【7月8日 ちいさな窓のあと】
アラームが鳴り、苺依の日常が始まる。布団にくるまりながら、手元にある塚本からのメッセージに「おはよ」と返して微笑んだ。
つい先日の出来事は夢のようなことであった。その日のうちに塚本に身体を預けてしまえた自分も驚きだが、それよりもぬくもりを求めていたことがありありと分かった。最中、塚本は耳元で何度も小さな声で苺依と呼んでくれた。自分の鳴き声で掻き消されることのないようにと。それが聞こえるたびにもっと、もっとと強くと求めてしまった。塚本は優しく苺依を包んでくれて、事が果てた後も横にずっと居てくれた。あの時の枕元で聴いた塚本の声や、お風呂上がりの石鹸のにおい、鼻をすする癖や、髪を撫でてくれる仕草など、ひとつひとつが苺依の心に焼きついた。終わった後に、シーツで隠した裸の肌を二人で何度も触り合った。楽しく戯れていたら、そのままもう一度濡れ合って深く眠ってしまった。
あれから、自分の独りの部屋がまるで違うような場所に感じられた。スマートフォンに夜には塚本からの「おやすみ」が、朝になれば「おはよ」が入るようになり、帰れば「おかえり」とやり取りする。1人の時間ではない時を過ごす家に変わったような気がした。
今日の塚本からの「声」を握りしめたまま、キッチンに行き冷蔵庫に冷やしていたお茶を飲む。テーブルにスマートフォンを置き、ベランダのカーテンを開けて、昨日の洗濯物を取り入れた。
今日は快晴のせいか、空がとおくまで青かった。午前6時だが、この時期は随分と陽が地平線から離れているせいで、白くて淡い朝になっていた。苺依は伸びをして、いつもの通り室外機の上のストレリチアに水をやる。良く見ると一枚の葉が黄色くなりかけていたので摘み取ってあげた。
ベランダから戻ると、塚本からの追加のメッセージが届いていた。
「明日か、明後日の夜に逢える?」
塚本との夜の約束が決まった。
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