困ったシエルの表情を見てこっそり写真を撮る。


 メアリーに召喚されたことは、黙っておいた。

 さっきシエルが言っていたけど、元々私達はシエルが危険か危険じゃないかで揉めていたんだけど、私がメアリーに召喚されて大変な目に遭っていたなんて言ったらシエルがブチギレてメアリーが危ないので、お口をチャックすることに。


 シエルは納得いかなそうだけど、私は平然と嘘を付いてシエルの頭を撫でた。


「返事返せなくてごめんね?シエル」

「べ、べつに返事がこなくて拗ねてるわけじゃないんですよ!?ただ私はユウが心配で仕方なかったんですから!」


 と、言ってるけどお顔真っ赤だよ♡


「なに笑ってるんですか!」

「んふふ〜拗ねてる天使もかわいいなぁって」


 さすりさすりと真っ白な髪を撫でる。

 指の隙間からするするとすり抜けて行く白い髪は、触り心地が良くていつまでも触っていたいくらいだ。

 そんな触り心地に心を奪われていると、教室の扉が勢い良く開いた。


 だんっ!と扉が跳ねるように反復する。

 あまりに大きな音だったから、私含めたクラスメイトはみな扉の方へと視線を寄せる。

 そこには、メアリーの姿があった。


「メアリー…」


 彼女の名前を呟いて、昨夜の出来事を思い出す。

 しかし、完全に思い出そうとする前に…メアリーはすかさず私の方へと視線を向けると、今にも殺すような眼差しで睨んできた。


「笹木ユウ…!」

「え、え?え!?」


 カツカツカツと靴音を響かせて、メアリーは私の方へと迫ってくる。

 私は身に覚えのない恨みに逃げようと後ずさるけど、すぐに壁にぶつかって退路が塞がった…。


 シエルがメアリーを止めようとしたけど、振り払われて…メアリーが私の前に立つ。


「ど、どうしたの…?」

「どうしたもこうしたもないでしょ…ッ!」


 わなわなと震えて、メアリーは涙目になったまま胸ぐらを掴んだ。


 そういえば…メアリーってばマフラーしてる。


 胸ぐらを掴まれて息苦しいのに、季節外れの防寒具を見て私は疑問を隠せない。

 彼女の首元には、あったかそうな緑色のマフラーが巻かれていた。

 厳重にぐるぐると巻かれたマフラーは見てるだけでも暑そうで、思わず問いただしたくなった。


 でも、今は聞けるような状況でもなく…。


「笹木ユウ…昨日、わたくしにした事を覚えているかしら?」

「さ、さあ?カカシに襲われたあたりから…なにも覚えてないから……」

「そう、なにも覚えてないのね…覚えて、ないのねッ!!」

「ぐうっ!?」


 胸ぐらを掴む力が急激に高まる。

 きゅっと絞まられた首が、一気に苦しくなって私は苦悶の表情を浮かべた。


 メアリーはそんな私を見ながら、睨むのを止めずにま呟くように言った。


「なら、思い出させてあげるわ…」


 メアリーがマフラーに手をかけて、引っ張る。

 しゅるりと布の擦れ合う音が聞こえてきて、同時に「んっ♡」と嬌声が混じっていたのを聞き逃さなかった…。


 今、布が擦れて感じたの?なんて言うタイミングを逃して…マフラーで隠れていた素肌が明らかになった。


「……っ!」


 瞬間、言葉が詰まった。

 張り詰めた空気が一気に広がって…彼女の素肌を唯一見ている私に視線が注がれる。


 位置的に、メアリーの肌は誰にも見られていなかった。でも、見られてなくて幸運だった。

 だって、彼女の白くて透き通るような肌は……。


「忘れたなんて…んっ♡言わせないわ!笹木…ぉっ♡…ユウ!」


 悪魔のマーキング口付けで…いっぱいだったから。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る