35話 悪魔召喚
「結局、話しかけても無視されちゃった…」
学校終わりの帰り道、私は一人寂しく俯きながら帰路を辿る。
シエルと喧嘩して、拗ねた私はエミリーに近付いたんだけど、反応を示される訳もなく無視されてしまった。
エミリーと仲良くなる!という目的を達成できなかった私は、シエルの言い分を無視して喧嘩したせいで…今は私一人で帰ってる。
いつもならシエルとハナの二人で帰るのが日常なんだけど、ハナは学校に用事があるみたいで、今は私一人だけ。
最近は一人っきりになる事がなかったから、再び訪れた一人ぼっちに寂しさが私の心に積もる。
シエルの言い分を…少しくらい聞いておいても良かったなぁって、今頃後悔してる。
だってそうしていればこんな寂しい気持ちになる事はなかったし…何より喧嘩別れみたいになっちゃったから、心が痛い。
別に、些細な喧嘩だと…言い分のぶつかり合いだと理解はしてるけど、これがキッカケで何か大きな事になったらどうしよう?
チカの時みたいに、取り返しのつかない事になったらと思うと…私は怖くて身体を震わせる。
「…明日、謝っておこ」
喧嘩したままは…怖いから。
とはいえ、謝っても私は私の言い分は変えるつもりはないけどね。
メアリーは吸血鬼と違って、恐ろしさを感じないから警戒とかそういうの抱けないんだよね。
まぁ、今は嫌われてて話すら聞いてくれないんだけど……。
「まぁ、こういうのは根気だよねぇ!いつか仲良くなれたらいいなぁ…」
私一人だけの帰り道。
私は願うように空を向いて言葉を吐いた。
そんな、小さな願望が…受理されたのか、次の瞬間…私は不思議な感覚を覚えて、その足を止めてしまう。
「…ん?」
最近は殺気とか恐怖という気迫に晒され続けてきたからか、そういう感覚が研ぎ澄まされていたのかもしれない。
だからその『不思議な感覚』に気付いた私は耳を澄ます。
嫌な感覚ではなかった。
身体が震えるような恐怖もなく、例えるなら…呼ばれているようなそんな感覚。
ほら、たまにあるじゃない?声で呼ばれている訳でもないのに、呼ばれた感覚がするあれ。
だからか私は、その感覚を掴むように耳を澄ました。
深い水の奥にある物を、掴み取るみたいに意識を深く潜らせて…そして。
「……え?」
掴んだ瞬間、引っ張られた。
これには思わず声をあげて、私は目を見開いた。
深く潜らせていた意識から目を覚まして、突如と襲う事態に困惑の表情を浮かべる。
「な、なにこれ…!なにこれぇ!?」
身体が浮いていた。
ぐいーーっと持ち上げられるように、身体がふわふわと宙に。
私はじたばたと身体を揺らすけど、手放してくれる気配はなく…。がっちりと宙に固定される。
私はあたふたと慌てながら、助けを求めようと周囲を見渡す。けど、誰もいないから助けを呼ぼうにも、呼べない。
「え、えぇ!?な、なんなのこれ!ほんとに!なにこれ!!?」
涙がじわりと溢れる。
恐怖がじわじわと心を蝕んでいって、どうしようもないこの状況に絶望する。
シエルの…言う通りだった。
私は自分が強いと信じきっていて…なんでも出来ると思っていたから、罰が当たったんだと思った。
もっと早く謝っておけばよかったって後悔する。
けど、後悔は遅く…次の瞬間。
視界と身体が一瞬ズレて、意識が混濁の闇の中へと落ちていった……。
◇
「えと、つまりこういうことなんだけど…」
「ふぅん、なるほど」
困惑を浮かべながら私は、目の前にいるメアリーにこれまでの経緯を話し終える。
メアリーは両目を細めて、疑わしい視線で私を睨んでいるけど…とりあえず状況を教えてほしいと心の底で叫ぶ。
呼ばれているような感覚を覚えた私は、意識を深く潜らせてそれを掴んだ。
そしたらなぜか空に浮かぶと意識を失って。なぜか目を覚ますとメアリーが目の前にいた…。
いや、何を言ってるのか分からないと思うけど…事実を全て話すとこうなるのです。
「…
「へ?あ、悪魔…?召喚?」
「この儀式のために、かなりの労力を使い果たしたわ…。魔法陣、触媒、時間とありとあらゆるものを費やしたのに、どうしてあなたが」
ギロリと殺意と怨みがこもった視線が、私を襲う。
眉間に皺が寄って、酷く怒った表情を浮かべるメアリーが、声を低く荒げて私の顎を強く掴んだ。
「どうしてあなたが現れるのッ!」
ぐぐっ…!と力強く顎を掴まれて、私は逃げるように身体を後方へとずらす。
けど、メアリーはそうはいくかと言わんばかりに、身体を前に突き出すと私の上に圧し掛かるような姿勢になる。
「なんで、人間であるあなたが!現れるのよッ!全て台無しになったじゃない!!」
「がっ、ぐぅっ…!お、おち、おちつい…」
「落ち着いてられないわよ!!」
殺意のこもった感情に力強く押される私。
なんとか説得を試みようとするけど、メアリーは私の言葉を振り払った。
まずい、このままだと…本当に、本当に殺されるかもしれない!!
メアリーが向ける感情に焦った私は考える。この状況から脱する唯一の方法を!
その為にも、考えないと…!模索しないと!!
普段使わない脳をフル回転させて、メアリーを冷静にさせる案を、どうにかして!!
「……!!」
もし、召喚の儀式が本当だとして…。
彼女が怒っている理由が『人間である私が現れた』という事に怒ってるのだとしたら。
自分が悪魔という証拠を見せてしまえばいいんだ!
そして、その証拠は…一つしかない!
私は常に張っていた力を抜く。
筋肉とかそういう体力ではなく、意識的に近い意志のようなものだ。
それは、前にお姉さんに教えてもらった隠す魔法…。
「…なに、それ」
メアリーから驚きの声が漏れる。
それもそうだ。私自身、朝起きるとたまに驚いたりする。
彼女の視線は私の頭上…髪からつっぱり出る突起物にメアリーは夢中だった。
「ツ、ツノ…?」
「あのさ…私の事、悪魔だって事に怒ってたみたいだけど、その…私ってさ」
突起物とは、そうツノだ。
私には悪魔になった時に生えたツノがある。それも吸血鬼と戦った時に更に伸びてしまった螺旋状にうずまく黒色のツノが。
あんまり人には見せたくなかったけど…仕方ない。
私は驚くメアリーを前に、静かに…冷静な口調でカミングアウトをした。
「ほんとに悪魔なんだ…」
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