14話 吸血鬼
話が、進む。
勝手に…進んでる。
あわあわと行き場のない両手が大慌て、結局どう拒否していいのか分からないまま、ルシエルと名乗った天使は去っていった。
その後の事はあまり覚えていない、爆笑するお姉さんを横に放心する私。
地獄から元の世界へと帰ると、さほど時間は進んでなくて夜の静けさだけが世界を覆っていた。
そんな静けさの中で、私の心臓は爆音を鳴らす。
うるさい、やかましい、けたたましい。
吸血鬼だとか仕事だとか意味が分かんない。けど私は仕事を押し付けられた、それだけが私が理解している事だった。
「お姉さん…私、嫌なんですけどぉ!?」
「あっはっはっ!来る時間間違えちゃった!見事に仕事押し付けられたねぇ!」
笑い事じゃないですよ!?
怒るにも怒れない、今は傷が染みるので放っておいてほしい。
そんな、困惑中の私だったけれど逃すまいと声が響いた。
『逃げたらダメですからね』
先程聞いた、凛とした声。
思わず周囲を見渡すけれど、姿はない。
声は脳内に直接響いていて、お姉さんは私を見て首を傾げる。
「ん?なにかあったの?」
私にしか聞こえてない…。
ていうか、なんでルシエルの声が。
『今は互いに契約の状態にあるからです、貴女が逃げる場合を考えて、こうして念話をしてみました』
そ、そんな…。
逃場はないんだと実感して、強張っていた肩がストーンっと抜けた。
脱力というか諦め。思わず、あはは…と気の抜けた笑みがこぼれ出る。
それで一体なんの用なんでしょう?
『内容は後で説明します、先程いいましたよね?なので今から説明をと思いまして』
「あ、ハイ…」
「ねぇさっきからどうしたの?なんかいる?」
お姉さんちょっと黙ってください。
あと指先で私のほっぺつつかないで!!
『地獄から吸血鬼が逃げ出しました、吸血鬼は人間に大きな危害を加えると同時に眷属を増やします。なのでなるべく被害を出さずに吸血鬼を捕まえてほしいのです』
吸血鬼、最近だと漫画やゲームに登場する架空の怪物。
青白い肌とコウモリみたいな羽、そして尖った歯は人の首元から血液を啜る。
そして血を吸われた者は同じく吸血鬼…もしくはゾンビになるとかで有名だ。
というか。
「いたんだ…吸血鬼って」
いや、まぁサキュバスもいるんだからいそうではあるけど、吸血鬼って悪魔にカテゴリされてるんだと不思議に思う。
『人間ではない異形=悪魔と考えてください、彼等は生物学的におかしな存在なので秘匿するために地獄があるんですよ』
へぇ、じゃあつまり…。
『地獄とは要するに悪魔を収監する監獄…もしくは動物園みたいなものです』
扱いひどいっ!?
「んん…じゃあなんで私達は地獄と元の世界を行き来出来るんですか?」
素朴な疑問。
地獄は監獄だとしたらなんでサキュバスは行き来出来るんだろう?
『まぁ、人間と対して変わらないですから。それに放っていても死にますし』
「ひどくないですか!?」
『ひどくないです、大罪を犯したのですから呪われても当然。しかし、人間を同族に変えて生き永らえているのは驚きですけどね』
しぶとい、と吐き捨てるルシエル。
相当悪魔が嫌いなようで、トゲトゲとした悪意を感じる…。少し、苦手かもしれない。
『話が逸れましたが、吸血鬼を見つけたら倒してください』
「た、倒すって言われても!」
『あなたの魔力量なら簡単ですよ、あと吸血鬼の特徴を教えときます…性別は男、青白い肌にやせ細った身体、毛髪は白で野犬のように血走った目が特徴です』
が、ガチの不審者じゃないですかやだぁー!
『私もなるべく協力するので、依頼中は…嫌ですけどよろしくお願いします』
「あ、はい…よろしくお願いします。えと、私笹木ユウって言います」
『じゃあユウ、私の事はなんと呼んでもいいので、何か進展があれば呼んでください。では…』
そう言って、声と気配がプツリと途絶えた。
なんか真面目な人だったなぁ。
「…ねぇユウちゃん、さっきから誰と話してたの?イマジナリーフレンドってやつ?」
「え、うわっ…お姉さん」
横には心配そうに震えるお姉さんの姿。
あれ、これもしかして勘違いしてるやつなのでは?
嫌な予感が私を襲う、そして同時にお姉さんが私に抱きついてきた。
「まさかそこまで精神が壊れてるなんて思いもしなかったよ!ごめんねぇユウちゃん?お姉さんもう少し真面目になるからね?」
「いえ、精神壊れてないっ…ていうかもう少しどころかもっと真面目になってくださいよ!!?」
結局、誤解を解くのに何十回も説明をし終えて「まぁ、うん。信じるよ」と信じてなさそうな感じで信じてもらいました。
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