36話 契約
「…ホントに悪魔だなんて」
驚愕と困惑が入り混じった声色で、メアリーはよろよろと私から離れていく。
まだ、信じられないといった様子で…メアリーは言葉を発した。
「…他にも証拠はあるの?」
「う、うん…ツノ以外にも尻尾とか…ほら」
そう言って魔法を解いて尻尾を現す。
ぴょこんっとスカートから飛び出して、先端がハート型の尾がくるくると私の意志を無視して遊び出す。
まるで外に出た子供みたいにふりふりと可愛らしく動く様は、ちょっとかわいい。
ちなみに、尻尾もツノとおんなじで大きく成長を遂げていた。
以前は足に巻き付かせておけばバレないくらいだったのに、今では大きく伸びていて先端が少しふくらんでいる。
正直…これ以上成長したら何が出来上がるのか怖いとすら思える。
そんな、まさに悪魔と言わんばかりの姿をメアリーに曝け出した私は、恐る恐るとその瞳を覗き込む。
なんというか…まだ信じられないという様子というか、現実を受け入れきれてないといった様子だ。
数秒の沈黙が流れたあと、メアリーは少し頭を抱えた後に。
「ほんとに、悪魔…なのよね?」
「うん、そうだよ…?」
「そう…そうなのね、なるほど…」
「悪魔らしく…ないわね」
ぽつりと本音がこぼれた。
私はその言葉を聞き逃すことはなく、ピクリと身体が揺れる。
悪魔らしくないという言葉が少し、嬉しかったから…。
「そ、そうかな?最近、悪魔悪魔って言われてたからそんな事言われたことなかったなぁ…」
えへへ…とふにゃけた笑い声をあげると、張り詰めていた空気が柔らかくなったのを感じた。
鋭く尖った視線はそこにはなく、困惑から平静へと移り変わってゆくメアリーを見て、私はほっと安堵した。
これで…話は通じるよね?
じっと彼女を見つめて、私は息を吸うと身体を前に突き出した。
「あの…それでさ、私どうしてここにいるのかよく分からなくて…えへへっ、事情を教えてほしいんだけど…いいかな?」
なるべく、突き詰めないように不快感を与えないようにと努力した結果、なぜか擦り寄るみたいな喋り方になって…自分のキモさに恥じる。
けど、そのおかげでエミリーは警戒を完全に解いてくれたのか、重い方が開いた。
「それは…」
◇
追放されて日本にやってきた事、お姉様に復讐するために悪魔召喚を始めた事で、なぜかあなたが召喚された事を。
彼女は半ば信じられない…といった表情を見せると「ほんとに魔女っていたんだ…」と人間らしいことを言っていた。
おかしな悪魔だわ…と感じた。
いえ、そもそも人間社会に溶け込んでいる事態おかしなことなのだわ…。
私達魔法使いよりも高位の存在なのに、まさかこんな身近なところに悪魔がいるなんて信じられないことだもの。
けど、目的である悪魔の召喚は達せられた。
でも…肝心の悪魔は悪魔らしくない悪魔で、正直言って頼りないし弱そう。
「山羊頭とか牛頭のような悪魔を連想していただけに、あなたが出て来たことにショックを受けてるわ…」
「そ、そんなこと言われても…」
「でも、いいわ…」
「え?」
すくりと立ち上がって、彼女を見下す。
目的は達せられたのだから、あとはこの女を利用するだけ。
正直、召喚相手があなたで助かった。
悪魔らしくないその振舞いに、今までの
本来、契約はタダは済まないもの。
小さなものであれば代償は少なく、大きければ大きいほど求められる代償は大きい。
お姉様は、自身の使い魔と契約する為に右目を失っていた。それ故に強力な存在で、私はその使い魔に歯が立たなかった。
でも、彼女は悪魔。
それも、無知にして馬鹿とも呼べるくらい…扱いやすそうな子。
確か私と仲良くなりたいという欲望があるみたいだし、そういう風に装っていれば釣れるでしょう。
(利用するものは、なんでも利用する)
全ては、元の私を取り戻すために。
そのためなら悪魔だって利用してみせる。
「ねぇ、あなた…真名は?」
「え?真名って…?」
「あなたの真の名前を教えてって言ってるの」
「真の名前って…よくわからないけど。私、笹木ユウ、そのままの通りだよ?」
バカなの?この悪魔。
真名とは真の名前、名は体を表すというけどその通りであり、悪魔や天使といった高位の存在は無闇に自身の名を口にしてはならない。
心臓を自ら差し出すのと同じ行為であり、まさか常日頃から名前を名乗ってたなんて馬鹿さ加減を疑うけど、まぁいいわ。
魔法の世界において真名を告げると言うことは自らを捧げるようなもの!
つまり私は今、この悪魔を手中に収めたと言ってもいい!
「そう、ありがとう。じゃあ笹木ユウ」
「ん?なあに?」
「
ニヤリと口角を歪め、呪文を唱える。
どの言語にも当てはまらないこの言葉は、使い魔との契約に必要な呪文。
その為には相手の真名を知らなければいけないけど、それはさっきクリアした。
これで、代償を払う事なくあなたは私のモノになる。
あなたは何が起きてるか分からない呆けた表情をしているけれど、後になって泣かないでよ?なにせ、あなたが無知なのがいけないんだから…!
「あの、エミリー?さっきからぶつぶつと怖いんだけど…なにしてるの?」
「ねぇ、あの…!なんか、むずむずするんだけど!?」
笹木ユウが何かを言ってるけど、私は無視を決めて呪文を唱え続ける。
そして、完全に詠唱を唱えきったその時…私達の間に閃光が瞬いた。
「きゃっ!?」
強い光が私達を覆う。
そして、光が晴れて…元の彩りを取り戻していくと…。
「な、なにこれ?」
「ふふふ、やったわ…!」
契約完了である、主従の印が…笹木ユウの胸元に刻まれていた。
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