28話 エッチなことしてパワーアップ


 淫紋はお姉さん曰く眷属の証。

 刻まれた者は昼夜問わず強い快楽に苛まれ続け、淫魔に対しては逆らえず淫らに快楽を欲するようになる。

 そんなエロゲとかエッチな本でしか見た事のない設定だけど、サキュバスのメリットとしては精気が大量に溢れ出すため空腹には困らない。

 要するに、例えるなら水の湧き出る壺で、常に魔力不足に陥りやすい私にとっては無くてはならないものなのだけど……。


「わ、私に…淫紋をき、刻んでください…!」


 服をたくしあげて、服従する犬のポーズを取って、真っ白でキレイで…すべすべな柔肌が、目の前で露わになる。

 小さなおへそが此方を見ていて、その小さな穴に指を入れたい…そんな欲求が溢れ出そうとしてくるのも束の間、この状況を上手く飲み込めずにいた私は喉がひっくり返ったみたいに変な声が溢れた。


「へ、へぁっ!?」


 我ながらなんて変な声。

 そんな声を上げて、二歩三歩と後ずさると真っ白な少女は顔を紅に染めて、ぽしょりと小さく呟く。


「へ、変な声…上げないでください。わ、私だって恥ずかしいんですから……」


 羞恥のあまりに掠れたその声に、シエル自身が本気でこんな真似をしてるのだとようやく理解する。

 けど、どうして?と疑問符が湧き上がると、聞かざるを得なくて身体を前に突き出した。


「な、なんで、い…淫紋を」


 知ってるの?と聞くとシエルの薄いピンク色の唇が小さく開いた。

 恥ずかしさで震わせながらも、確かに聞き取りやすい声で理由を告げる。


「…あの吸血鬼を倒すにはユウの力じゃないとダメなんです、ですが今は魔力が少ない状態…急速に回復させるには淫紋を刻んで効率良く精気を得なければいけない…だったら、今ここで…」


 ここで…淫紋を刻む。

 そう言って、更に服を上げる。

 これでもかと広げられて、シエルのまっさらなお腹が視界に広がる。ただ、服を上げすぎて少しだけ下着がこんにちはしていて、とても目に悪い…。

 すぐに視線を移動させるけど、それでも真っ白ですべすべなその肌は私にとって毒だった。


 熱くなりそうな両目を…右手で隠す。

 どうしよう…すごく頬が熱い。

 そしてシエル自身に淫紋を刻んで…と言われたせいで自分がその気になっていて、すごくイヤだ。


(と、友達にこんな気持ち向けちゃ…だめなのに…)


 なんとか自分に言い聞かせるけど、それでも熱は収まらない。それどころか心臓がとくとくと鳴って…音は次第に大きくなる。

 これは…ダメだ、絶対ダメだ…。

 そう言い聞かせて私は振り絞るように言葉を吐いた。


「シ、シエルが言ってること…多分正しいと思う。で、でもシエル自身はどう思ってるの?そんなことしたらシエル…わ、わた…私の!」


 眷属になっちゃうんだよ?


