11話 囁き


 むせ返るほどの甘い匂いが鼻孔を突いた。

 びちゃびちゃと愛液がとめどなく溢れて。

 心が求めるようにキューって切なくなる。

 それはまるで理性を無くした獣のように、私達は身体を溶かすように混ぜ合わせていく。

 そんな、胸焼けするほどの甘味の世界でお姉さんは楽しげに、愉快にわらってる。


 クスクスクスと悪魔のように。

 いやまぁ、お姉さんは悪魔だからその通りなんだけどさ…。

 でも、一人だけ楽しげな姿を見て私は朧げながらに思う。


(本当に悪魔だな…お姉さんは)


 混じり合う中、私はお姉さんを恨んだ。



 時間は少しばかり遡る。

 魔力の練習台として選ばれた黒瀬とハナ、驚く二人を他所にお姉さんは笑顔のまま説明を続けていた。


「いい?まずはね手から何かを出すイメージが大事なの!というより魔法なんてイメージさえしっかりしてれば出るから!」

「な、なるほど……ていうか二人を練習台ってふざけてるんですか!?」

「別に危険なことするわけじゃないし…よくない?」


 いいのかなぁ…?

 多少の不安があるけれど、魔法を使ってみたいという気持ちが勝りつつある中、二人に了承を求めるように視線を合わせる。


「ま、まぁ…危なくないなら」

「いいよ」


 どうやらオッケーのよう。

 本当に大丈夫かなぁ…。


「ほら、二人が良いって言ってるんだし…ね?」

「ま、まぁ…そうですね、うん。よしっ!」


 何やら嫌な予感があるけれど、とはいえだ!

 気合を入れ直して、お姉さんに言われた通りイメージをしてみる。

 出してみる…出してみる?バトル漫画みたいな感じでエネルギーをばんばん出すみたいな感じなのかな…うーーん。


 とりゃりゃりゃりゃりゃ!!

 某ナントカボールみたいに両手を何度も動かすけど何も起こらない…むぅ、ちょっと憧れてたんだけど。


 悩みに悩む。

 こういうのって漫画とかなら一瞬で出来るものなんだけど…なかなかに難しい。

 こんな感じかな?あんな感じかな?と工夫をしたり考えを変えたり…そんなこんなで悩みながら、手から透明な何かが出てくるのを肌で感じた。


「わ、なんだろ…これ」


 水のように溢れて、けど火のように勢いがあって…。

 何が何だか分からない不思議な感覚がとめどなく溢れてくる!


「おっ魔力溢れて来てるね〜」

「あ、お姉さん!こ、これ!なんか出てませんか!?」

「うんうん、どぴゅどぴゅ出てるねぇ」

「その言い方やめませんかね!?」

「まぁまぁ…けど、ユウちゃんってば魔力量多くない?出過ぎじゃない?」


 魔力量多すぎ?

 これはもしかして漫画とかでよくある私に隠された力がある的なやつですか!?

 

 期待に胸を膨らませて、輝く眼差しで魔力量を褒めちぎるお姉さんを想像する。

 のだけれど、少しバツが悪そうな顔つきでお姉さんは言った。


「んー…これ、多すぎて大変なことになるかも」

「へぇっ!?」


 大変な事?それってつまり死ぬとかそういう系のやつだったりするのかな?いや、流石にそれは嫌なんですが!!


「え、これ止めた方がいい?」

「んーー…まぁ今はいいかな、どっちかというと消費した方が早いしね!」

「な、なるほど!」


 ならさっさと消費しようすぐしよう!

 お姉さんに言われるがままに魔力の扱いを覚えていく私。

 そして、次第に溢れる魔力をコントロールして…それを指先に溜める事を可能にしてみせた私に、お姉さんは覚えが早いと褒めてくれた。何気に嬉しかったりする…。


「えと、これどうしたらいいんです?」


 指先に集まった魔力がやけに熱い、このまま火傷してしまうんじゃないかと思えるくらいの熱さで、一刻も早く捨て去ってしまいたかった…。


「じゃあ、その魔力を二人に付与しよっか!」

「え…?」


 そんな矢先、お姉さんは魔力に熱心になってた私達を他所に眠っていた二人を指してそう言った。


「いや、二人とも寝てるし…そういうのって」

「いーのいーの!どうせ二人とも許してくれるからさぁ?ね?魔法…試してみたくない?」


 ごくり…。

 生唾を飲み込む音が部屋に響く。

 確かに、試してみたい…魔法を使ってみたい……のだけど。


「なんの魔法使うんですか?」


 ニコニコと笑うお姉さんに私の第六感は警鐘を鳴り響かせていた…。


「淫紋…刻んでみよっか!」


 そして次の瞬間、正体を現したみたいに不敵な笑みを浮かべてお姉さんは私の手首をおもいっきり掴んだ。


「ちょっ、なにして!」

「だってユウちゃん嫌がるでしょ?だったら無理矢理にでも刻んでその楽しさを実感してもらえたらなぁ〜って!」

「だ、だからって二人に無理矢理!ていうか力強すぎでしょ!?は、離れない!!」


 掴まれた手首を離そうともがく、けれど到底女性の握力とは思えない力で私は二人の元へと強引に連れてかれる。


 まずいまずいまずいまずい!!

 嫌な予感がする!とんでもない事になる!

 危機感がやめろと言わんばかりに警鐘を鳴らす、理性のままにお姉さんを止めようとするけれど…。


「ふーん…じゃあいいの?」

「へっ…?」

「いつものより濃いの食べたくない?二人を独り占めにしたくない?深海の如く深い愛に溺れたくない?」

「へっ…はっ?へぇっ…!?」


 囁くように、誘うように。

 お姉さんの手がなめらかに私の下腹部へと滑り込むと、すりすりと優しく撫でた。


 微弱な快楽の波が私を襲う。


「んっ…!」

「いいのかな?私が教えないともうチャンスはないよ?」

「わ、私はそれでも二人にそんなことなんて…!」


 そんなことなんて…。


「沢山してるのに良くそんな事言えるね?」

「〜〜〜〜〜ッ!」

「わ、顔真っ赤…図星突かれて恥ずかしくなってる。じゃあ素直になろうよ…ね?」


 いや、でも。でもでもでも!

 ああでも、少しくらいなら…。


「わ、わかった…す、少しだけ!少しだけ…だから」


 そうこれは魔法の練習で、決してそういうのをしたいわけではなくて!それにお姉さんに無理矢理やらされてるわけだから私の意志とは無関係で私とは関係なくて!!

 決してエッチしたい訳じゃないし、私はサキュバスだけど人間に戻るために頑張ってるわけで本当はエッチなんて好きじゃ…好き好き好き好きなわけ…。


「ないってぇ…!」

「あはは、すごい顔」


 けらけらと私を笑うお姉さん。

 今、どんな顔をしてるのだろう?

 耐えるあまりに下唇を噛んで、そこから血が出ているから…きっと血だらけなのかもしれない。

 でも、さっきから涎が垂れているから大変なことになってるかもしれない。


 早く拭かなきゃ…なんて思考はとうに捨て。

 私はお姉さんに言われるがまま、すやすやと眠る二人に淫紋を刻んだ。


「は、はっはっ…!」

「あーあ、やっちゃったね?ユウちゃん?」


 隣でクスクスと笑う悪魔が一人。

 私はそんな悪魔を責め立てようとしたけれど、覚束ない意識の中で責めるよりも先に二人の身体を優先した…。


 そして、冒頭に戻る。

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