18話 トモダチ

 あれから、三日が経った。

 吸血鬼探しは一向に進展はなく、ルシエルが用意していた地図も段々と埋まってきていた。

 もしかしたら、この街にはいないんじゃ?

 探索の果てにそんな結論が私の中に出てきたけど、それは有り得ないと言わんばかりにとあるニュースが世間を騒がせていた。


 怪死体の発見。

 人気の少ない場所、心霊スポット、治安の悪い場所…その至る所で全身の血が抜き取られた死体が幾つも発見された。

 犬、猫、鳥…そして人間まで。

 それはまるで干からびたミイラのようで、枯れた草花のように萎れていて見た者をゾッと恐怖させる。


 現代のチュパカブラ、吸血鬼騒動なんて呼ばれて今じゃその事件の話題で持ちきり。

 そしてなにより、謎の大量の灰が投棄されてる事件…。調べた所、人のものだとかで事件の怪奇性はどんどん増していった。

 

 そんなニュースがこの街の至る所で出てきている。

 それもこれも全て吸血鬼の仕業。

 灰に至っては転化してしまった人間が陽の光によって殺されてしまった証拠…。

 もしチカの発見が遅れていたらああなっていたと思うと怒りで全身が震えた。


 チカは…というと未だ眠っているらしい。

 昏睡状態のようで、いつ目が覚めるのか分からない状態だ。

 ただ、あれだけ酷く爛れていた火傷痕は綺麗さっぱり消え失せたのだそう…。

 これには病院も騒然、自然回復なんて済まされない奇跡に今では話題になっているとか…。

 でも、これは吸血鬼に転化してしまった事により得た再生能力のおかげらしい。

 吸血鬼の再生能力はどんな傷も瞬時に治してしまうのだとか。

 皮肉な事に吸血鬼のおかげでチカは助かった…。その事に私はどう反応していいのか分からない…。


 これが今の現状。

 吸血鬼探しは今もなお続けている、あれだけあった怪しい場所リストも残る一桁辺りまで来た頃だ。

 そして今日も、ルシエルと共に廃墟探索へとやって来た。


「うわ、なにこの落書き…上手いと思ってるのかなぁ?」

「そうですね、芸術性に欠ける絵ですね」


 不良が描いたらしい、壁一面に描かれたアート?を見て二人して貶す。

 実際あんまり上手とは言える出来ではなく、思わずポロリと言葉が漏れたけどルシエルも同じ感想を持っていて、二人してくしゃりと笑みを溢した。


「気が合いますねユウ」

「えへへ」


 私達の距離はかなり縮んだと思う。

 ルシエルは冷静、堅物、機械的という印象が強かったけど、二人一緒に行動しているうちに彼女の良さが分かってきた。

 実はゲームとか甘いものが大好き、漫画とかで見る委員長タイプかと思ったら結構世俗に染まってる女の子で思わず笑ってしまう。


 私達とあまり変わりない女の子で、真面目だけど優しい…そんな感じだ。

 だから、もう少し…もう少しだけ距離を詰めてもいいかな?


 ごくりと生唾を呑んで、先頭を進むルシエルの背後に言葉を投げた。


「シエル」

「シエルって…呼んでもいい?」

「は?」


 ぴたりとルシエルの動きが止まって、素っ頓狂な声が静かな廃墟に木霊した。

 

「きゅ、急になんですか?」


 くるりと私の方へと向いて、いつもの様子で問いかける…けれど、彼女の渦巻き状の目がぐるぐると目まぐるしく回ってる。


「その、もう少し仲良くなりたいな…って」


 えへへと笑みをこぼしながら、恥ずかしさを紛らわすように両指を絡め合わせながら彼女の目を見つめる…。けど。


「……私達は悪魔と天使、それ以上の関係の発展はあり得ません」

「だ、だよね…」


 淡々と告げて、強張ってた肩がすとんと落ちた…。

 分かっていたけど、ショックが大きい。


「で、ですが…他の者に言わないのであれば……友達になっても、いいですよ」

「…へ?」

「だから友達になってもいいって言ってるんです!」


 もじもじと、ルシエルらしくないくらい身体を揺らして声が張る。

 まさかの反応で思わず固まるけど、理解した途端に喜びが全身に湧いた。


「ほんと!?」

「え、ええ…本当です」

「じゃあシエルって呼んでいい?」

「他の人の前で言わなければ…いいですよ」


 やったね!!

 素直じゃないシエルに私は心の内でガッツポーズを決める。

 まさか天使の友達が出来るなんて昔の私は思わないだろう…。


「ねぇシエル!」

「なんです?」

「この事件を解決したら一緒に甘いものでも食べに行こ!」

「いいですね、行きましょう」


 友達みたいな会話をしあって、お互いに笑い合う…。

 そして、距離を縮めた私達だったが肝心な事は忘れていない…廃墟探索は順調、というより何事もなく進み、残るは最上階のみになった時に異変は起きた。


「待ってください…」


 先頭を歩いていたシエルの足が止まる。


「どうしたのシエル?」

「何かいます…多分この気配は眷属のものです」


 緊張のこもった声から吸血鬼の手掛かり、眷属がいる事を知らされる…。

 やっと、やっと吸血鬼に繋がる眷属に当たった!

 喜びが一瞬支配したが、すぐに冷静になる。それはつまり。


「戦闘になります…私一人でもなんとかなりますが、ユウ今回はあなた一人で戦えるという証拠を見せてほしい」


 そう、これは元々シエルからの依頼。

 私が倒さなきゃ意味がない…だから私はこれから。

 怪物と戦わなければならない。

 

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