23話 ぶっとばす


 チカを襲った吸血鬼に一発ぶん殴ってやると決意を決めて、少しだけ動けるようになった私はシエルとお姉さんの元へと入り込む。


「私を無視しないでよ…」

「随分と顔色悪いですけど、大丈夫なんですか?ユウ」

「まぁ、歩けるくらいには…」


 あはは…と苦笑混じりに答えると、がくりと身体が傾いた。

 シエルは、それ見たことかと言わんばかりにジト目で私を睨んだあと、溜息を吐いて私の肩を持つ。


「危なっかしいですから、座っててください」

「ありがと…シエル」


 クスッと微笑むシエルに私も微笑みで返す、そんな光景を見ていたお姉さんは目を点にした状態で私達をじーっと見た後、お姉さんは言った。


「え、付き合ってるの?二人とも」


 ガッタン!!

 同じく椅子に座ろうとしてたシエルが椅子ごと揺れた。


「な、なにを訳の分からないことを…」


 カタカタと小刻みに震えて、否定を繰り返すシエルの姿。はっきり言って認めてるようなもんだよシエル!!

 そんなシエルの姿に私はいてもたってもいられず、震えるシエルの間に入って大雑把に「友達だよ!」と否定気味に言ってみせる。


「友達にしては距離近くない?」

「?…そういうものじゃない?」


 キスはしたけど、友達同士でやるものだし…あの時はどうしても精気が必要だったから仕方なかったし…。


「お姉さん…ホントに私達は友達同士だよ?確かにキスはしたけど、友達同士でする時もあるし普通だよふつー」


 あはは〜と軽やかに否定する私。

 だけど、お姉さんは「何言ってんだ」と言わんばかりの目で見てくるけど気にしなーい。


「ま、まぁ二人が友達というなら…友達?なんでしょう…それより」


 納得いってないけど納得したフリをして、お姉さんはうしろを向いて言った。


「あの子、どうするの?」


 お姉さんの背後には眠るチカの姿が。

 起きてると何をするか分からないからと、シエルの手で眠らされていた。

 病院から連れ出した時もそうだったけど、チカは苦しそうにもがいていた…。

 吸血衝動…私が精気を求めるようにチカも身体を維持しようと血を求める。


 長い時間血を吸わないと、昨日の怪物のようになってしまうとシエルは言っていた。

 それだけは、なんとしても避けたい…絶対にそんなことにはさせない。


「ねぇ、元の人間には戻れないの?」


 私も呪いでサキュバスになってるんだし、チカも元に戻るみたいなそんなこと…。


「無理ですよ」

「無理だねぇ…」


 速攻で否定された…。

 

「一度転化してしまえば、二度と戻ることは無いんですよユウ。前に言いましたが人間は無垢なんです」

「むく?」

「例えるなら何も描かれてないキャンバスなんです、だからキャンバスに色を与えてしまえば…人はサキュバスにも吸血鬼にもなれてしまうんです」

「な、なるほど…」


 じゃあつまり。


「チカはずっとあのままなんだよね?」

「残念ですが、そうですね」


 無慈悲にシエルはそう告げる。

 心の内ではなんとなくだけど理解してた。けど、こうも真っ直ぐ言われると…ある筈だと思っていた希望がフッと消えて目の前が真っ暗になる感覚に陥る。


 人間には戻れない。

 チカは吸血鬼のまま、一生を過ごす。

 そして、血を飲まないと生きてけない。


 まるで今の私みたいだ、いや私よりもっと酷いよ…。

 それに、チカがこうなってしまったのも私に責任がある…だから。


 拳をきゅっと握って、私は二人を真っ直ぐ見た。


「私の血を吸わせようと思う」



 吸血鬼の唾液は細胞や遺伝子を変化させ、怪物へと変える。

 例えそれを分かっていても、私はチカの苦しむ姿を見たくなかった。だから、私は血を吸わせることに決めた。  


「ダメですよ」


 しかし、すぐにシエルの止める声が雷のように飛んできた。


「そんな事したらあなたも吸血鬼になりますよ」


 冷たい視線が私に刺さる。

 なんとしても止めるという雰囲気がシエルにはあって、動くにも動けなかった。

 けど、そんな空気におちゃらけた声が割って入ってきた。


「いいんじゃない?」

「え?」

「は?」


 お姉さんだった。

 思わず二人してお姉さんを見ると、相変わらずのケラケラ笑いを浮かべながらくる〜りと指で輪を描く。


「だってチカちゃんってユウちゃんの眷属なんでしょぉ?眷属が親であるユウちゃんを殺すことなんて出来ないし〜」


 言ってることがよくわかんないけど、シエルは「なるほど」と呟いて深く頷いた。


「眷属は親を攻撃することは出来ない、それが間接的なものでも絶対に不可能…つまり唾液による効果を無効化出来る?」

「さぁ〜?まぁやってみないと分かんないしね?ユウちゃん?」


 ちらりと舐めるように私を見る。

 まるで、本当に覚悟はあるのか?と問われてるような目だった…。

 思わず固唾を飲み込んで、ぶるりと身体が震えた。けど。


「やるよ、もうサキュバスになってるんだし、吸血鬼になったって文句言わないよ」


 目を背けずに、真っ直ぐな瞳でお姉さんを見つめる。

 すると、諦めたように「プッ」と小さく吹き出して…クスクスと微笑んだ。


「ユウちゃんってバカだけどイケメンだよねぇ…そりゃモテるわけだ」

「んなっ!?私女なんですけど!?ていうかバカってなに!!」

「まぁ確かにバカですね」

「シエルまで!?」


 多方面からバカのレッテルが貼られてく!

 私は決してバカじゃないのに!!バカじゃないのに!!!


「まぁ、今は眠ってるのでそれは後にしましょう…それよりも」


 話題を切り替えるシエル、椅子から立ち上がるとチカの方へと移動する。


「元々、ここまで彼女を移動させたのは吸血鬼を探すためなんです」

「吸血の際に少しでも魔力は使うので…彼女から微弱ではありますが魔力を感知すれば」


 元凶の吸血鬼の居場所を特定できる。

 そう言って、チカの首筋に触れて…つーーっと指でなぞると吸血鬼に噛まれた痕にピタリと止める。

 そして、指先が淡く光ると…。


「よし、これで吸血鬼の魔力が解りました、あとはこれを元に探すだけですね」

 

 そう言って、立ち上がるシエル。


「ユウ、吸血鬼をぶっとばすんですよね?行きますか?」

「………うんっ!!」

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