 振り絞るように私は言う。

 右手を少し開けて、私はシエルの反応を盗み見る…。

 眷属になるって…つまりそういうこと。

 それは果たして、シエル自身が望んでいる事なの?だって私達は友達同士であれども…結局の所は。


 天使と悪魔の関係な訳で…。


「……ユウは、イヤですか?」


 数秒の静寂、それを終わらせるようにシエルの透き通る声が割って入る。

 イヤ?それは…えっと。


「……わ、わかんない」

「私達、友達同士だからこそ…正直こんな事になるなんて…………」


 いや、本当はそうじゃない。

 気付かないフリをし続けてきたけど、もう誤魔化しきれない。

 友達同士を言い訳にして、密かに膨れていた気持ちを見ないままにしてきたけど…これが限界なのかもしれない。


 シエルと出会って、友達になって、キスをして…。

 そんなことしておいて何も思わない訳もなく。


「……ほ、ホントはシエルを眷属にしたい」

「あの時キスしてから気付かないフリをしてたけど、もうムリ…」

「ホントはキス以上のこと…したいと思ってるし、もっとめちゃくちゃにしてぐちゃぐちゃにしてやりたいって…そう思ってる」


 私ってばサキュバスすぎる。

 自身の欲望を自分勝手に吐き出し終えて、急激に後悔が津波になって襲いくる。

 ああ、これは絶対に引かれた…ドン引きされるに間違いない、絶交案件だ…。


 そう、思ってたのに。


「…あの、勝手に落ち込んでるみたいですけど私、イヤじゃなければ淫紋刻んでくださいなんて…言いませんからね?」

「…へ?」

「なに呆けてるんですか?つ、つまり私はですねぇ!!」


「ユウのことが好きなんです!天使と悪魔とか友達とかそんなの全部ひっくるめて!あなたと一緒にいたいって思ったから私はこんな提案をしてるんですよ!!」


 後悔が…波になって押し寄せてくるのも束の間、勝手に後悔して項垂れて…そんな私の前に白い少女が私の頭を持ち上げて、頬を真っ赤に染めて言った。


「………え、あ…え?ええ!?」


 意識が覚醒して逆流する。

 驚愕とか嬉しさとか、もう感情という感情がミックスしあって訳わかんなくなる。

 けど、そんな混沌と化した私の中だけど、シエルの言葉の意味はハッキリと理解している。


 告白された。

 好きって言われた…。


「だから、私に淫紋を刻んで…ユウ」



 酷く空腹になると、私は私ではなくなるような…そんな感覚に陥る。

 目の前にあるご馳走を貪りたくなるような、歯止めが効かなくなるような…そんな感じだと思う。


 だから今の私は…嬉しさのあまりにブレーキが効かなくなっていた。


「ねぇシエル…どう?気持ちいい?もっと強くしていい?それとも…もっと焦らした方がいいかな?」


 息を荒げて、私はシエルのお腹をすりすりと優しく撫でる。

 柔肌を味わうように撫でて、たまにぐっと力を入れる。そうするとシエルは小さく呻くように声を上げる「んっ」とか「ふっ」と微小ながらもエッチな声を…。

 そうして、私はシエルのお腹で遊び終えると、へそ下の辺りの方へピタリと手を止めて指先に微小の魔力を宿す。

 さて、今から淫紋を刻みましょう…。

 楽しみのあまり、ニヤリと笑みを浮かべる、けどシエルは息を荒げながら言った。


「お、お願い…早くしないと、吸血鬼が来るので…すぐに済ませてください」

「………………」


 ふーーん…そんなこと言うんだ。


「………確かに、吸血鬼が来たら一貫の終わり…けどね?折角シエルが願ったんだもん…最短で終わらせるけど、遠慮はしないからね?」

「え?ユウ…なにいって、ってえ?あれ?あっ…あぇ?な、なにこれ!?」


 指先が白く柔で綺麗な肌に触れる。

 すると指先に集まった魔力は、滲み溢れて溶け込むように肌に浸透していく…。

 真っ白なキャンバスに…真っ黒な染みが広がる様に魔力はシエルを蝕み…犯す。


 聞いたこともないシエルの喘ぎ声が私の耳を貫いて、それでもと私は魔力を止めない。

 爪先を立たせて、ペンでなぞるように…つーーっと線を描くと、シエルに似合いそうなエッチで可愛い淫紋を思い描く。


 ハート型がいいかな?それともカッコよく魔法陣みたいにしてあげようか?ああ、どれも似合うけど…やっぱり自分の物だと証明したいから……。


「ハート型が一番に限るよね♡」


 ニヤリと口角を上げて、自分に似つかわしくない悪魔の微笑みを浮かべる。

 そして、指を走らせながら…空いた左手でそっとシエルの頭を撫でた。


 びくびくと小刻みに震えて、淫らな声を必死に抑える私の友達。

 荒い息が手の隙間から溢れていて、その必死さが余計に可愛さを引き立てていて、思わず背筋が震える。


「かわいい…」


 こしょりと真っ赤に染まった小さなお耳に口を近付けて囁く。


「…〜〜〜ッ!!」

「必死に堪えててかわいい♡」

「エロい…♡」

「襲いたい♡」

「や、やめっ…ゆ、ユゥ!」

 

 やめない。

 やめたくない。

 やめてやらない。


 悶えて、喘いで、堪えて、溢れて、グチャグチャにトロトロになるまで…。


「イけ…♡」


 力強く、けれど優しく小さな声で、シエルの耳を舐めながら囁いた。


「ん、んぅぅッ〜〜〜!!!」


 水音に耳を傾けて。

 淫らに悶える天使の姿を眺め、嗤う。


「あはは!イッちゃったね?シエル」


 クスクスと悪戯っぽく笑みを浮かべて、汗でぐっしょりと濡れた髪を撫でる。

 強くて、聡明で、カッコいいシエルの姿はそこにはない。

 瞳はとろんと溶けていて、全身は汗でぐっしょりと濡れて…息を荒げる、はしたなく快楽に達した私の友達。


 いや、もう友達じゃなかった。


「…もう、私の眷属だね?シエル♡」


 さすりと、右手で描き終えた淫紋を撫でる。

 うっすらと妖しく光る…ピンク色の証。

 ハート型でいやらしく、まるで所有物のように存在するそれは私のモノという確かな証明。


「ねぇ?返事は?」

「は、はぃ…」


 あは、かわい。

 クスクスと微笑んで…チュッとぷくりと膨れた唇にキスを交わす。

 音が弾け、反響して…そして、私はすくりと立ち上がると暗闇の向こうを睨んだ。


「…驚いたな」

「はぁ?何に?」

「いや、小娘如きにあんな一撃を喰らった事に最初は驚いていたが…いざ、戻ってみれば盛り合っていて流石の俺も困惑を隠せない」


 まぁ、確かにそう。


「だがまぁ、生物というのは死の間際に立つと生殖本能が刺激されて行為に走ると聞いた事がある…つまりはそういうモノなのだろう」


 まぁ、全然ちがいますけどね?


「…しかし、先の一撃に乗っていた魔力、何処かで感じた事があったが……あの時の女から感じたモノだな」

「あの時の女?」


 首を傾げながらも、どの事を指しているのかすぐに理解する。

 吸血鬼は少しの間だけ悩むと、思い出したように「あっ」と声を上げた。


「薄黒色の肌の女だ、あの時は空腹だったが故に品もなく襲い掛かったが……あれは酷く不味かった、まさか眷属だったとはな…とても酷い味だったが故によく覚えているよ」

「…………」

「それで?お前は眷属を襲われて、怒りに任せてノコノコと此処まで来たのか?悪いが…俺は謝罪する気も殺される気も……」


 ペラペラとよく喋る蝙蝠だ。

 その回る舌を引っこ抜いて、醜悪なその口を引き裂いて……。


「後悔させてやる…!」

「…淫魔如きが、調子に乗るなよ」

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