12話 地獄
もう何が何だか分からない。
二日酔いってこんな気分なんだろうなという感想を覚えながら、ガンガンと響く頭を抑えながら私は目覚めた。
「あ、ユウちゃんおはよー!」
「お姉さん…」
時刻は…深夜。
時計の針は1時を指していて、いつもならまだ眠っている時間。けど、こんな遅くに目が覚めたって事は私は早く寝過ぎたってこと。
まぁ、それもこれも全部お姉さんのせい。
あれだけの事をしたのにも関わらず、呑気に笑うお姉さんを見て私はキッと殺すような強い眼差しでお姉さんを睨んだ。
「ユウちゃんこわーい!そんなに怒んないでよー!」
「お、怒るに決まってるじゃないですか!あんな事されたら誰だって…!」
昨晩の光景がフラッシュバックする。
今まで味わったことのない交わり、なんて言葉に表していいものか分からない一夜に私は思わず心臓が跳ねて息が荒くなる。
「そんなに良かった?」
「べ、別に良くなんか…!」
図星を突かれて頬が熱い。
恥ずかしさともう一度味わいたいという欲求がこれでもかと溢れてくる。そんな私をお姉さんは見破っているのか、相変わらず意地の悪い笑みを浮かべて私を見ていた。
「み、みないでっ!」
「んふふふっ…あれだけ言っておいてこういうのは大好きなんだから面白いよねぇ〜」
「べ、別に好きなわけ!!」
「でも、そのおかげでお腹の調子は良いでしょ?」
ん…まぁ確かに、お姉さんの言われた通りだ。
今までは満たしてもコップの底に穴が空いてたみたいに、時間が経つごとにみるみると減っていくのを感じたけれど、今はなんていうか…ゆるやかに減っていってるのを感じる。
「ま、まぁ…お腹が溜まってるのは確かですけど…?」
でもそれは結果であって、私は過程が許せないのであって…!!
と、とはいえ?すごく気持ちよかったのは認めますが!!
「そんなに楽しかったなら何よりだねぇ」
「もうお姉さん!!」
なんでこの人は反省の色もないんだろう!この鬼!悪魔!!
「そんな怒らないでよぉ〜!というか淫紋刻んで効率良く精気を食べないと今頃餓死してたよユウちゃん」
「え、餓死!?」
驚く私にお姉さんはうんうんと頷く。
「いい?悪魔の身体は魔力で出来るてるの」
「え?」
「大型の動物がその身体を維持する為に大量の餌を食べるように、ユウちゃんも魔力量とおんなじくらいの量の精気を得なきゃいけないの」
だから淫紋を刻んで精気をより効率的に、多く得る必要がある。お姉さんはそう言うと困ったような表情で私を見ていた。
「まさかここまで魔力量が多いなんて、それだけ欲に塗れてるってことかぁ…」
「ちょっ、教えてくれてありがたいですけど変態みたいに言わないでくださいよ!!」
とはいえ…私ってそんなに魔力量が多いんだ。なんか大型動物とおんなじレベル帯に数えられてるのはなんか癪だけど、こういうの私すげーって感じでなんか嬉しい!とはいえ…。
「その、魔力量が多いとどんな事が起きるんですか?」
正直、お腹の減るスピードとめちゃくちゃな量が必須になるというデメリットを開示されて少し不安がある、これでデメリットを上回るメリットがあれば…!
「うーーん、まぁめちゃくちゃ強い…かな?」
「めっちゃアバウト!!」
「だって私はユウちゃんに比べて多い訳じゃないしなぁ…まぁ、ユウちゃんレベルに多い人なんて私の中では数人しか居ないよ」
「へぇ…私以外にもいるんですね」
「いるよ〜……ていうか会いに行ってみる?」
へ?
「会いに行く?」
「うん」
それはこの辺にいたりするのかな?というより今深夜だし会いに行ったらそれは迷惑になるんじゃ……。
「それに時間もちょうどいいし、ユウちゃんを会わせてみたかったし丁度いいかなぁ」
「え、今から行くんですか?ど、どこに?」
困惑する私を他所に、お姉さんは勝手に話を進めていく。
私は嫌な予感を感じ取ってお姉さんに問う。そして次の瞬間、お姉さんの口からするっと…。
「え?地獄だけど」
まさかの地球のどこかですらなかった。
◆
地獄。
私の想像するものは『赤い』というイメージが強くて、とにかく痛そうっていうのが私の感想だ。
まぁ、地獄なんてそれは空想のお話でたまに頭の中でどんな感じなのかな〜なんて呑気に考えていたけど。まさか今日この日、地獄に行くなんて誰も想像してなかっただろう。
「え、うわ…えぇ〜〜?」
そして、お姉さんに連れられて地獄にやって来た私は…その光景を目を焼き付けていた。
そこは夜の世界、私の想像する『赤』と『痛み』はそこにはなかった。
地獄とは悪行を重ねた死者が堕ちる場所…と聞いていたけど、お姉さん曰く「死者は悪行善行関係なく天国に行く」って言ってた。
じゃあ地獄ってどんな所?ってなるけれどお姉さんはこう言った。
『異形と悪魔が集う欲望にまみれた世界』
確かにその通りだと思った。
イメージとしては歓楽街に近くて、地獄というよりはクラブにやって来たみたいな感じだ。
「なんか想像してた地獄じゃないですね…」
「あんなのはファンタジーよ、ここはね私達人外が住まう地なの…とは言ってもユウちゃんは今のところ関係ないけどね」
「…はぁ」
上の空、お姉さんの会話が耳からすり抜ける。
今は大通りを通っていて、離れないようにお姉さんの手を繋いで歩いている。
目移るのはいろんな悪魔達、肌が緑とか青とか黒とか…鱗が生えてたり顔が犬だったり猫だったり……もう何が何だか訳がわからない…。
「気になるのは分かるけど、今は会わせたい人に会わせてからね」
「あ、はい」
なんていうか、数日前の自分からしたら信じられない光景だ。
悪魔が現れたり、悪魔にされたり、地獄に来たり…。
私の人生濃すぎでしょ…なんて放心しながら連れられるがままに光り輝くお店へとやって来た。
「着いた、ここここ」
「へ?」
そこは、ピンクのネオンライトに照らされて輝く大きなお店…。
入口にはスーツを着込んだ大柄な悪魔が二人、その横には看板が立ててあって…そこには。
「こ、これってぇ…!!?」
えっちな服を着たサキュバスの写真の下に値段表……。
「え、えっちなお店じゃないですかぁ!?」
「だってサキュバスだし、ねぇ?」
「さも当然みたいに言わないでくださいよ!まさか私を売り飛ばすために…!?」
「違うって、同じサキュバスに同族の紹介をと思って来たの」
ケラケラと笑うお姉さん。魔法の件もあるので信じられないけれど、ここで逃げ出したら大変な事になるのは間違いないだろうし…ここは。
「わ、わかりました…変なことしたらすぐ逃げますからね!」
「しないよ〜」
本当かな…とても信じられないお姉さんに不審を感じながら、私達はその店へと足を踏み入れた。
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