29話 バトル
血が全身を駆け巡る。
心の臓は大きく鼓動を打ち。
全身は沸騰するように熱く。
なのに心は凍ったように冷たい。
そんな、経験した事のない奇妙な感覚に襲われて私こと笹木ユウは知覚する。
溢れ出る魔力の奔流、その真髄、その真価。
一つ一つが手に取るように理解出来、身体の一部のように自在に操作が可能…。
まるで、神にでもなったような万能感が奥底から湧いて溢れて…ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、自分が出してるとは思えない高笑いが薄暗闇に響いた。
「アッハッハッハハハハッ!!なにこれ、なにこれなにこれなにこれ!!」
自分自身を見失う程の高揚感。
地に足が付いてない、浮ついた気分。
それとは真逆の冷徹と化した心。
全知全能にでもなったようなその感覚に酔いしれて…敵を睨む。
「…気でも触れたか?」
「いや、サイコーって感じ」
「ふん、そうやって酔いしれていろ…貴様の四肢を捥いでゆっくりと殺してやる」
下卑た笑みを浮かべ細木のように細長い両腕が肥大化する。
言葉にも表せないような…肉が膨張する不快な音が耳に入ると、先程の細木とは真逆の巨大な丸太を彷彿とさせる腕に変貌していく。
「ワォ」
「ハハハハハハ!!言葉も出ないだろう!!所詮貴様は風しか出せない淫魔だ!!重量で物を言わせてやれば、ただの無力だと言う事を思い知らせてやる!!」
嗤う吸血鬼。
それは勝利を確信した確かな笑い声で、ずしんずしんと音を立てて私に近寄る。
ゆっくりと、獲物を追いかける事を楽しむように…。
「確かに私は風しか出せない淫魔だよ?」
「あ?」
「でもさ、それ…さっきまでの話だし?」
それに。
「強くなった私の晴れ舞台なんだから、私が負けるなんて100%有り得ない」
口角が歪む。
吸血鬼にも負けない不敵な笑みを浮かべて、右手を差し伸べると…パチンッ!と小さな音が弾けた。
「
小さく呟いて…光が瞬く。
眩い閃光を放つ小さな光は、吸血鬼の顔前に現れると膨張し、弾けた。
「んなぁっ!?」
驚愕の声、しかしそれは熱と音によって掻き消される。
轟く爆音、硝煙の臭い、肌から伝う確かな熱。
それに晒されて尚、私は微笑んだ。
「芸術は爆発だっ!なーんて言うけど…」
「が、ががが…っ」
「男が爆発しても芸術にはなり得ないかぁ…」
煙から現れる、顎が無くなった吸血鬼。
胴体は爆発にやられて抉れており、ボタボタと赤黒の血液を垂れ流す。
「あははっ!顎がなくなってる!」
「あ、ぁ"ぁ"あ"あ"!!!」
しかし、流石は吸血鬼。
顎がなくなり、胴体は抉れているにも関わらず相変わらずの殺意を向けて立ち上がる。
人間なら死んでいるが、その生命力は驚愕を隠し得ない。
「まぁ、チカの借りを返さないといけないから…これくらいで死んだら困るけどね」
「ぐ、くぞがぁあ!!!」
「あはは!めっちゃ怒ってる!ちょーこわい!」
血眼になって殺意を振り撒く吸血鬼に、私は怖がるフリをしてふざけてみる。
稚拙な煽り、だけど相手も余裕もないのか雄叫びを上げて急速再生を遂げる。
抉れた身体は内側から肉が蠢き、穴を埋めて。無くなった顎は一瞬で骨を生成し、同時に肉が埋める。
完全に復活を遂げた吸血鬼を、私はただ見つめて…。
「チカは苦しんだんだ…お前が死ぬまで苦しむまで殺してやるッ!」
殺意と怒気を深めて、魔力を練った。
◇
すごい…。
はだけた衣服を着直して、私はユウと吸血鬼の戦闘を遠目から眺めていた。
本来、私がやるべきだった吸血鬼退治を友達であるユウに任せるなんてダメに決まってるのに…どうして。
「淫魔がァッ!!」
「
襲いくる吸血鬼を灼熱が包む。
魔法を放つのは、つい最近まで酷く怖がっていたユウから放たれたもの。
まるで別人のように戦う彼女は歪に、不敵に笑みを浮かべながら吸血鬼を燃やす。
すごい…としか言葉が見つからない。
元々、魔力が多い事を理由に同行していたけど、まさかここまでの量と出力を発揮するとは予測できなかった…。
と、というより…ここまで強くなったのって多分あれですよね?その、えと。
「…う、うわぁ」
二人の激闘に視線を逸らして…私はお腹をチラリと覗き見る。
真っ白で傷一つない綺麗なお腹…だけど、へその下には妖しく淫らに光るピンク色の淫紋が一つ…。
「わ、私…天使、なのに…ゆ、ユウの、友達の眷属になっちゃった…!」
今、私がどんな顔を浮かべてるのか…わかんない。
けど、耳に入るふにゃけた私の声と小刻みに快楽で震える私の身体を見ると。
すごくだらしない顔をしてるんだろうなって思う。
「あ、あはは…どうしよう私」
これじゃあ、天使じゃなくて…堕天使ですよね?
堕落願望があるわけじゃないのに…身体がすごく熱い。
股下がやけに疼いて、自然と手が伸びかけててツラい…!
ああもう、もうもうもう!!
「勝ったら…責任、取ってもらいますからね!ユウ!!」
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