7話 しゅらば


 保健室でキスをしたあと、お腹が溜まった私はたちまち元気を取り戻すと授業へと復帰した。

 そして、時間は刻々と進んで行くが、やはりあれだけでは満足していなかったのか、すぐにお腹は唸りをあげはじめた。

 そんな唸りが教室に響き渡って私は笑い者になったのは恥ずかしい思い出だけど…。


 黒瀬だけは、この先に起こる事が楽しみという感じでワクワクを抑えるように笑みを溢していた。



 昼休みになると、クラスメイト達は弁当を取り出したり、食堂や購買へと足を運んでゆく。

 私はそんなクラスメイト達を羨むと同時に、飢えが急かすように襲ってきて苦悶の表情を浮かべる。


 やっぱり、あれだけじゃ足りないんだ…。


 ホント、私ってば高燃費すぎでしょ。

 自虐気味に薄ら笑いを浮かべながら、私の目の前にいる黒瀬との視線を交わす。

 

 お腹、空いてるんでしょ?

 言葉を発さずとも、そう言ってるのがなんとなく分かった。

 私は重々しげに首を縦に振ると、黒瀬はクスリとと微笑む。そして、なぜか顔を廊下の方へと向けた。


「あ…」

 黒瀬の視線の先には、ハナがいた。

「悪いけど、コイツは私と昼食なんで」

 挑発するように、ニヤリと笑う黒瀬。

「……誰?その女」

 対してハナは、圧を放ちながら笑顔で私に目線を向ける。


 こわいこわいこわいこわいっ!!



「…そう、この人にも言ったんだユウちゃんの秘密」

「うん…正直、あの時黒瀬に助けて貰わなかったら死んでたかも…」

 ハナに事情を説明した私達は、人目の付かない所へと移動して、三階の空き教室へとやって来ていた。


「その…」

 ごめん。

 謝罪の言葉を発しようとした時、唇にそっと指を添えられる。

「謝らなくていいよ?ユウちゃんにとっては仕方のない事だから…でも」

 でも、そう言ってハナは黒瀬の方へ顔を向ける。

「あなたはもうユウちゃんに近寄らなくていいですよ?邪魔ですので」

「あ"?」

「ひぃっ!」

 バチバチッ!と電流が走る。

 まるで虎と龍、きのことたけのこ!!

 敵意と敵意のぶつかり合いに私は思わず悲鳴が漏れる。


「悪いけど、私はユウをオトすつもりだから悪く思わないでよね?」

「は?私とユウちゃんの愛は誰にも引き裂かれないんですけど?」

 ひ、ひぃぃぃ…。

 まるで台風と地震が両方襲ってくるような、そんな修羅場が目の前で広がっている!

 これは止めるべきなんだろうけど……。

 これ私が原因だし、火に油を注ぐようなものなのではないだろうか?


 そんな風にあたふたしてる私だったけれど、二人はすぐに矛を収めると、私を見てふふんっと鼻息を荒げた。


「じゃあユウちゃんに選んでもらいましょう!」

「どっちが相応しいのかをね!」

 バッ!と二人は私を見つめる。

 え、いや、そんな突然選べなんて言われても!?


 そんな、好きな子を選ぶんじゃ!みたいな展開私には選べないんですが!?

 あたふたしながらも二人は私を選べ!と言わんばかりに顔を近付ける…。


「え、あと…そのぉ」

 どっちを選ぶ?って言われても…。


 ハナちゃんは大人しめで清楚な女の子だけど、私とエッチなことを重ねてるだけあってすごく上手いし…。

 いや、エッチなこと以外にも物事を私優先にしてくれることがすごく嬉しいし、笑った笑顔も素敵だし…。あ、でも愛が深すぎてたまに困惑しちゃう時があるなぁ…。

 でもそれが凄く可愛くて、私ってすごく愛されてるんだなぁって実感するんだよね。

 というか私のこと好きすぎだよね、あーだめだめだめだめっ!ハナの事考えてたらお腹減って来た!!

 

 黒瀬は、前までいじめて来たこともあって多少抵抗はある。でも、それが好意の裏返しだと気付いた時、私はすごくキュンときちゃったなぁ…。まぁ私ツンデレみたいに好意の裏返しが大好きだからね、仕方ない。

 あと、さっき黒瀬とキスした時すごく気持ちよかったなぁ…。

 強引でがつがつ来る感じと愛情の深さがすごく美味しくて……いやいやいや、そうじゃなくて!!ていうか黒瀬ってザ・ギャルって感じだよね、あの小麦色の肌は凄く健康的だ!

 まぁ、昔のこともあるけど…好意を向けてくれてる事がすごくうれしいなぁ…!


 だめだ…思考がサキュバスになりかけてる、気を持て私!!

 ぱしんっ!と頬を叩く…だけど。


 あーだめだ、お腹が減って来た。

 というか思考が止められない!

 とめどなく溢れる思考が脳内麻薬みたいにびしょびしょと飛び出してくる。

 それに…。


「すごく、お腹空いた…」

 考えれば考えるほど、二人は可愛いっていうか…美少女っていうか!!


「やっぱり、どっちがいいかなんて選べないよ…」

 優柔不断。

 こういう時、昔から一緒に居たハナを選ぶべきなんだろう…でも、好意を向けられてると無碍には出来ないというのが本音だ。


 だからこそ、私はこれからとんでもない事を言うのだ。

 それは、空腹によるせいなのか、はたまた脳までサキュバスになってしまったのか分からない。

 次に私は…。


「だから、私達三人でえっちしよう?」

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