8話 3人で


 それはとろける蜜のように甘くて、どろりとしていて、思わず笑みがこぼれてしまうほどあま〜い愛。

 その蜜は、私が食べてきたどんな甘味を比べても、この愛には敵わない。


 嗚呼。なんて甘くて、美しくて、綺麗で…美味しいのだろう。


 その美味に思わず背筋をピンと張って、肩を震わせながら恍惚の笑みを浮かべる。

 私は舌を舐めずり、二人のとろんとした眼差しに気付くと、もっと味わうように交互に口付けをした。


 chu♡と音が弾けると、二人の表情はふにゃりと幸せそうに微笑んだ。

 そのふにゃけた二人を見て、私も思わずくすりと笑う。

 どうしてこんなに可愛いの?と心臓がキュンキュンと鼓動を打って、再度愛でようとした矢先に…。


 学校のチャイムが邪魔をするように私の食事会の終わりを告げてきた。


「…………そっか」

 もう終わりか、とスマホを見て時間を確認する。

 気が付けば昼休みの終わりを超えて、5時限目の終わりまで行為に耽っていたようだ。


 私はそれに対して、時間って流れるの早いんだなぁってどこか他人事になってそう思う。


 私は、はぁ…と溜息を吐くと。

 さっきまでの食事を思い出しながら、舌を転がした。



 妖しく、くぐもった嬌声が空き教室に響いた。


「あっ…んぅっ、あぁ!」

 苦しそうな声が廊下に流れている。

 しかし、廊下には誰一人として気配はない。

 それを三人は分かっているのか、次第に声の音量が上がっていく。

 一つ一つ、枷が外れていくみたいに。


「も、もっと…ゆうちゃんっ、キスしてぇっ!」

 快楽に悶えながら、キスを懇願するハナ。

 その下では黒瀬が邪魔をするように陰部を舐めていた。

 

 私達三人は気が付けば夢中になっていた。

 ハナと黒瀬はあれだけ睨み合っていたのに、今では二人とも虜になっている。


 私はと言うと、少しだけ残っていた理性が邪魔をしていた。


(どうしてこんなことしてるんだっけ…)


 朧げでふらふらと、夢と現の狭間で私の思考はぐるぐると回り回る。


 まず、私に二択が現れた。

 黒瀬とハナ、どっちを選びますか?という究極の二択問題。


 私はこの二択に悩んだ。

 そして、悩みに悩んだ末に爆発を起こした私は。吹っ切れたみたいに笑みをこぼすと。


 私は両方を取ることにした。


 だって二人とも美味しそうなんだから、一つだけはダメだよ、と。

 片方しか味わえない料理なんて、それは生殺しだと怒りが湧いて来る。


 だからこそ私は。

 きのことたけのこの争いを知らない子供みたいに、満面の笑みを浮かべて口を広げるんだ。


 やっぱり、二択はダメだよ。

 何事も一緒に食べて、味わなきゃ…。


「そ、そこ…イイ、いいよ!く、ろせぇっん!」

 ぴちゃぴちゃと溢れる、雨音とは違ういやらしい水音。

 快楽の波が全身を襲い、びくびくと打ち上げられた魚みたいに身体が跳ねた。


 それと同時に、私の中にぽっかりと空いていた穴が少しだけ埋まった。

 際限の無い、飢えという大穴が。

 けど、埋まる度に大穴が呻く。


 もっと、もっとちょうだいって急かすように飢えが襲いかかる。

 だから私は食べるように二人を貪る。


 キスをしたり、汗を舐めたり、胸を揉んだり、身体の至る所を触れたり、アソコを舐めたり、指を入れたり…。


 指を入れるとキュッて締め付けられて、すごくエッチだった。

 汗を舐めるのは私はすごく美味しくて、ずっと舐めていたかったけど…流石にそれはダメだと二人に怒られた。

 胸を揉むのはやっぱり楽しい、ふにふにと柔らかくて、丸いその双丘は触れるだけで気持ちがいい。

 特に、先端の突起はつまむとビクンッて跳ねるから、その反応を見て思わず可愛いって微笑んでしまう…。


 ああ、本当に。

 気持ちよくて、美味しくて…。

 

「おかしくなりそう…」

「…ユウちゃん、まさか疲れたの?」

「言っておくけど、私達まだイケるからね?」


 私の独り言が聞こえていたのか、二人の顔が私の顔を覗き込む。

 視界いっぱいに映り込む美少女の裸体に、きゅんって心臓が跳ねた。


「あれ?興奮した?」

 ニタニタと意地悪な笑みを浮かべる黒瀬。


「黒瀬がえっちなんだから仕方ないじゃん…てか、黒瀬って初めてなんだね。すっごいイッてて気持ちよさそうだったよ?」

「〜ッ!あ、あれは二人同時に!!」

 あの時の黒瀬は可愛かったなぁ〜って思い浮かべた途端に、間を破るようにハナが割って入る。


「あなたはもう疲れたんじゃなくて?ここからは私達二人でヤるから…もういいですよ?」

「…は?まだいけるんだけど?」

「ま、まぁまぁ!!」


 ふ、二人は相変わらずだなぁ……。

 そういえば…。


(だいぶ溜まってきた気がする…)

 さっきまで襲い掛かっていた飢えが、大分収まってきている事にふと気付く。

 それでも、溜まってきてるだけであって満腹感には程遠いので、自分の胃袋はどれだけ大きいんだと自覚して苦笑を浮かべる。


(今日の帰り、お姉さんに色々聞かないとなぁ…)

 今頃お姉さんはなにしてんのだろう?

 私に呪いを掛けた張本人は私の苦労も知らずにAVでも観てるんだろうか?


 ああ、そう考えると苛々してきたなぁ。

 一発でも蹴りいれても大丈夫だろうか?


「…ユウちゃん?」

「ん、あっごめん…!考え事してたっ!」

「それで?どうする?まだ…ヤる?」

 ぺろりと舌を舐めずるハナ。

 上目遣いで裸のまま二人は私にじりじりと近付いてくる。

 

 私は…。

 

「…う、うん。もう少しやろっか!」

 時間もあるんだしっ!

 そう言い聞かせて、淫らに快楽に溺れる。

 二人の身体を舐めたり、吸ったり、絡めたり…。

 永遠に近い、けど短い甘い快楽の時間を過ごしてる間にお昼の終わりを告げるチャイムが鳴るけれど。

 私達は気付かずに、お互いの身体を重ね続けた…。


 そして冒頭に戻る。

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