2話 なりませんから!


「あなたをサキュバスにするためなのよ!」

 お姉さんは私を指差して、声を高らかにそう言った。

「……は?」

 唐突すぎて意味がわからない。

 首を傾げて頭にはてなマークを浮かべながら、人外のお姉さんを睨みつける。

 けど、お姉さんは睨みつけてもどこ吹く風と言わんばかりにひょうひょうとしていて、私を無視して説明を始めた。


「私達サキュバスはね、大昔に掛けられた呪いせいで繁殖が出来なくなったのよ」

「増えることが出来ないなら生物として終わり、絶滅待ったなしの状況で同胞を増やす方法が一つだけあったの、それはね?」

 お姉さんは私を見つめて、クスッと微笑んだ。

「あなたのような素質のある人間をサキュバスに変えること…ってね?」

「…つ、つまり私をサキュバスに変えようって事ですか?」

「せいか〜い!」

 答えを言うとお姉さんは笑いながら拍手を送る、けどそんな拍手を貰っても嬉しくはなく。私は奥歯を噛みながら叫ぶように言った。

「私はサキュバスになんかなりませんから!!」

 と。

 そんなの、なりたくないに決まってる!

 サキュバスと言えば淫らで人を堕落させる悪魔!私がそんなのになるなんて絶対ぜーーったいイヤ!!!

 だけど、お姉さんは不敵に笑った。

 心の内を読むように…。

「友達にあんなことやこんなことをしてたのに?」

「うっ…あれはお姉さんに言われたからで!」

「でもあなたも楽しそうにしてたけど?」

 ああ言えばこう言ってぇ!!


「だから!私はサキュバスになんて!絶対なりませんから!」

 声を上げて宣言する。しかし、お姉さんは大きく溜息を吐くと右腕を私にかざす。

「じゃあ仕方ないわね…」

 残念そうな表情でそう言うと、腕は紫色に淡く光った。

 その光は次第にボール状にと形を変えていき、勢いよく私の方へと飛んだ。

 上へと飛んで屋根に当たると反射するように私に向けて飛び込んでくる…!

 そのスピードに驚いて、私は咄嗟に両腕でガードをした…けど、その紫色の光球は腕をすり抜けると私の体の中へと溶けるように入っていった。


「え、はぁっ!?な、なにしたんです!!」

「呪いを掛けたのよ」

「の、呪いっ!?」

「ええ、搾性の呪い…サキュバス同様相手の性欲を摂取しない限り生きることすら出来なくなる呪い…要するに疑似サキュバスってところね!」

「は、はぁあああああ!?」

 な、なんて呪いを掛けてくれたんだこの人は!

「じ、実力行使とか最低!!」

「だって、悪魔だもん」

「そうだった!」

「さて、じゃあお話…聞いてもらえるかな?」

 お姉さんは顔を近付けると笑顔のままそう言った。

 呪いを掛けられた今、私は拒むことすら出来ないわけで…。

 諦め半分と怒り半分のまま、糸が切れたようにコクリと頷いた。

「わ、わかりました…」

「うん、よろしい!」



「さっきも言った通り、私達は呪いを掛けられていて繁殖が出来ないの」

「それで素質のある人を選んでサキュバスにするって言ってましたけど…なんで私なんですか」

 そう、なんで私?

 お姉さんのいう素質のある人間って言われても、私にそんな素質なんてあるわけない。そもそもあってもなりたくないし!

「それはユウちゃんがえっちだからよ」

「…は?」

「だってそうでしょ?隣のお姉さんに唆されたとはいえ、色んな女の子にえっちなコトを疑いもなくしてきたんだから素質アリアリに決まってるじゃん?」

「いや、まぁ…確かにそうですけど!でも素質とかないですって!!」

「そう?すっごくあるからこそユウちゃんはサキュバス似合うと思うんだけどなぁ…」

 否定する私が面白くないのか、口を尖らせて頬を膨らませる。

 私はというと、そんな素質があってもサキュバスにはなりたくないですけどね!と心の内で文句を垂れる。

 だってサキュバスってあれじゃない…。

 お、男の人とえっちなことしたりするんでしょ!?

「ああ、そういうのは別にしなくてもいいよ?女の子でも性欲は取れちゃうからね」

「え?そうなんですか?……って、なんでさっきから私の考えてることが分かるんですか!」

 まるで思考を読んでるかのように言ってくるお姉さんに恐怖が沸いてくる。

 一歩後ずりながら聞いてみると、お姉さんはふふんっと自慢げに説明してくれた。

「サキュバスの能力が一つね!」

「の、能力?」

「相手の心を読むと言うより、えっちな事を考えている時だけに相手の心を読むことが出来るの!さっきの場合、ユウちゃんが男の人とヤってる事を想像したからね!」

「そ、想像してません!!」

「まぁ、他にも能力はあるのだけど…先に今後の事を話しましょうか」

 パンっ!と手のひらを叩いて、お姉さんの表情が鋭く、真面目な顔になった。

 その視線のまま、お姉さんは私を見つめて言った。

「あなたに掛けた呪いはね、2年経てば消えるように出来てるの」

 2年…じゃあ2年間耐えれば…!

「でも、2年間我慢するなんて無理よ、だって身体はサキュバス同様なのだから性欲を摂取しないと生きていけない」

「だから2年間だけサキュバス見習いとして生きてほしいの、そして2年経ってもう一度答えを聞かせて欲しい」

「……つまり、2年後にサキュバスになるかならないかを決めろって事ですよね?」

「そうよ」

 ……なるほど。

 これは私の勝ちですね!!

 なんて言ったって私はサキュバスになんか絶対、ぜーーったいならないから!!

「言っておきますけど、絶対なる気はありませんから!」

 勝利を確信した私はニヤリと口角を歪めて、お姉さんに完全勝利宣言をした。


 そして、ここから始まる私のサキュバス見習いとしての生活…。

 けど、勝利を確信していた私はまだ知らない、ここから色んな女の子とえっちなことをする事になるなんて。


 今はまだ思いもしなかった。

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