10話 まほー


 くるくるくーる。

 生えた尻尾が私の意志とは無関係にあっちへ行ったりこっちへ行ったり、回ったりと忙しない。

 さっきまで隠していたから、それで活発なのかもしれないが、まぁすごくうざい。

 そんな私の心境とは違って、お姉さん達がやけに楽しげなのが更にうざさを増幅させる。


「あのさ、その…尻尾見ないでくれる?」

「えーだって可愛いじゃん!」


 パシャリとシャッター音が鳴り響く。

 黒瀬の手にはスマホがあって、やけに満足げな表情で写真を見ている。


「…………」


 それを怒るに怒れなくて黙る私だったけれど、ハナはハナでさっきから私の身体をぺたぺたと触っていた。


「…へぇ」

「ど、どうしたのハナ」

「背中と頭にもちっちゃいけど何か付いてる」

「えっ…まじ」

「うん、まじ」


 急いで確認、確かにハナの言った通り何かある。

 頭には二つの突起物と背中には小さな羽のようなものが……。

 

「確実にサキュバスに近付いてるねぇ〜」

「ぐぅ、で…でも呪いの期限さえ過ぎれば元に戻るんですよね?それまでの辛抱ですよ」


 そう、それまでの辛抱だ。

 どれだけお姉さんが勝ち誇っていても、最後に目標を達成してしまえば私の勝ち。

 だからまだ負けてないと心の中で思うのだけれど…。


「まさか二人もお姉さん側なんて…」


 そう、二人も私をサキュバスにするためにお姉さんと結託してる…つまりは敵!


「二人は味方だと思ってたのに!!」


 裏切られたショックで二人を非難するけど、別になんともといった感じで二人にダメージはなく、それどころか反論してきた。


「そもそも、ユウがサキュバスじゃなかったら私いなかったし…それに、もっとそういう事したいし?」

「だってユウちゃんって高校生になったらエッチなことやめるって言ってたから…」

「いや、でも…だって二人とも嫌じゃないの?」


 気持ち悪いとか、怖いとか…そういうの思わないの?


「別に?ていうか、今のユウは結構可愛いよ!小悪魔みたいで!!」

「そうそう!まぁユウちゃんがどれだけ怖くなっても、私は嫌いになんてならないから!」

「あ、言っておくけど私もだからなぁ!」


 そう言われて、少しだけ目が潤んだ。

 ああ、やばい泣きそうだよ…って思うけれどそれは結局。


「私とエッチしたいってことぉ!?」

「そゆこと」

「まぁ、隣の人がいなければもっといいのだけれど…」

「なんだと!?」


 せ、性欲の権化だ…と戦慄しながら二人のいざこざを見て見ぬふりをする私。いや、私も人の事は言えないのだけれどさ…。

 しかし…うん。


「これ、どうしたらいいんだろ?」


 未だにくるくると回る尻尾を見て思う。

 流石にこんなのが生えていたら大変な事になるのは明確で、それは避けたい所…。


「その、お姉さん…何か案はないの?」


 敵に頼るのはあれだけど…流石に頼るしかない。藁にも縋るように、私はお姉さんに助けを求める。


「ん?尻尾とか羽根とかは魔力で隠すのよ?」

「へ?まりょく?」


 頭に浮かぶクエスチョンマーク。

 これはもしかしてゲームのお話ですか?


「ゲームの話じゃないよ?私がこうして浮かんでるのも魔力を使って浮いてるわけだし…」

「は、はぁ…」

「ユウちゃんは呪われてるけど、身体はサキュバスなんだから魔力の流れを掴む事が出来るはずよ」


 な、なるほど?


「すみません、もう一度教えてください」

「理解できなくなってポンコツAIみたいになっちゃった……まぁ、こういうのは見た方が早いかな?ほらっ!」


 そう言ってお姉さんは右手をひらひらと見せつけると、掌からボッ!と小さな火の玉を出してみせた。


「え、はぁ?手品!?」


 驚きのあまり素っ頓狂な声が溢れる。

 しかし、手品というにはその火の玉から発せられる熱気や音は現実だと納得させるものがある。


「ま、まじですか?」

「ほら、まじだよ〜」


 魔法だ…。

 めちゃめちゃファンタジーだ…!


「す、すすすすごいよお姉さん!!」

「わお、ユウちゃんすごい反応!」

「いやだってそんな反応になるよ!うわぁほんとうだぁ!すごーーっ!!」


 我ながら子供っぽいリアクション。それでも私をこうもさせるくらい、お姉さんの魔法は凄かった。

 これには流石の二人も驚いているようで、感嘆の息を漏らしてる。


「つまり、その…私にも使えたりするの!?」


 どきどきわくわく。

 まさかのファンタジー展開に心躍らせながら、お姉さんに詰め寄る。あまりのテンションの高さにドン引きがちなお姉さんだけど、知った事かと他人事。しかし、お姉さんは苦笑混じりに。


「ま、まぁまぁ…これはあくまでも才能があったらの話だから」


 と、そう言った。



 魔法にも才能があるらしい。

 けど、それは今関係ないことなのでとお姉さんに省かれて、サキュバスのみが使える魔法だけをお姉さんは簡単に説明する。


「まず、遮断の魔法。これはツノとか尻尾を隠す時に使う魔法」


 そう言って目の前でお姉さんのツノが消える。


「でも、あくまで遮断してるだけだから触られるると解けてしまうから注意ね」

「それで次の魔法が…淫紋作成の魔法!!」

「ん?」

「これはね、刻まれた人間の感度を倍にしたり、無理矢理発情させたりする魔法でサキュバスなら簡単に使える魔法なんだけど〜」


 いやいやいやいやいやいや…。


「ちょっと待って」

「ん?なにかな?」

「なにかなじゃないですよ」

「え?」

「え?」


 ……………静寂。


「あの、遮断と温度差違いません?」

「そうかな?」

「ものすごい元気でしたよ、ていうかそんなの教わっても私使いませんからね!?」

「えぇ〜!感度上げるの楽しいのに〜!!」


 嫌な遊びですね!?

 全力でそうツッコむとお姉さんは納得いかずに首を傾げる。まぁ、私には縁のない魔法だろうから…関係ないでしょう。


「とりあえず!お姉さん魔力の出し方教えてください!」

「うん、いいよー!じゃあまずはぁ…」


 薄ら笑いを浮かべながら、お姉さんはハナ達を見つめる。そして。


「二人を使って練習しよっか!」

「は?」

「「へっ!?」」

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