9話 尻尾


 どれだけ食べてもお腹が空く。

 くうくうくう、ぐーぐーぐー、ぎゅるるるるぅ!

 口に甘いの辛いのしょっぱいの、どれだけ運んでも穴は埋まるどころかもっともっとって急かして、より一層開いてく。

 そんな食欲という魔物を飼いながら、私は今日三人でエッチをした。


「…へぇ」


 興味深そうに笑みを浮かべる悪魔。

 昨日と同じ、目を背けたくなるくらいの露出した格好で、隣の家のお姉さんは不敵に笑っていた。


「まさか昨日と今日でそんなにしてるなんてユウちゃんってばへんたーい!」


 クスクスクス。

 嘲笑うようにお姉さんは笑って、ふわふわと宙に浮いては私の周りを飛び交う。

 まるでうざったい蚊みたいだ。そう苛立ちを露わにしながらも私は恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤に染めていた。

 だって昨日あれだけ大言壮語言っておいて…私ってば!!


「3Pしてたもんねぇ〜!」

「ちょっ、ばっ!うるさい!!」


 ケタケタ笑うお姉さんを振り払うものの、サッと躱される。

 こんなにもイジられるなら来るんじゃなかった!そう後悔したのも束の間で、お姉さんは安堵した表情へと変えた。


「でもよかったぁ〜!」

「へ?」

「悪魔だけど心配してたんだよ?ユウちゃんがもし我慢してたらどうしよ〜!って」


 心配…してくれてたんだ。


「あ、ありがとう…ございます」

「だって我慢しちゃうと餓死しちゃうからね。でもユウちゃんがここまで大食いだとは思いもしなかった…」


 ごくりと生唾を飲み込むお姉さん。

 それなりに驚いているのか目は大きく見開いていて、たらりと冷や汗が頬を伝う。


「普通、一回しただけでもそれなりにもつ筈なんだけど…ユウちゃんの消化スピードって、なんかブラックホールみたいで底が見えない…」

「え、はぁっ!?私そんなに大食いじゃないですよ!!」


 元々私は少食だし!!

 いやでも…。


「身に覚えがある…って感じよね?」

「は、はい…」


 昨日ハナとした時も、黒瀬とキスした時も、三人でやった時も…。

 まるで私そのものが変わっていくみたいな、そんな衝動に駆られた事を思い出す。

 それはまるで飢えた獣のように、ひたすらに貪りつくす暴食の権化。

 理性すら無くなりかけた自分が恐ろしくなって嫌な汗が噴き出た。


 けど、そんな私とは違ってお姉さんはすごく嬉しそうに満面の笑みを咲かせていた。

 その笑みは、まるで「自分は間違っていなかった!」と言わんばかりの勝ち誇った笑み。


「ほらね?私の言う通りあなたには素質と才能があるのよ!!」


 どやぁ!

 勝ち誇った顔うざいなぁ…。

 思わず拳を握りそうになるが、あながち間違っていないから怒るに怒れない。だからお手上げ、私は降伏のポーズを取って両手を挙げる。


「確かに、お姉さんの言う通りです。私は才能と素質があると思う」

「じゃあサキュバスに…!」

「でも、なるとは言ってませんから」


 キッパリお断り。

 認めはするものの、私は決してサキュバスになるつもりはない。宣言通り絶対に人間に戻ってやるつもりだ。

 そう言い切って、お姉さんは往生際の悪い私に対して頬を風船のように膨らませる、のだけど。


「言っておくけど、絶対にサキュバスにさせるからね?」


 どこか勝ち誇った笑みが、私を困惑させる。そして。


「さぁ!ユウちゃんを堕としてやりなさい!!」


 声を高らかに上げて、お姉さんの背後から二つの影が現れた。

 そして、その影の正体は……。


「く、黒瀬!?ハナ!?」


 学校で別れたはずの、二人の姿だった。



 学校で3Pをしてしまった後…。

 私達は授業をサボった事で先生に怒られたものの、特にお咎め無しという事で放課後へと時間は進んでく。

 どうやらあんな事したのにバレてはいないらしい、その事にホッと安堵するが私は一つの違和感を感じた。


 何かが生えたような、そんな感覚。


 嫌な予感がする、そう第六感が告げていて私はトイレに篭る。すると、とんでもないものが生えていたから、こうしてお姉さんの家にやってきて相談をしに来たわけなんだけど……。


「まさか二人が来てたなんて!!」


 くっ!と睨むように二人を見る。

 けれど、どれだけ怖い顔をしたって無駄だった、必死の抵抗も虚しく私はお姉さんの手によって両手両足を封じられていて、身動きの取れない状況に置かれていた。


「私達に黙って、一人で来るなんてひどいよユウちゃん」

「そうだぞ?あれだけやったのに、隠し事かよ?」


 ニコニコニコちゃん。

 二人の笑顔がやけに怖い、これには私も引き攣った笑みしか出せません!


「か、隠し事っていうか…!そのさぁ」


 親しき中でも言えないことは必ずある。

 というより、こればかりは二人に言っていいものなのか?と疑問を浮かべる。

 私には今、大きな異変が身体に起こっていた。


 それは人間とはかけ離れた動物的な特徴。

 明らかに異形へとなりつつある自分に見られたくないと二人に願うけど。

 好奇心に囚われた二人になすすべもなく、制服を丁寧に脱がされていく…。


「ほ、本当にっ!やめてって!!」

「まぁまぁ」

「ちょっと見るだけじゃーん」


 わくわくわく、目を輝かせて二人の手はスカートに手を伸ばすと…。


 ぴょこり!と可愛げのある尻尾が飛び出してきた。


「だ、だからやめてって言ったのにぃぃ!」


 それは悪魔の尻尾。

 お姉さんと違って、まだ弱々しくてへなへなで可愛らしいその尻尾は確かに悪魔へと近づいている証拠だった。

 驚く二人の背後でお姉さんは楽しげに笑ってる。


 お姉さん曰く、身体は正直。

 サキュバスは一定の精力を吸うと身体に特徴が現れる、つまりは…。


「か、かわいいよ…ユウちゃん!」

「うん…すごくかわいい!」

「だから見ないでぇ〜!!」


 人間をやめつつあるということだ。

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