【6月30日 雨のあと】
南北に長い梅雨前線は長雨の傘を日本の本州全体にかけていた。日本は豊饒な自然で覆われている。それらに新しい命を芽吹かせて、きれいな水を産み出すのはこの梅雨のおかげでもあった。恵みの季節が間もなく終わろうとしている。テレビでガタイの良い天気予報士が高らかに来週には梅雨明け宣言でしょうと言った朝であった。
間も無く迎える真夏に向けて、気の早い羽化したセミたちがそろりそろりと鳴き始めていた。営みを求めて、まだまだ早いその声は誰にも届かないであろう。朝の静けさの中、一匹分の孤独が周りに反響していた。
軽い布団を身体に巻き付けたまま苺依は眠りの中にいた。珍しくスマートフォンを握りしめたままの寝姿であった。昨日の雨の夜、塚本から思わぬLINEが入ったせいであろう。やりとり中に体の中心部が温まり、そこに血が集まっていくことが苺依には分かった。塚本からのメッセージは、眠ってしまえば手がから離れてしまう。そんなものかもしれないと、だからこそ抱いて寝むりにつきたいと願ったのだろう。
「あなたにも必要だったのよ。梅雨のような季節が」
深い眠りを見守りながら、その人がそう言っていた。
湿気がほんのり乗った朝。プランターのストレリチアはいつもよりも重たい葉を垂らしていた。上空の高いところに、白い斑点模様の雲が浮いていた。すかしたようにその後ろに見える青い空が綺麗に彩っていた。
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