第7話 東の果ての辺境伯領

 領都が近づいて来たところで地上に降りる。今回は夜ではなく夕方の到着だ。開拓村のときと同じように、人目につかないように注意しなければならない。さもなければカビルンバにまた怒られる。おお怖い。


「人を恐怖の大王みたいに言うのはやめてもらえませんかね?」

「おっと、声に出てた? それよりも、また妙なトラブルに巻き込まれないだろうな」

「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。トラブルを引き寄せているのはレオ様でしょう?」

「いいや、カビルンバだね」


 お互いにこれまでの罪をなすりつけ合いながら門へと到着する。さすがは領都なだけあって、周囲は石を積み上げて作られた壁に覆われていた。破損している箇所が何カ所もあるところを見ると、どうやら相当古い時代から存在するもののようである。もちろんキッチリと入場料を取られた。


「カビルンバ、早いところ錬金術ギルドで身分証明をもらおう」

「そうしたいところですが、先に宿を探した方が良いですね。領都から出なければ追加でお金は取られません。ですが宿がなかったら……」

「そうだな。そうしよう。一番良い宿屋を頼む」


 何言ってるんだこいつ、みたいな顔でカビルンバがニッコリとほほ笑んだ。


「お金が足りませんね」

「そんなに高いの!?」

「腐ってもカビても領都ですからね。高級宿もありますよ」

「それじゃ、カビルンバ一押しの宿屋を頼む」

「お任せ下さい」


 ほほ笑むカビルンバ。どうやらカビルンバは頼られる方が好きなようである。優秀な部下はうまく使わないとね。これ、上に立つ者の鉄則。カビルンバの道案内に従って領都の中を進んで行った。


「にぎやかだな。東の果ての辺境伯領なのだろう? 正直なところ、もっと寂れているかと思ったよ」

「ここから先にはまだまだ未開の地がありますからね。レアなモンスターや素材を求めて、人が集まるのですよ。開拓村は失敗したみたいですが」

「残念な出来事だったよね」


 どうもあの辺りのモンスターは枯れてしまっているようだった。そしてそのできた隙間にブラックベアーが生息範囲をねじ込んできた。お隣さんがブラックベアーの家族になった開拓村は予定よりも早く撤退することになってしまった。


 モンスターが枯れる、か。どうやら創造主様の恵みとやらも限界が来ているようだな。これからは創造主から自立して、自分たちの足で歩きなさいと言うことかな? だが、もしモンスターの素材が完全になくなってしまったら、まともなアイテムが作れなくなるぞ。それはそれで問題になりそうだ。


「どうしたんですか、レオ様? そんな真面目そうな顔をして」

「いや、真面目に考えているんですけど。もしかして、モンスターがいなくなっているのかなーって」

「……レオ様が変なフラグを立てるからですよ」

「ちょ、待てよ!」


 これには遺憾の意を表したい。なぜなら開拓村の周辺のモンスターが枯れ始めたのは復活する前からだ。それなら私の仕業ではない。

 そう力説する私にカビルンバに「ハイハイ」みたいな投げやりな態度を返された。ぐぬぬ。今に見ていろ。私のせいではないことを証明してやるからな。


「見えて来ましたよ。宿屋ルンルンです」

「何だか楽しそうな宿だな」


 見た感じ老舗の宿のようであり、対応も落ち着いたものだった。自分たち以外にも客は入っており、寂れてはいないようである。宿代はそれなりのようであり、お金を持っていそうな商人の服をした人たちもいた。


 案内された部屋にはベッドが二つあり、テーブルとイスが置いてある。窓が一つあり、その近くには机とキャビネットが備え付けられていた。木と石で作られた宿はそれなりの耐久性を持っていそうである。


「さすがはカビルンバ。なかなか良い宿だな」

「ありがとうございます。有料ですがお風呂もありますよ」

「至れり尽くせりだな。無事に宿を取ることもできたし、錬金術ギルドへ行くとしよう」

「それが、そろそろ閉店の時間みたいですね」


 窓の外では夕日が沈みつつあった。もうそんな時間か。仕方がない。錬金術ギルドへの登録は明日にしよう。それならそれで、他にやることがある。


「それじゃ、回復ポーションを売りに行くとしよう。そのついでにマジックバッグの素材探しだ。今のままじゃ、手持ちのポーションがなくならなければ次が作れないからな」

「分かりました。まずは錬金術アイテムを売れるお店に案内しますよ」

「頼りにしているぞ」


 宿屋の店主に出かけることを告げてから外に出る。大通りに出ると色んな人種が行き交っていた。右を見ても左を見ても平和そのものである。その光景をボンヤリと見ながら前を見て進んで行く。


 百年前に私がやったことは間違いだったのだろうか? 間違いだったのだろうな。私はただ、魔族が平和に暮らせる世界を望んだだけなのに。人間とは分かり合えないと友は言っていた。だが、どうやらそんなことはなかったようである。


「ここでなら錬金術アイテムを売ることができますよ。一応、錬金術素材も売っているみたいなので……どうかしましたか?」

「いや、何でもないよ。売値はカビルンバに任せた」

「前回と同じ値段で大丈夫ですよ。一緒に解毒ポーションも売っておきましょう。ここなら需要が多いでしょうからね」


 解毒ポーションはあまり使われる機会がないようで、一つ前の町では在庫がまだあるからと言われて売れなかった。しかしどうやら、ここでは売れるようである。人が多いから使われる頻度も高いのかな?


「この領都には冒険者ギルドがあるのですよ。つまり、冒険者もそれなりの数が集まって来ます。そうなると、その冒険者が消費するポーションが大量に必要になるわけです。その中には当然、解毒ポーションもあるということですよ」

「なるほど」


 疑問が顔に出ていたのか、カビルンバがそう説明してくれた。冒険者ギルドがあるのか。一度行ってみたいものだな。

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